第二十話 披露せよ! ロス・アラモス!
「きゃあ!」
「レイニー!」
「なになに? レイニーちゃんって言うの? あんなカスほっといてオレサマらとパーチー組もうよ」
「な、何でそんなこと……」
「オレサマらの装備見てみろよ」
ロボアニメはレイニーを離さなかったが、そのまま胸を張るようにふんぞり返った。
ロボアニメの鎧は拝見済みだが、よく見れば他の二人の装備も周囲の冒険者と比べても異彩を放っていた。
リーゼントは白いロングコート……というより裾の長い作業着のようなものを、黒の胴鎧の上に羽織っている。そのコートにはびっしりと、何かの文章が書かれていた。
ファイナリックファンタジア野郎は黒のジャケットに黒のシャツ。黄色いネクタイ。手にはなぜか酒のボトルを持っていた。
「オレサマの鎧は『勇者王の鎧』。オメーらが一生かかっても稼げねーほどの金がかかってる。あっこの白いのは、『気合いのローブ』。縫いこまれた魔法の呪文で、敵の攻撃とかシカトだし、チョーやべー攻撃力で、どんなヤツもワンパンで産まれたての小鹿にされんぞ。で、黒いのが……ごめん、何だっけ?」
「ちょちょ、センパーイマジカンベンッスよ、『夜王の服』と『ドンペミョルニリオン』ッスよォ」
「おーわりーわりー! 性別がメスの魔獣を弱体化させる服と、イッパツ入れれば相手を状態異常『酩酊』にできる棍棒よ」
周囲の冒険者たちがざわついた。何か口々に、ロボアニメたちの装備の恐ろしさ、見事さ、そして高価さについて囁き合う声が聞こえる。
「なー? オレサマらAランはマジイケてっから、装備一つとってもちげーわけよ。なあおねーちゃん。オレサマと一緒にきなよ。なーに、オレサマの後ろにいて、戦闘とかやんなくていいからよ。そしたら、オメーにもいいモン買ってやっからヨ? そのかわり……」
「い、いやっ!」
ロボアニメがレイニーの尻を撫でた。レイニーは逃れようとしたが、腕を掴まれたままなのでそうもできないでいる。
「オレサマのオンナになれヨ。そしたらもうそこの冴えねーニワトリ頭なんかと一緒にいるより、いい思いできるぜ。夜の方も、な!」
ロボアニメと以下2名がヒャッヒャッヒャと笑った。ヒャッヒャッヒャとだ。
そしてロボアニメはレイニーを抱き寄せ、いやがるレイニーに無理やり口づけを迫ろうとする。
ファッショナブルな鎧を着て唇を突き出してタコみたいな顔をしているのはなかなかシュールだった。
レイニーはそのシュールなタコを平手打ちする。
「やめて! 私そんな女じゃないよ! 誰があんたなんか!」
「こ、このメスブタァ!」
今度はシュールタコロボアニメが平手打ちする番だった。悲鳴をあげたレイニーは地に倒れ伏した。
それだけではなかった。シュールタコロボアニメはレイニーをさらに組み敷き、なおも殴打しはじめた。
「クソがァ! 女のくせにナメやがってヨー、アー⁉︎ 身の程思い知らせてやんからヨ!」
そうしてレイニーの上着を掴み、力任せに引き裂く。彼女の柔肌の一部が露出する。
「や、やめてぇ!」
「おうオメーら手伝え!」
「あ、なんスカ、センパイヤッちゃうんスか?」
「や、やめろよぅ! レイニーを離せ!」
驚くべきことに。
まことに驚くべきことに、ロボアニメたちは白昼堂々、衆人環視の中レイニーを輪姦しようとしはじめた。ゴンザレスがロボアニメを引き剥がそうとするが、リーゼントはそんなゴンザレスに近づき……
「コナラー!」
「ぐわ!」
それを殴り飛ばす。倒れたゴンザレスのモヒカンをさらに蹴り上げた。
「いや、いやー! やめて、いやぁ!」
