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ヌルチート 〜異世界ハーレムなのは良いんだがなんかモテ方がおかしい〜  作者: 奥山河川
第四章 オルタネティカ・スプリングス物語
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第210話 危険な領域


音量抑制(コンプレッサー)のスキルを解除します》


 至近距離での砲声を浴びた割には、耳はダメにはなっていなかった。


 パンジャンドラムの方を見ると、伏せた姿勢のまま両手でラリアの耳を塞いでいる。

 皇太子はといえばダメだった。両耳に手を当てのたうちまわっている。指の間から血がしたたっているところを看るに、鼓膜をやられたらしい。


 後ろを見る。崩れた壁に、粉塵が舞っている。その中からアリスが現れた。ちゃんと立っているし、両手の指を耳に突っ込んでいる。無事だったらしい。


「どうしてここに? まだヌルチートを使って悪さしているのか」

「い、いや違うし! あーしはただ、合魔研に就職しただけで……」


 前方を見ると硝煙が漂っているがアレクシスの姿がない。詳しい話はあとにしよう。


「君は回復魔法が使えるか?」

「う、うん。あの、ハルは……? いるの?」

「皇太子殿下の耳を治してやってくれ。パンジャンドラム、俺はアレクシスを追う!」

「アレクシスって誰?」


 そう言えばパンジャンドラムはあの貴族令嬢の真名を知らないんだった。だが説明してる暇も必要もない。彼女を追って回廊の奥へ走ることにした。


 回廊の奥は外に向かう通路があった。

 夕焼けの中に、隣りの塔へと続く石の橋がある。その橋の上に走り去るアレクシスの背中が見えた。


「待て、アレクシス……」

「ぎやー!!! こないでください、へんたーーーい!!!」


 アレクシスは橋の中腹。俺は橋へ入ろうとするところだった。いざ踏み入ろうとすると、


「ちょっとロス君何で裸なんだよ! 怖がられてるじゃん!」

「これには深い理由が……」

「オレがいくよ、落ち着かせればいいんだろ?」


 後ろから追いついてきたパンジャンドラムが先行しようとした。アレクシスはそれに気づいたのか、立ち止まってこちらを振り返ると……。


「ぎやーゴブリン!!! 松明で目とか焼かれるーーーーっ!!!」


 また隣りの塔へ走り出した。

 俺はパンジャンドラムに言った。


「……ゴブリンってそういうことするのか?」

「……なんかそういうアニメがあったよ。知ってるってことはあの人本当に転生者だったんだね」


 アレクシスはもう隣りの塔への入り口にたどり着きつつあった。俺たちも追うべく橋を渡り始める。


 その時だ。




《アレクシスはウェポンミュージアムを発動しています》



《アレクシスはバトルグラウンドミュージック・ハイレゾのスキルを発動しています》


《デュルデュデュンデュン♫》


《ダーッダダー♫ ダーッダ、ダッダッ♬ ダーッダダー♫ ダラッダッダッダ♬》


《ダーン…………♫》


《ダーッダダー♫ ダーッダ、ダッダッ♬ ダーッダダー♫ ダラッダッダッダ♬》





 橋の右手の方の空中に、突然大きな波紋が現れた。

 そしてその中から、唐突に戦闘機が飛び出した。


「あっ! F14トムキャットだっ!」


 パンジャンドラムは空軍にも造詣が深いらしい。とにかく突如現れたトムキャットが夕日を浴びながらこちらへ突っ込んでくる。


 そしてミサイルを発射。


 大爆発により橋の中腹が吹き飛んだ。

 その爆煙を突き破り飛び去ったトムキャットは、橋の左側の空間に波紋を起こして消えた。


「あれがアレックスさんのスキル⁉︎ 兵器を呼ぶのかよ⁉︎」

「そのようだな」

「ズルい! そんなんあるならオレが欲しかった!」


《ウルトラスプリントのスキルが発動しました》


《パンジャンドラムはウルトラスプリントのスキルを発動しています》


 俺たちは崩壊した橋を飛び越えた。ラリアはパンジャンドラムの背中にいる。


 アレクシスはすでに塔の中へ入っていった。

 俺たちも中に足を踏み入れた。

 塔の外面は円筒形だったが、内部は四角い間取り。上まで吹き抜けがある。小窓が幾つかある壁に沿って階段があり、ぐるぐると回りながら上まで登っていける構造。中央部には細い木材が入り組んでいて、上部は暗くよく見えない。


