第216話 妖精王の導き
「チクショォ〜ッ! 離しやがれッ! 俺は魔族軍と戦うためにきてやった義勇軍だぞーッ!」
衛兵によって後ろ手に拘束されたチンピラ3人はもぞもぞ蠢きながら叫んでいた。
衛兵のリーダーらしき男が、冒険者ギルドの緑髪受付嬢のもとへいき何か話をしていた。
「はい……はい……そうです……最初にあの男の人たちが、エルフの女性にちょっかいをかけてて……それで男性のエルフの方が止めようとして……」
「揉め事になった、と……」
リーダーはクリップボード的な板に乗せた書類に何か書き込んでいる。
「うおーッ! 離せーッ! 俺は、俺はあの女に暴力を振るわれたぞーッ! 怪我したーッ! 訴えてやるーッ!」
女性エルフに投げ飛ばされたチンピラはまだ喚いていた。
「オルタネティカにだって法律っつーもんがあるはずだぜェ〜ッ! 俺は被害者だッ! ボーリョクを振るわれたんだッ!」
女性エルフは他人の通行の邪魔にならないようにか歩道の脇に立っていたが、ただでさえ抜けるような白い肌をした顔をさらに真っ青にさせていた。
「そ、そんな……ただ私は……」
「変なことを言うな!」男性エルフが言った。「彼女は身を守ろうとしただけだ! 君の方こそ、僕を殴ったじゃあないか!」
スキンヘッドは言った。
「あ〜ん? 俺はそんなことしてない〜? 誰かそんなことしてるところ見たか〜? おまえら見た〜?」
「いや〜? 俺は見てない〜?」
「俺も〜? 見てませんけど〜?」
「そいつらはみんな君の仲間だろう!」
「うるせえ〜! 俺は知ってるぜぇ〜、オルタネティカの法律は厳しいんだッ! たっぷり慰謝料をふんだくってやるぜェ〜!」
スキンヘッドが喚くなか、衛兵リーダーはそちらをチラリと見たあとため息をついた。それから、俺たちの方へやってきた。
「あの、失礼。あなた方は、今の騒ぎをご覧になっていたんですよね?」
俺は答えた。
「ええまあ」
「それでは……あちらの女性が、あの男に暴力を振るったところも見てました?」
「ええまあ」
スキンヘッドが「ほら見ろ!」と叫んだ。
パンジャンドラムが言った。
「いやあでも、あいつらがあの女の人をさらおうとしてたから……」
「いや〜? 俺そんなことしてない〜?」
衛兵リーダーはまたスキンヘッドをチラリと見て舌打ちしつつ、俺たちの方へ
「うーん……あなた方はオルタネティカの方?」
「いえ。外国からきました」
「むー……あちらのエルフさんもそうです。この国には暴力行為は厳しく罰する法律があります……正当防衛だとは思うのですが……」
立証できないことには。彼はそう呟いた。
その時、チンピラの1人を押さえるのに協力していたウォッチタワーが唐突に言った。
「でも凶器でその人を脅してたぜ、こいつら」
スキンヘッドがぽかんとした顔になった。仲間のチンピラもだ。
「はあ⁉︎ ふざけんな、俺たち凶器なんて持ってねえ!」
「武器は持ってるが、こりゃちゃんと携帯許可証をもらってるって!」
「街中でこんな長物で脅したりなんかするわけねーだろ!」
見れば彼らはハンマーや剣を持っている。そしてたしかに、彼らは別にその武器で女性エルフを脅していたわけではない。
ウォッチタワーの右腕が素早い動きのためスッと消えた。
《ウォッチタワーは悪役転生のスキルを発動しています》
彼は言った。
「念のため身体検査してみちゃどうだい?」
衛兵たちは言われたとおり3人の検査を開始する。
「あったッ! 金属製の道具だ!」
衛兵はスキンヘッドのポケットから何かを取り出し、これ見よがしに掲げた。
栓抜きだった。
「このやろう、どんな道具かはわからんがこんな恐ろしい凶器でか弱い女性を脅していたのか!!!」
「えっ!?!? 俺そんなの持ってな……え、何それ⁉︎ 何でそんな物が俺のポケットから……⁉︎」
「ふてえ野郎だ、財産没収の上国外追放だ! こいっ!」
「え、なんで、なんで、なんで!?!?」
衛兵に引っ立てられていくスキンヘッドをはじめとしたチンピラたち。
リーダーが俺に言った。
「落ち度は奴らにあったようですね」
「髪がないと追い詰められてああいう凶行に走る。奴は病んだ現代社会の犠牲者さ」
「ご協力感謝します。それではこれで」
リーダーはエルフの2人にも無罪放免の旨を伝えると立ち去っていった。去り際に、
「最近外国人が増えてこんなことばかりだ……」
との呟きを残して。
パンジャンドラムとウォッチタワーが俺のそばへやってきた。俺はウォッチタワーにいった。
「変わったスキルだな」
「役に立たなさそうな道具を呼び出せるスキルさ。パイプ椅子も出せるから疲れた時は便利だけどよ。ただ栓抜きが使えそうな瓶を見たことがねえのが問題だな」
そんな話をしていると、2人のエルフが近づいてくる。
「ありがとう。助かったよ。何とお礼を言えばいいか……あのままじゃ僕たちは2人とも、捕まるところだったかも知れなかった」
「大変だったねえ。ここら辺の人?」
答えたのはパンジャンドラム。
「ゴ、ゴブリン……ずいぶん言葉が上手なんだね……」
「……まーね。寝る前に1時間の発声練習をかかさないからね!」
「そ、そうなの……僕たちは外国からきたんだ。ヒューマンの国の風習がよくわからなくて、どうしようかと思ってたところだったんだ。何であの人たちはあれほど怒ってたんだろう?」
「気にしちゃダメだよ。ただ絡みたいだけさ。理由なんかないよ」
そうやって2人が喋っている間、俺は男性エルフの後ろに立っている、女性のエルフに目をやっていた。
向こうもそうだった。
俺やパンジャンドラム、ウォッチタワーを何度も見比べるようなそぶりをしていた。
それから彼女は、男性の袖を引いた。振り返った彼に何か囁いている。囁かれた彼は目を見開いて、俺たちのことをジロジロ見てきた。
女性が前に進み出た。そしてこう言った。
「あの……まずは助けていただき、ありがとうございます。それで、あの……私は、アールフォー、という名の者なのですが……」
柔らかく美しい声だった。
続けて男性の方がグスタフと名乗ったが、アールフォーなるエルフの女性はさらに続けた。
「あのう……ひょっとしてその黒い帽子……」
アールフォーは俺に言っていた。そのあとウォッチタワーの方を振り向き、
「もしかしてあなたは……ウォッチタワーさん、という名前ではありませんか?」
問われたウォッチタワーは俺を見た。それからアールフォーへ答える。
「ああ……そうだけど……何でそれを……?」
今度はアールフォーとグスタフが顔を見合わせた。「やっぱり……!」とかそんなことを呟きつつ。そして再びウォッチタワーを振り返り、アールフォーは言った。
「あの……! スピットファイアちゃんという妖精に、ウォッチタワーというオークとオルタネティカ帝国で落ち合え、と言われてきたんです!」




