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ヌルチート 〜異世界ハーレムなのは良いんだがなんかモテ方がおかしい〜  作者: 奥山河川
第四章 オルタネティカ・スプリングス物語
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第183話 追跡! パン男!


 ツェモイに聞いた衛兵の詰所は大聖堂のすぐ近くにあったのだが、俺は結局研究院近くの詰所まで戻ることになった。


 アレックス嬢が襲撃された際に逃げたクロスボウ男が、逮捕されたかどうかを尋ねたかったのだ。

 だが大聖堂よりの詰所の人たちは、クロスボウの男が逃走したこと自体を知らなかった。


 冬休みが終わったというのにまだ正月三が日気分が抜けない子供のように、俺はまだこの異世界に電話やメールの類いがあって、警察が緊急配備や道路封鎖をやっているものだと思い込んでいたらしい。


 ウォッチタワーがアルマジロの縫いぐるみを持ってきていてゴーストバギーに乗れたのは幸運だったが、研究院近くの詰所にいっても、クロスボウ男が逮捕されたというニュースは入っていなかった。


 やむを得ず俺は研究院前でバギーを止め、アルマジロに変えたものをラリアに背負わせた。

 そしてそこから、クロスボウとパン男が走り去った方へ歩いてみた。


 方向は、研究院を背にして左。石畳の路上には、帝国の首都とあって大勢の通行人が行き来していた。


「マスター、迷子にならないですか?」

「いざとなったら屋根に登って大聖堂の塔を見れば方向がわかる」


 俺の脳裏には《コンパスマーカー》とかいうスキルが発動していて、何となく東西南北はわかっていた。そしてアリー家別邸、大聖堂、研究院の位置が何となく掴めてもいたので、白いフードをかぶって他人の家の壁をヤモリのように這い上がる必要は実際にはないだろうと思えた。


 ヤモリか。

 まったくおかしなことになったものだ。

 社会の歯車の1枚としてひっそりと生きていたはずの俺が、いつの間にか魔女などというお伽話の住人の作った爬虫類モンスターに追いかけ回され、今は世界の終わりを回避するため空手の達人を探して中世ヨーロッパめいた街をコアラと一緒に歩いている。


 それがロス・アラモスという男の物語だった。

 荒唐無稽だった。まったくプロットなどというものがあるのだろうか? もし俺の人生を小説にしてwebサイトに投稿したら、ブックマークも300ぐらいしか付かないのではないだろうか。それほど俺はまとまりのない出来事に直面していた。


 200メートルほど歩いたところでふと立ち止まった。


 俺はあの時のパン男が、転生者ではないかと疑いを持っている。

 ツェモイは、このオルタネティカ帝国の皇太子がその可能性が高いかもと言っていた。


 どちらが正解かはこれから確かめるところではあるが……問題はパン男が転生者だったとして……逃すだろうか?


 俺たち転生者には《ウルトラスプリント》という高速で走るスキルがある。

 以前パンジャンドラムなどは、そのスキルで馬や蒸気機関車と同じスピードで走っていた。


 俺は辺りに目をやった。老若男女がウロウロしている。

 スピードは出せるだろうか?

 少し先まで歩いて、角を右に曲がった。


 路傍に、帽子や色とりどりの首飾りなど装飾品を並べている屋台のような露店が目に入った。

 バンダナを巻いた中年男が屋台の向こうに座っている。俺はそこへいって、中年男に尋ねた。


「ここは帝都のネクスカ?」

「どこだと思ってたんだい」


 ここは帝都のネクスカです、という答えは返ってこなかったので、俺は台に置かれたネックレス(ターコイズ風の石が繋げられた物だ)のような物を手に取り眺めつつ、質問を続けた。


