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ヌルチート 〜異世界ハーレムなのは良いんだがなんかモテ方がおかしい〜  作者: 奥山河川
第四章 オルタネティカ・スプリングス物語
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第211話 こんにちはアリス


「いやあ、ぴったりでようございました」


 オルタネティカ城の1室。

 客間の姿見の鏡。その前に立つ俺に、城の使用人がそう言った。


 鏡に映っている俺はいつもどおりの黒いズボンに黒いコート。


 アレクシスの暴走から2時間ほど経っていた。


 あのあと第2騎士団が到着し、橋の簡易補修とアレクシスの保護が行なわれた。

 その間俺とラリア、パンジャンドラム、そして皇太子に気絶させられたが意識を取り戻したウォッチタワーは客間に案内された。

 そして俺が全裸だったものだから城の者がガウンを貸してくれ、服飾店で俺に合う服を探してきてくれたのだ。狙ったものなのか偶々そうだったのか、コートもズボンも燃えてしまったものとまったく同じだった。


 ソファではラリアやパンジャンドラムたちがそんな俺を眺めていた。使用人が、「それでは私はこれで。何かご入り用の際はお声かけください」と退室しようとした時、ちょうどドアがノックされた。


 使用人が開けると、廊下には女騎士が立っていた。

 ツェモイ団長ではない。

 ガスンバで一緒だった、ミーシャという騎士だった。


「今、よろしいですか?」


 そう言うミーシャへ中へ入るよう言ったが、彼女はソファに座っているウォッチタワーをチラチラ見るだけで入ってこようとはしない。

 あまり顔を見たくない相手なのかも知れない。俺が廊下へ出ることにした。


 共に部屋を出た使用人は俺たちに一礼すると去っていく。廊下の角を曲がり姿を消したのを確認してから、ミーシャが言った。


「今、ツェモイ団長がアレックス様とご一緒してます」

「落ち着いたんだろうか?」

「ええ。だいぶ」


 ミーシャが言うには、今アレクシスのいる部屋には皇帝はおろか皇太子や衛兵も近寄せてはいない。そうしてツェモイの口から、ヌルチートに関する話がアレクシスに伝えられているそうだ。


「びっくりです。まさか城内にまでヌルチートがいるだなんて……」

「君たちの時は騎士団の宿舎に放り込まれていたんだったな」


 ミーシャは少し顔をしかめたが、


「あの時はアップル・インティアイスが宿舎にまぎれ込ませていたんでしたね。あの子はもう帝国にいないのに、今度は誰が……?」


 俺は1人だけ心当たりがあった。


「アリスはどうしてる?」

「はあ……ロスさんに言われたとおり、一応部屋の1つにとどまってもらってますけど……」

「会えるか?」


 ミーシャはうなずいた。

 俺は客間のみんなに声をかけ、全員でそちらへ移動することにした。


 アリスのいる部屋は客間と同じ区画にあった。何か会議室めいた広い部屋で、長く大きなテーブルが真ん中に置かれてある。

 アリスは入り口から見て向こう側、やや左寄りの席に座って、頬杖をついていた。


「あっ、ロスくん、ヘロー! 調子どう?」

「ああ。おかげさまでな」

「グッドグッド、ベリーグッドじゃん! それじゃ元気なのも確認できたことだし、あーしはこれで……」


 席を立とうとしたアリスを指差して、


「まだだ。座れ」


 そう言うとアリスはふくれっ面で座り直す。

 俺は彼女の向かいの席の椅子を引き腰掛けた。


「何でここにいるんだろう?」

「えー、言ったっしょ? 合成魔獣研究所に就職したの」

「君は東にいったはずでは?」


  サッカレー王国でこのアリスは、ブリジット、チュンヤン、ディアナの4人で、転生者ハル・ノートを捕まえていた。それを俺が、曲がりなりにも救い出したのだった。

 そのあと4人は、アリスのグローバルイーグルなる大きな鳥の召喚獣に乗って東へ去ったはずだった。


「いったよ。でもあーし、タイバーンで降りて船に乗ってオルタネティカにきたんだ」

「なぜだ。ブリジットたちも一緒か」

「んーん。みんなは東の大陸にいっちゃったよ。チュンヤンの実家」

「君はいかなかったのか」

「えー、だってそんなとこあーしいきたくないし。なんかそんなよくわかんない外国とかサイアクじゃん。チレムソー教圏内なら言葉通じるんだから違うとこにしよーよって言ったんだけどさ」


