第218話 戦慄! ○×%☆$!!!
彼女が話をしている間、グスタフはずっと向こうの席にいた。
「ひょっとして」俺は言った。「グスタフ氏には、ご自分のことを……」
「……はい。話していません。里の人たちにも。スピットファイアちゃんは『ウォッチタワーと仲間たちも貴様と同じ転生者だ』って言ってたんですが、里の長にはそこだけ話しませんでした……」
アールフォーさんは、ただ妖精王のお告げだからということで、グスタフが付けられたと話した。
「ねえ。本当の名前は何ての? オレ、御前偉流って言うんだ」
パンジャンドラムがそう言った。ウォッチタワーも前世の名を名乗る。
俺は黙っていた。アールフォーさんは目を伏せた。
「……それは……あの……言わなきゃ、ダメでしょうか……?」
パンジャンドラムはウォッチタワーと顔を見合わせたが、すぐに向き直り、
「いやあ、いいんだ! あんまり関係ないよね! ロス君だって名乗ってないし! 今言ったのは忘れて」
手を振って打ち消した。アールフォーさんはにっこりと微笑んだが、どことなくぎこちないものに俺には見えた。
いずれにせよ、アールフォーさんは俺の方を見ながら尋ねてきた。
「それで、あの……私、とりあえず帝国まではきてみたんですが……これから何をすればいいんです?」
「実は、転生者全員でゴースラント大陸というところへいくことになっている」
俺はこれまでに起こったこと、スピットファイアに伝えられた事柄をかいつまんで話した。
世界の終わりが近づいているが、ゴースラントに異世界から脱出する方法が存在している。だから全ての転生者を集めてゴースラントへ向かえと言われたことをだ。
「そういうことなんだよ」パンジャンドラムが言った。「オレたち、帰れるんだってさ」
その時、アールフォーさんは遠くの席にいるグスタフに目をやった。
5秒ぐらいはそうしていたように思う。何も言わず、ただテーブルの接ぎ木の溝を爪でほじくっているグスタフを見つめていた。
「……アールフォーさん?」
「は、はいっ! あっ……何でしょう……?」
「まあそういうわけで、俺たちもこのオルタネティカにいるわけだが……スピットファイアは他には何も?」
首をかしげたアールフォーさん。
「スピットファイアと別れる時、奴は2人の転生者を探しにいくと言っていた。別の場所にも2人いるが、そちらはここにはいない俺たちの仲間がもう見つけて、こちらに向かっていると連絡があった。だがスピットファイアと会ったのは……」
「あ……私だけです。エルフの里にきたのはスピットファイアちゃんだけで……」
彼女はそこまで言うと、こめかみに指を当てて何かを考え込むような仕草をした。
「そう言えば……」
「何だろう?」
「スピットファイアちゃん、もう1人この辺り……幽明の森ですけど、いるはずだけど見失った、探しておくから先に帝国へいけって言ってましたね……」
俺はガスンバでのことを思い出してみた。
スピットファイアの話によればだ。残りの転生者の数は、南の魔族軍に4人。ハルが向かった西に2人。そして最後の2人はスピットファイアが自分で探しにいくとのことだった。
スピットファイアがどうやって転生者を認識、追跡しているのかはさっぱりわからないが、現にアールフォーさんがここまでたどり着けたというのなら、もう1人の方も時間の問題だろう。
ハルが向かった西の2人もすでに行動を起こしている。
「では残るは魔族軍の4人だけというところか」
「え?」
「スピットファイアは転生者の総数を把握していた。幽明の森のもう1人を除けば、あとの4人が南にいる」
「えっと、あの……どういう状況なんでしょうか……魔族って……?」
今度は現時点で我々が置かれている状況について説明することになった。
アレクシスのことだ。転生者とわかったのはいいが、テロリストの嫌疑をかけられ、騎士団の砦で不要不急の外出を控えている状態だと。
その件が片付かないと、アレクシスは暴力によって帝国を脱しゴースラントへいかなければならない。そして第一、世界の終わりと転生者とゴースラントの関連について、またアレクシスと話せていない状態だということ。
「え……その、アレクシスさんという方……本当にそんな恐ろしいことを……? エンシェントドラゴンは里に出たことあったので見たことがありますけど……」
「……そのドラゴンは……」
「……わ、私が、その……やっつけはしました……」
アールフォーさんは顔を赤らめうつむいた。
パンジャンドラムが言った。
「まだどうなのかわかんないんだってさ。何でもアレクシスさんとモメてた貴族がいてそいつが内乱を起こそうとしてたんだけど、自白魔法っていうので無理やり吐かせたらドラゴンがなんちゃら言い始めたらしくって」
「えっ、ならクロ、じゃないんですか……?」
「うーん……ロス君さあ、皇帝の寝室までいったわけじゃん? 本人はどう言ってたの?」
「そんな会話自体できる状況じゃなかったな……彼女はあのあと男子禁制の体制を敷いてしまったし、面会も謝絶だ」
「じゃあよぉ」ウォッチタワーが言った。「やっぱり、あの女男……」
アールフォーさんが再び首をかしげた。
そう言えばまだヌルチートと転生者の話をしていなかった。アレクシスの前世と現世の落差の話もしていない。
だが長い耳を持つエルフの転生者アールフォーさんは、ウォッチタワーの言った女男という部分に対する疑問は口にしなかった。
代わりに別のことを言った。
「自白魔法、っておっしゃいましたっけ?」
「ああ、そうだ。口の硬い奴に無理やり自白させる魔法だそうだ」
「エルフの里にも同じものがあります……」
するとアールフォーさんはグスタフの方を一瞬チラリと見たあと、我々に向かって、
「あの、彼には私のこと……転生者ということは秘密に……」
俺たちがうなずくと、彼女はグスタフを呼んだ。
こちらにやってきて「お話終わったのかい?」と言うグスタフに、
「ねえグスタフさん。話したくないことを話させる魔法ってあったわよね?」
「んああ、○×%☆$(耳慣れない発音で聞き取れなかった)だろ? それが?」
「たしか……○×%☆$に対するアンチマジックがなかったかしら?」
グスタフは天井を見上げて、思い出すようにしながら、
「あー……あれか。自白魔法をかけられると、全然別のことを答えるようになる呪いか。ありはするね。喋って欲しくない人物が自白を迫られた時に備えてかける、トラップ魔法」
アールフォーさんは俺たちの方を見た。
俺たちが顔を見合わせあっていると、グスタフが言った。
「……でもあれは……うちじゃなくてダークエルフの呪術だよ。どうかしたのかい?」