《ウェイブスキャナーのスキルを発動しました》


 波動探査。最上部に釣り鐘のような形の物があるのを感知。この塔は鐘楼のようだ。


 階段を駆け上がる足音が聞こえる。アレクシスはここを登っているのだ。

 俺たちも階段へ向かったが……。


《アレクシスはウェポンミュージアムを発動しています》


 パンジャンドラムは上部を見上げ、


「ミニガンだッ!」


 吹き抜けの木材に混じり黒い筒がチラリと見えた。モーター音と共にそれが回転し始め……光った。

 怖気を誘うような連続的な音を響かせガトリングガンが火を吹いた。俺たちは咄嗟に入り口へ駆け戻った。無数の弾丸が上から下へ。鐘楼の石床に火花を散らす。


「パンジャンドラム、ラリアが危険だ。外にいてくれ、俺がいく!」

「冗談じゃないよ、たぶん今のロス君がいるから向こうも逃げてんじゃないの⁉︎」

「君がいっても同じだろう!」


 入り口から上を覗いて言い争っているとだ。


《アレクシスはバトルグラウンドミュージック・ハイレゾのスキルを発動しています》


 今度はワルキューレの騎行が辺りに流れ始めた。


「嫌な予感……」


 パンジャンドラムの呟き。

 俺たちは塔の外にいたが、外壁の向こう、左側から、何かが回り込むように近づいてくる音がした。


 ヘリコプターのローター音。

 やがてそいつは姿を現した。


「ああやっぱり。アパッチ対戦車ヘリだ……」


 ホバリングしつつゆっくりと左方向へスライドしていくアパッチ。顔はしっかりこちらへ向いている。側面に取り付けられた蜂の巣のようなポッドから、ロケット弾が発射された。


 5発。


《パンジャンドラムは人力セミオートのスキルを発動しています》


 パンジャンドラムは自前のハンティングライフルのレバーを、目にも留まらぬ速さで引いた。ほぼ同時に引き戻し、ほぼ同時に引き金を引く。


 4発の銃弾が、ボルトアクションのライフルとは思えない発射間隔で放たれた。銃弾は正確にロケット弾にヒットし、爆発を引き起こす。


「ごめん、弾切れだわ……」


 ロケット弾残り1発。


《パウンドフォーパウンドのスキルを発動しました》


 ダッキングで腰を沈めてからの、伸び上がりと同時にアッパーカットを下からロケット弾に叩き込んだ。ロケットは斜め後方へ煙を吹き出しながら飛んでいき、空中で爆発。

 アパッチは横へスライドしながら、波紋へ消えていった。


 どこからともなく兵器を召喚するアレクシスのスキル。


 おそらく固有スキルだろう。転生者の固有スキルはエンシェントドラゴンの《ドラゴンウォール》を破るためのスキルだが、彼女の《ウェポンミュージアム》はひょっとしたら、《ドラゴンウォール》の内側に兵器を送り込むスキルなのかも知れない。

 まだ俺が皇帝の寝室へ突入する前、城の壁を突き破った金属鯨のことを思い出す。考えてみれば、あれは潜水艦の鼻先のように見えなくもなかった。皇帝たちに寝室に連れ込まれそうになってパニックを起こしたアレクシスが発動させて身を守ろうとしたが、ヌルチートに封じられたのだろう。