 それがさ、聞ーてよ聞ーてよと彼女は続ける。


「ブリジット様が言うんだよね、何の後ろ盾もないのに他国になんかいってどーすんのよ! ってさ。でも東ならチュンヤンの実家がバックについてくれるかも知れないでしょって。でもさでもさ、チュンヤンに話聞いてみたら、東ってあんま召喚獣の研究とか盛んじゃないって。人が余るほどいるから仕事はそいつらにやらせればヨロシ、だってー!」


 あーし、じょーだんじゃないよ、とアリスは言った。


「何でわざわざこのアリスちゃんの類いまれなる知性をそんなど田舎で腐らせないといけないのー! って思ったわけよ。人類の損失じゃないと思わない?」


「俺にはわからんな」


「でねでね、このオルタネティカ帝国じゃ、合成魔獣の研究のために優秀な移民を求めてるって噂聞いたんだよ。だからあーし、ヨッシャ! オーシヨッシャオラ! って思ってね? んでね?」


「就職口を求めて1人帝国へやってきたと」


「そーそー」


「就職おめでとう」


「ありがとー!」


 アリスはそれからキョキョロと辺りをうかがった。パンジャンドラムやウォッチタワーの顔を見回していた。


「あのぉ〜……それで……」

「何だろう」

「……ハルは? いたりする?」

「ハルはあのあと牢に入れられたろう」


 表情がパッと明るくなり、


「だよね! だよね! いるわけないよね! ふー! 見つかったらブッ殺されかねないもんね、あーし!」


 両腕をさすり、足をバタバタ踏み鳴らしながら言った。

 彼女はハルが脱獄したことを知らないらしい。

 ついでながら、そのハルはいずれこの帝国で俺たちと合流することになっている。

 だが別に言う必要もないのでその件については黙っておくことにした。


「それで……」

「なになに?」

「あのヌルチート。君製か」


 アリスは足をバタつかせるのをやめた。


「ち、違うって! あーしじゃないよ! あーし、アレの造り方が書いてある石板なくしちゃったし!」


 今度は手をワタワタさせながら言うのへ、俺はポケットから取り出した物を見せた。


「これのことか?」


 ヌルチートの石板だ。以前のコートのポケットに入れていた時に服を燃やされていたので、少し焦げていた。


「あーっ! それ! 何であんたが⁉︎」

「君とハルの家を家探ししたら出てきたよ。ヌルチートの幼体もいたが始末した」

「あ、そ、そーなの? その子どっかに逃げちゃって、探しても見つからなかったから……」

「日記も1冊見つけた」

「え゛っ!?!?」


 アリスはしばしの間、目を丸くして俺を見ていた。そしてだんだん顔が赤くなっていき、


「えっ⁉︎ うそ、かっ、返してっ! まさか、中見た⁉︎ うっそ、サイテー! ちょ、やーだぁもー、返して返して‼︎」

「それは君次第だな」


 アリスははたと黙った。

 後ろの方では、パンジャンドラムとウォッチタワーがヒソヒソ声で喋っている声がする。ウォッチタワーがアリスは何者かと尋ねていて、パンジャンドラムが説明しているようだった。