「誰かここを走っていかなかったか? あっち……表通りじゃない方。2人ぐらい」

「ああ……そういやさっきそんなの見たな。見すぼらしいカッコのおっさんと、若い男」

「若い方は茶色いフード?」

「とうだったかな……いやそうだ。結構前だったけど、それが?」


 買ってどうするというわけでもないが、何も買わないのも悪い。俺はターコイズ風のネックレスに金を払うと、2人の男が走り去ったという方へ歩き出した。


 どこまで歩くべきか。

 2人が走り去ってからだいぶ時間が過ぎている。

 なぜ俺は歩いて追いかけて追いつけると考えたのだろうか。

 ひょっとして俺は見知らぬ人々に囲まれてあれこれ喋らされることから逃げる口実にパン男を使ったのだろうか。


剣聖(ソードマスター)・サッキレーダーが発動。微弱な気配を感知》


 背後からだ。

 露天商と喋っている時ぐらいから、スキルは何者かの追跡を俺に知らせていた。

 何気ないそぶりで振り返ってみたが、往来を歩く通行人がいるだけ。


 ラリアがひくひくと鼻を蠢かせ、路地裏に続く角を指差した。


「さっきのパンの匂いがするですよ」


 奴がどんなパンを食べていたのか思い出せないが、少なくともラリアにとっては相当興味深い匂いがしたのだろう。覚えていたようだ。


 路地に入り、日の遮られた薄暗がりの中を歩く。


 何度も角を曲がったりするうちに、途上に箱だとか、割れた鉢だとかが散乱しているのが目についた。


 ここを通ったのだ。おそらくクロスボウの男が慌ててひっくり返したのだろう。


 いつの間にか俺とラリアは、ノーブレス区とは似ても似つかぬ寂れた区画に入り込んでいた。


 家々は不揃いの板を張り合わせたボロ屋のようなものもある。土壁の表面が剥げたものもある。レンガ造りで高くそびえる建物もあるが、暗い雰囲気だった。


 スキルの《コンパスマーカー》の感覚を感じ取ろうとしてみた。

 方向的にはどうやら、ノーブレス区に行く際ツェモイが教えてくれた、アンダードッグ区という地域に近いようだ。


 建物に囲まれたスペースへ出た。


 辺りには何かの紙だとか鍋だとかのゴミが散乱している


 日差しが当たっているが、反対の建物に遮られた影もできている壁に、男が1人座り込んでいる。

 陽だまりではなく影の中だ。ボロをまとい、手も足も、顔も毛深い。


 顔が猿にそっくりだった。

 獣人だ。

 そいつが口を開けてぼんやりと、虚空を見つめていた。


「ラリア。どうだ?」

「うー……わからないです。臭い」


 一瞬俺の加齢臭のことかと思ったがロス・アラモスはそんな歳ではなかった。


 広場というより、行き当たりばったりで住居を建設していると余ってしまいましたという風情のこのスペースには、地面に溝があった。


 ドブの匂いだった。

 ドブをまたいで歩き出す。


 猥雑な区画。見失った。はじめから見てもいなかったが。もう見つけることは不可能だろう。

 無駄足だったと思いつつも辺りを見回しながら角を曲がる。


「むわっ!」


 角の向こうから歩いてきた誰かにぶつかってしまったようだ。相手は女性だった。


「失礼。よそ見をしていたもので……」

「むう……気をつけて欲しいものである……あっ!」


 尻餅をついてこちらを見上げている女性。


 長い銀髪を後ろでまとめ、ロングスカート。


「ロスではないか! もうきていたのか?」


 ホッグス少佐だった。


 軍服姿のイメージしかなく、女性らしい服装で町娘といった風情の姿のため一瞬誰だかわからなかった。

 俺は手を差し出して彼女を立ち上がらせた。


「昨日ついたんだ。休暇を取ったんだって? ツェモイ団長にそう聞いたよ」

「へ、変なところで会ってしまったのである……」


 彼女はなぜか顔を赤らめて、スカートの尻をはたいていたが、


「ところでロス。こんなところで何をしているのであるか? パンジャンドラム殿たちも一緒か?」

「2人はちょっと別行動だ。少佐、ちょっと訊いていいか」

「何であるか」

「男を2人見なかったか? 片方が片方を追いかけていた」

「いや……でもそれが?」

「君はどこへいくところだったんだろう」

「シビリアン区に帰るところである。何をキョロキョロしとるのだ」


 辺りに目をやってみたが、俺を追跡している奴の気配も消えていた。


「そうだ。これ君にやるよ」

「何であるかこれ。ネックレス? いやこれを私にどうしろと」

「いや。渡せるうちに渡さないとロクなことにならないと思って」

「何の話であるか……ムードないなあ……」


 先ほど露店で買ったネックレスを手渡され、それを口を尖らせながら眺めていたホッグスだったが、


「誰を探しとるのであるか?」

「いや……もういい」

「ではここを出よう。匂いがキツイのである……」


 彼女は壁際に座り込んだ猿男を横目に見つつそう言った。


 腹が鳴るような音が聞こえた。

 ラリアだった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 今では1000になろうかというところですね、ブックマーク。素晴らしい!
[良い点]  呆然とした猿顔の男。無産層なのか病人の様な有り様。底辺なのだろうか。ぼろぼろだ。忘れられた人々。  底辺から社会は崩れる。底辺の上にしか頂点はないのだから。必然として軽んじられたモノが重…
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