「ロス君、今のヘリ、パイロット乗ってた?」

「さあ……どうかな」

「乗ってなかったように見えたよ。あの人どうやって俺たちのこと狙ってんの?」

「さあな。《ウェイブスキャナー》か……そういえばさっきウォッチタワーが《サーモ・アイ》とかいう体温が見えるスキルを使って部屋の中の俺を見分けていたが……」

「あ〜そうだ、それオレも使ったことある! じゃあ今の俺たち丸見えってことじゃ……」


 俺は鐘楼の外から、上を見上げた。


《サーモ・アイのスキルが解放されました》


 視界がぐっと暗くなった。かろうじて塔だとわかる形の中に、オレンジ色のシルエットとなった人物がうずくまっているのが見えた。あれがアレクシスだろう。


 追撃はない。鐘楼に入ろうとする奴がいたら攻撃するつもりなのだろうか。


「どうする……? ロス君……」


 このまま突っ込んでいっても怖がらせるだけ。

 どうしたものかと考えていると、橋の反対側にアリスがいるのが見えた。


 彼女は腰からロープの束を取り出すと、


《アリスはカウガールのスキルを発動しています》


 先端を投げて、まだ崩れていない橋の欄干に縛りつけた。そしてぶら下がって下に飛び降りると、ロープの反動で上まで上がり、俺たちのそばに立った。


「危ないことするなあ。落ちたらどーすんの?」

「Aラン冒険者のあーしをナメないでよね。それよりどしたの? アレックス様は⁉︎」


 俺は鐘楼の上を指差した。


「あそこだ。俺たちを怖がって閉じこもっている」

「服着てないからじゃん……よしわかった! あーしに任せといて。話してくる!」


 アリスはそう言うと、鐘楼内部に入ろうとした。


「おい、あぶねーって!」

「おーい、アレックス様、聞こえるー⁉︎ あーしあーし、アリスだよー! この人たち不審者みたいに見えるけどさー、アレックス様の味方だよー! 助けにきたんだよー!」


 アリスは入り口から顔を突っ込み鐘楼を見上げている。何かあっても大丈夫なようにというつもりか、パンジャンドラムはアリスのそばについていた。返事はなかった。


「ねー、登っていってもいいー⁉︎」


 再度の呼びかけに、答えが返ってきた。


「ア、アリスさんですか⁉︎」

「そだよー! お話しようよー!」

「アリスさんだけ! アリスさんだけ登ってきてください!」


 アリスはこちらを振り向いた。

 俺はパンジャンドラムと顔を見合わせた。他に方法はないように思えた。

 アリスへうなずいてやると、彼女は鐘楼へ入っていく。


 俺たちが入り口から覗いていると、彼女は躊躇する風でもなくずんずん階段を登っていく。たいした度胸である。


 階段を登るのに合わせて俺たちは《サーモ・アイ》により動向をうかがった。アリスの熱源はやがて最上部にたどり着き、アレクシスとおぼしき熱源のそばに近づいた。


 熱源アリスは何か身振り手振りを交えてコミュニケーションを取っている様子だったが、しばらくすると階段を降りてくる。1人だった。


 やがて入り口に姿を見せたアリス。


「どうだった?」

「んー……。第2騎士団がくるまでここを動きません、呼んできてー! だってさ」


 第2騎士団というと、エレオノーラ・ツェモイ団長の騎士団だ。たしか第2騎士団はアレクシスの家、アリー家の出資によって魔女の遺物を探索任務を請け負っていると聞いた。

 そして思い返してみれば、第2騎士団は女性騎士ばかり。


 橋の反対側を見やると、向こうの塔の出入り口から皇太子が、耳をほじくりながら出てくるところだった。


 仕方がない。俺は皇太子に、第2騎士団とツェモイ団長をここに呼んでもらえるよう、皇太子に呼びかけた。




23時にもう一話。

それで第四章完結となります。

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[良い点]  アレックス嬢の能力紹介話。無人の兵器群を縦横無尽に操る。陸海空。隙がない。宇宙軍はあるのか。強すぎるか。
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