「あの機械は? ヌルチートが苦しんでいたようだったが」

「あー……あれ……? あんたたちと別れたあと、ずっと気になっててさ……あの召喚獣。だから、弱点になりそうな物を作ってみよっかなって思って……」

「どうしてだろう? 君はアレを利用していたはずでは?」

「何となくだよ、何となく……」


 それから彼女は、「……あんまりいい気分じゃないし……アレ」と呟いた。


 女騎士のミーシャはまだ部屋にいたのだが、彼女が言った。


「あの……ロスさん? その子、ヌルチートのこと知ってるんですか?」

「あれ、この騎士さんもアレ知ってる感じ?」

「……ミーシャさん。ハル・ノートを覚えているだろうか?」

「あ、はい、あの痩せた人……」

「ヌルチートを造って彼をいじめていたのが彼女だ」

「えっ……!」

「ちょ、いじめてたなんて人聞き悪いっしょ!」

「アリス。こちらのミーシャさんもヌルチートの被害者だ。詳しくは訊くな」


 俺がそう言うと、アリスはどことなく訊きたそうな顔をしているように見えた。

 だがミーシャもウォッチタワーもそんな話はされたくないだろうとは想像がついた。他者への配慮に満ち溢れたロス・アラモスは話題を変える。


「残念だが君の日記、中を読ませてもらった」

「え゛っ!!!ひど……」

「尋ねたいことがある」


 アリスは少し目尻に涙が滲んでいるようにも見えたが、俺は構わず言った。


「日記には、君が魔女のような女に会ったと書いてあった」

「…………ええ……? んー……そうだっけ……? マジ読むとかありえねー……」

「たしかにそう書いてあった。その女からヌルチートの製法をもらったと」

「あーはいはいそうですよ! その人からもらいましたよ! それがなに⁉︎」

「顔は見たか?」


 キョトンとしていた。

 俺やミーシャの顔を見たりしていたが、


「……え? いや、そりゃ見るっしょ……石板手渡す位置とかかなり近いんだから……」

「君は三賢者の魔女を知っているか?」

「そりゃね。チレムソーの教えのでしょ? 誰だって知ってるっしょ……」

「本人かも知れない」

「は? は? 何が?」

「石板をくれた、魔女みたいな女の人だ。三賢者の魔女本人だ」


 アリスは吹き出した。ケラケラと笑いつつ、


「あったまおかしーんじゃない⁉︎ え、どんだけ⁉︎ どんだけ昔の人だと思ってんの⁉︎ はー、マジウケる……! ちょ、ムリ……!!!」


 机をバンバン叩きながら笑い転げる。

 だがヒーヒー言いつつ顔を上げて俺の顔を見た。それからミーシャの方を見た。ウォッチタワーやパンジャンドラムや、ラリアの顔も。


 アリス以外誰も笑っていない。


「…………え。…………ガチ?」


 俺はミーシャを振り返る。


「さっきの騒ぎなんだが、どんな話になっているんだろう?」

「えっ? はい、あの、魔族のスパイが催眠のスキルで、畏れ多くも皇帝陛下や皇太子殿下を操っていたと。それで、アラモスさんとお仲間の方々がアレックス様をお助けしたと……」

「誰がそう言ったんだろう?」

「皇太子殿下です」


 俺は1度アリスの顔を見る。

 それからまたミーシャに向き直って、言った。


「アレクシス……失礼、魔女にご執心のアレックス嬢と話す必要があるな。アリス女史も交えて」





いつもお世話になっとります、奥山でゲス。

これにて第四章終了です。


次章は一部を除いた転生者が、オルタネティカ帝国へ集合します。

お楽しみに!!!

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― 新着の感想 ―
[良い点]  第四章終わり。 アリス。アリスか。ぼんやりとした思い出。ああいたいたチュンヤンじゃない方。しかしアリスは図太いな。めげない懲りない諦めない。合成魔獣研究者の鑑なのでは。
[良い点] ちょっと前までリンゴちゃんの件でセンチでハードボイルしてたと思ったらストリーキングとストーキングで伝説となるロス・アラモス さすが他者への配慮に満ち溢れた男 [一言] BGMスキルはアレッ…
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