第207話 モテ男になったは良いんだがなんかモテ方がおかしい
「ちくしょー、卑怯だぞ!」
「そうか? これがおれの召喚獣と考えれば対等だろうが」
神官長を盾にして、カダスを牽制するウォッチタワー。
俺は言った。
「ウォッチタワー、やはりアレックス……本名はアレクシスと言うそうだが、彼女……彼? とにかく転生者だった!」
「な、なに? 誰の何が何だって⁉︎」
「魔族のスパイがいる。窓の外だ! 彼女が捕まった!」
「あっちで殴り合ってる2人は……」
「あれは親子だ! 若い方はゲイで、ヌルチートを持ってる! 俺が転生者だとバレた!」
「よしわかった、つまり最悪の状況ってことだな?」
ウォッチタワーは神官長からヌルチートを引き剥がし握り潰すと、
「そらっ!」
神官長を近衛兵長の方へ投げつけた。それから皇帝の天蓋付きベッドへ走り寄ると、天蓋を支えていた柱をラリアットで破壊。
そしてベッドを担ぎ上げた。
「小僧! こういうのを言うんだ、凶器ってのはよぉ!」
ベッドを水平に持ったままカダスへとダッシュ。
「あ、あわわ……!」
カダスは剣でそれを防ごうとするような動きを見せた。だがか細いレイピアでそれをやるのはいいアイディアではなかった。ベッドの縁に突き立てた刃はポキリと折れ、そのまま壁とサンドイッチ。剣術もクソもなかった。カダスの背中側から血が噴き出した。ヌルチートの血だ。
「ロッさん! 鎧の奴は任せろ、おれに!」
近衛兵長のことを言っているのだろう。お言葉に甘え、皇帝と皇太子が殴り合っているそばを通り過ぎ、窓へ取り付く。
コウモリのような翼を持つ長髪野郎。アレクシスを抱きかかえたまま、
「うーんこの芳しき香り。この柔肌! とてもじゃないけど男だっただなんてぼかぁ信じられないね……」
アレクシスの髪の匂いを嗅ぎながらそう言う長髪野郎。いやに気取った口調だった。ところでこの異世界、いや帝国にはシャンプーなどがあるのだろうか? 今まで俺は水や湯で洗う程度しかしてこなかったので毛根の状態に対する懸念と恐怖が日に日に増大……いやそれはいい。
「ふむ……ちと厄介なことになってしまったね……決着がつくまでは我が麗しのアレクシスには安全なところへ避難していただこう。その間、ちと下品な表現ではあるが、僕がアレクシスの初めてを奪っても構わないんじゃないかと思わないでもない……」
「ひっ……は、離して! 離してくださいっ!」
アレクシスは暴れていたが、スキルを封じられか弱い女性の力しかないのかもがくしかできないようだ。
《ハードボイルの》
《不正な妨害が行なわれています。スキルを発動できません》
振り返るつもりはない。大方皇帝か皇太子のどちらかが俺を見ているのだろう。さてどうするロス・アラモス?
「それでは黒い帽子の転生者よ、アデュー!」
奴は背を向けた。どうやら下の、城壁の外へ降りるつもりだ。
この部屋はかなり高い位置にあり、俺は飛び降りるわけにもいかない。
その時だった。
遠くの方でくぐもった、それでいて甲高い、何かの音が小さく聞こえた。
その音と、長髪野郎がバランスを崩すように右にヨレたのと、窓の左側の壁で何かが弾けたのは同時だった。
「な、何だ⁉︎」
長髪が叫んだ。また甲高く小さな音がして、長髪は何かを避けるように飛んだ。同時に今度は窓の右の壁が砕ける。
《パンジャンドラムはピンホールショットのスキルを発動しています》
パンジャンドラムだ。
彼が真下にいる。どこにいるかはここからは見えない。城壁の上部か、尖塔のどれかか、とにかく姿を隠して狙撃してきているのだ。
「パ、パンジャンドラムさん⁉︎ あのゴブリンの方もきているんですか⁉︎」
アレクシスも気づいたらしい。《スキルアナライザー》だろう。
「ちっ……下に仲間がいるのか!」
「ああそうだ、下に降りれば君は逃げ切れないぞ。彼は凄腕だからな」
長髪野郎は上昇し始めた。上へ逃げる気だ。背中を下に向けずに上がっていく。ヌルチートを守りたいという判断はさすがと言うべきか。
俺は振り返って、
「すまんウォッチタワー、上へいく!」
「おう任しとけ!」
「殿下! ウォッチタワーを傷つけたら承知しないぞ!」
「えっ! 2人はまさかそういう関係……」
「ブッ飛ばすぞ!」
寝室の出口へ走る。
だがその前に、皇太子から距離を取った皇帝が立ちはだかった。
「おい息子よ、1度休戦といこう! まずはこやつらを止める!」
「親父⁉︎」
「よしよかろう、余ももうおまえの生き方に指図はせん! ならばまずこの黒帽子の男を捕らえようではないか。その上でアレクシスを捕まえ、父と息子でダブル結婚式を……」
さすがは覇権国家の皇帝。ドラスティックな判断だった。これは俺にとってよくない状況……、
「ふざけるなーッ!」
皇太子が皇帝へ体当たり。
「息子よ、血迷ったか!」
「アレクシスは俺の師匠だ! 先生だ! 恩人なんだぞ! 彼女を困らせる奴は許さねえ!
「だがおまえその黒帽子は……」
「それはそれ、これはこれだ!」
父と子は格闘を再開した。
俺はそのそばを、邪魔にならないようにすり抜ける。
皇太子が言った。
「アラモスさん! アレクシスを頼んだぜ! 魔族なんぞにいいようにされてたまるか!」
「ああ、ベストを尽くす」
「それで、そのあとは俺と……」
「え、何だって?」
「俺、あんたが好きなんだ!!!」
「え、何だって?」
俺は寝室を飛び出した。