ロボアニメとファイナリックファンタジアがレイニーを押さえつけ、彼女のレギンスを脱がそうとしている。
俺は周囲を見渡した。
辺りには20名近くの人々がいる。
しかし今まさに輪姦が行なわれようとしているのに、林間の冒険者たちはそれを気まずそうに眺めているだけだった。
俺はすぐ隣に立って苦虫を噛み潰したような顔をしている、茶髪のイケメンに話しかけた。
「なぜ止めないんだい? 彼の行ないは犯罪だよ」
「だ……だってあいつ、Aランクだよ」
「どんな問題が? 君だっておそらくBランクなんじゃないか?」
「何言ってるんだよ……違うランクじゃ、実力にも開きがあるんだ。あんたの言う通り僕はBランクだよ。たぶんここにいる、あんたたちとあいつら以外もね。でも仮に僕らが束になってかかっても、あいつら3人には勝てない……装備も違いすぎるんだ! あの子はかわいそうだけど……」
「見なかったことにするしかないわけだ」
「他に何ができるって言うんだ……! ランクが上の奴らは、ああやってやりたい放題さ。下のランクは逆らえない。冒険者は力と装備こそが全てなんだ。僕はそんな現状を変えたくて、今まで努力してきたけどAランクの壁は厚かった。僕は……」
「その先は結構だ、君という人間を掘り下げてほしかったわけじゃない」
歓談を打ち切って、どうすべきか考えた。
3人の中世の野蛮人と、平和主義で鳴らした先進国の洗練された文明人である俺。
プランA。文明人らしく話し合う。
プランB。郷に入りては郷に従い、中世らしくぶちのめす。
どちらも自信はない。
まったく不思議な相関関係だが、殴り合いが下手な者はたいてい話し合いも下手なものだ。
話すことも戦うことも、相手に対する理解や予測がなければできないことだからだ。
ところで俺はお喋りは得意じゃない。
格好つけたところで次に出るセリフもプランCではなかった。
そうこうしているうちに、茶髪のイケメンの隣に立っていた、少女とも言える若い女性が飛び出した。
巨大なアンパンのような形をした白い帽子と、白と緑を基調としたローブを着た女性。手に杖を持っているが、あれで殴るのだろうか。
「ちょ、ちょっと、やめてください……!」
「あっ、ミラーレ! よせ……」
イケメンは彼女を止めようとしたが間に合わなかった。
アンパン帽子はミラーレという名前らしい。レイニーたちのもとへ駆け寄り、狂騒をやめさせようとしていた。
「アー⁉︎ なんダヨネーチャン⁉︎」
「どうしてそんなひどいことをするんですか! や、やめて!」
「アーンネーチャンハクイスケ! なんダヨ、オメーも交ざりてーんカヨ? こっち来ォー!」
「あ、ちょっと、やめ……」
「や、やめろ! ミラーレを離せっ!」
「アー⁉︎ ンダヨコノガキャー‼︎」
「ぐあっ!」
「Bラン風情がカッコつけてっぢゃネーゾオラァ!」
イケメンが早くも殴り倒されたようだった。
俺は森の木にかかる蜘蛛の巣を眺めていたのでよく見ていなかったが、どうもそうらしい。
第三者が止めに入ったことでもあるし、これから仕事をするのだから彼らもやめるだろうと考えていたら、まったくやめる気配がない。
視線を戻すと、頭を両腕で抱えたゴンザレスが俺を見ていた。俺は言った。
「やれやれ」
ゴンザレスを放っておきレイニーたちのそばまで行く。
レイニーはファイナリックファンタジアに両腕を抑えられバンザイのポーズだった。
ロボアニメはアンパン帽子を押し倒し、また顔面をシュールタコフォームにチェンジしている真っ最中。
俺は言った。
「……ミスタ・Aランク、その辺にしてくれないか。俺たちはこれから仕事があるんだ」
