第197話 コロシアム その一
Twitterの宣伝用イラストを描いて昼寝したら時間がなくなり、あんまりまとまらなかったので今日はちょっと短いです。
明日明後日ぐらいから話が動くと思われます。
難色を示す神官に対して、ヤマト皇太子はかなりしつこく迫っていた。
オルタネティカにのみ伝わる聖典を外国人に見せるわけにはいかないと言う神官に、余の顔を潰す気かと迫る皇太子。
それは神殿前の庭で行なわれていた。
俺、ラリア、ウォッチタワー。
アレックス嬢とヤマト皇太子。その護衛兵。
それから神官たち。
中にはシスタ・イノシャの姿もあった。アレックス嬢がシスタ・イノシャに向かって、どうしても聖典を見る必要があるのだと言っている。
冷淡に見えるアレックス嬢にしてはずいぶん熱量がある話し方だった。シスターが運営しているリベレイトエンジェルという団体にも、アリー家が出資している、シスターからもお願いして欲しいと、なかば脅すような口ぶりに聞こえた。
シスタ・イノシャはこれといって何か返事をするわけではないが、圧に圧倒されているのか目を丸くしていた。神官たちも彼女を庇うようにして、「どうかお諦めください」と言うばかり。
やがて皇太子が言った。
「外国人がダメってことか? じゃあこうしよう。アレックスにだけ見てもらおう。それで、内容を覚えればいい」
「畏れながら殿下」神官長が言った。「聖典は古代、それこそ世界の誕生以前の神話の記録ですぞ。その量は膨大かつ、記された文字も難解。内容を覚えると簡単に申されますが……」
「大丈夫だよ。アレックスは記憶力がいいんだ。それに、何だっけ? 世界の終わりとやらに関係しそうな部分だけ見つけて、それをウォッチタワー殿に伝えればいいじゃないか。そしたらあとは……」
俺たちの問題だと言いたいのだろう。
皇太子はあまり世界の終末について信じていないように見えた。
アレックス嬢もまた、それならば構わないでしょうと迫る。難しい顔をする神官たち。
また平行線だろうか。
俺がそう考えた時、今までひと言も話さなかったシスタ・イノシャが口を開いた。
「……アレックス様……。なぜ……そこまでして聖典をお読みになりたいのでしょう……?」
問われたアレックス嬢は、皇太子の方を振り向いた。しかしシスターへ向き直り、
「私はこちらのロス・アラモスさんに命を救われています。殿下が仰られるには、アラモスさんはアリー家に仇なすワルブール伯とその一味の捕縛にもご協力くださったそうなのです。だというのにこのまま何のお礼もできないのでは……」
そう言った。
殊勝なことだった。
正直に言えば、俺とアレックス嬢はあまり仲がよくないだろうと思う。命を救われたとは言うが、彼女はそのことについていつもどこか淡々としていたようにも思う。
シスタ・イノシャはそんなアレックス嬢の訴えをぼんやりとした様子で聞いていた。
やがて神官たちを振り返り言った。
「……見ていただいては……どうでしょう……?」
「なっ……イノシャ様! 困ります、聖典は門外不出!」
イノシャは無言だった。無言のままうつむいた。
神官長が言った。
「あ、いやあの……こ、言葉が過ぎました……そう落ち込みなさらず……」
「では…………お見せして……いただけますか……?」
「う、うう……」
神官長はかなり逡巡していたようではあったが……やがてうなずいた。
「ただし、ご提案のとおり、皇太子殿下とアレックス様だけです! 他のお方はご遠慮を!」
そういうわけで。
なぜか俺たちは闘技場にいた。
円形の、ローマのコロッセオのような場所。
観客席だった。周囲にはかなり客が入っていて、ざわざわとしていた。
そんな闘技場の、ひさし付きの一角。貴賓席だ。そこに俺とラリア、ウォッチタワー。
そしてヤマト皇太子。
「今日は休日とはいえ午前中だからなあ。あんまり面白い対戦もないかも知れないけど」
小さな袋に入ったポテトを頬張りつつ、皇太子は言った。
神殿に入ることができたのはアレックス嬢とヤマト皇太子だけ。だが皇太子は「俺はいいよ」と言って、俺たちに観光案内してやると、この闘技場へ連れてきたのだった。
闘技場の中央は砂地のサークル。我々のいる貴賓席から見て左右から、2人の闘士が現れた。
「おっ……素手の試合なのかい?」
ウォッチタワーが椅子から前のめりになった。
「ああ、みたいだな。普段は木製の武器と防具でやる集団戦が多いけど。昔は小さめの魔獣とやらせてたりしたそうだけど、今は禁止されちまった」
ポテトをもぐもぐしながら話す皇太子。
ふと、対面の観客席で何かが小さく光った。
そちらに目をやると、やはりひさし付きの貴賓席があるが、中は無人だった。
光ったのはその屋根部分。どうやらそこにパンジャンドラムがいるらしい。鏡か何かを反射させて知らせてきたのだ。