「アー⁉︎ すっこんでろや底辺ランクオラァ! 邪魔すんぢゃネーゾクラァ! 隅っこでおとなしく石んなっとれアー⁉︎」
「わざわざ語尾をそろえてラップが上手なんだな。冒険者ランクが低くて稼ぎが悪いから、他の技能を身につけて副業にしようと、練習したってわけだ」
ロボアニメは手を止めて振り向いた。薄い眉毛だと思った。
「そんな惨めなランクじゃ女性に振り向いてもらえないのは理解するが、ナンパするにしてももう少しスマートにできないのか?」
ロボアニメは弾かれたように立ち上がった。
「ア? ナンだオメ? ア? オメー喧嘩売る相手間違えてんゾ?」
「言われてみれば君の言う通りだ。君のような貧乏人には、俺の喧嘩は高すぎて手が出ないだろう。マーケティングをおろそかにしたかな」
薄い眉毛の隣のこめかみが、ピクピクと震えている。
ロボアニメは今や手足もブルブルと震えはじめた。無意識に震えることで、体を温めているのだ。ファイトのための、本能のウォーミングアップ。
この手の輩はまったく不思議なものだ。自分は罵倒したがるくせに、自分がやられると人権の認められた一丁前の人間気取りで悔しがる。
まるで少女のように傷つくのだ。俺はお気に入りの小説の一節を思い出した。撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ。
「ナンだオメ! アー! 貧乏人とか、ランク低いとかヨ⁉︎ オメダレにクチ利いてっと思ってんだアー⁉︎」
「万年Aランクの哀れな坊やにさ」
俺は首に吊るしたギルドカードを取り出した。
視力が悪いのか、ロボアニメはギルドカードに顔を近づけた。そこへリーゼントと、ファイナリックファンタジアも立ち上がって、並んで覗き込む。まったく仲のいいことだ。
三人はそろって顔を青ざめさせた。
無理もないことだ。俺のギルドカードには、Aをはるかに超えるSの文字が、ところ狭しと刻まれているのだ。
リーゼントとファイナリックファンタジアは何か困ったようにロボアニメの顔をうかがっていた。
やがてロボアニメは、舌打ちして俺に背を向けた。2人もそれにならう。
俺は言った。
「3人とも、その汚いケツをしまえ」
ロボアニメたちは洞窟の入り口がある断層に手をついて、パンツを下ろして尻を俺に向けていた。俺の言葉に振り返った彼らは瞳に涙を浮かべていたが、
「え、いいんスか?」
「ゆ、許してくれるちゅうんですか」
「ウチら低ランクの虫ケラなのに?」
と動揺したような声で言う。
「あ、あの、オレサマたちのこと一晩中好きにしてくれても……」
「自分、一生懸命ご奉仕しますけぇ!」
「つーか、ボクマジはじめてなんで優しくしてもらえたら……」
「早くしないと木の枝を突き刺すぞ」
彼らはおそるおそるパンツを履きはじめた。どうやら本当にギルドランクというものは絶対らしい。少なくとも彼らにとっては。
周りの冒険者たちがざわついていた。
俺はコートを脱いで、へたり込んでいたレイニーに突き出す。呆けた顔で見上げている彼女へ、
「俺は仕事を続ける。気を削がれたと思うなら帰るといい」
そう言ってコートを落とし、洞窟へ向かった。
ぽっかりと空いた、洞窟の入り口。
その暗闇に足を踏み入れた瞬間思い出した。
なぜ刀のスキルを使わなかったのだろう?
他人と言い争いになった時、後からになって「あの時ああ言えば言い負かせられたんじゃないか」と思う時がある。
今の俺がまさにそれだった。
だが結果的に誰も傷つかなかったのだから良しとすべきだろう。
この洞窟の中でもそういった具合で行ければいいのだが。
そう考えつつ、俺は奥へと向かった。




