第179話 襲撃! 研究院の前!
ちょっと今後土日は更新時間を遅らせようかなって思ってます……1時間半しか書けない……。
魔女研究院は帝都の学術区という区域にあると馬車の中でツェモイに伝えられた。
てっきりノーブレス区にあるのかと思っていたが違っていて、馬車は1度ゲートを出た。ツェモイが言うには、大聖堂のある街の中心部近くとのこと。
たしかに馬車の外を眺めてみれば、道路脇建物の隙間の向こうに大聖堂の尖塔が見え隠れしている。
馬車が、4車線はある広い道路を通り始めた。
やがて左手に見える、太い白の柱と黒い壁で造られた平べったい建物の前を通りがかる。
「ロス殿、ここだ。研究院」
馬車はそこを通り過ぎようとしていた。
ツェモイが座席後ろの壁を振り返り、小窓を開けて、なぜ止めないのかと御者に尋ねた。
「申し訳ございません。後ろからVIPカーがついてきておりまして、止まることができないもので……」
俺は右側の窓から、前方の御者席方向を覗いてみた。なんとサイドミラーがついている。
ツェモイの方は俺の脇から手を伸ばし、後部座席側の窓を少し開ける。
「う、本当だ。身分の高いお方の御乗り物だな……」
俺も振り返って窓を覗く。
2頭立ての馬車だった。馬の毛並みは良く見えた。くつわも、馬と馬車をつなぐバーも、金の装飾で飾られている。
車の方はカボチャみたいな形で、ピンク色。派手だった。
そして屋根には小さな旗が揺れていて、何か紋章のような絵柄が書かれている。
「や……? あれはアリー家の家紋……アリー家の馬車ではないか」
ツェモイは呟いたあと研究院を振り向いた。
20段はあるだろう石造りの階段があり、その向こうに入り口らしき両開きの扉が見える。
そこから今まさに2人の女が出てきた。
ピンク色の派手な髪の若い女だった。
ハーフアップにした長い髪は上品な雰囲気。大きな瞳が一見アホっぽい印象を与えかけるが、しかし端正な顔立ちと、中世ヨーロッパの貴族が着ていそうな青いドレス、背筋を伸ばししずしずと歩む姿が相まって、高貴な雰囲気をまとっていた。
もう1人の女は同じ年頃の若い娘。メイド服姿でピンク髪青ドレスの後ろに立ち、日傘を差してやっているところを看るに、侍女のようだ。しかも緑髪だし特に注意を払う必要もなかろう。
「ロス殿! あの方がアレックス様だ。アリー家の御息女。こちらにいらしたからお屋敷にいらっしゃらなかったのか」
ツェモイは御者に、少しいきすぎてから馬車を止めてくれと伝えた。後ろのVIPカーがアリー家のものだから、お迎えの馬車だろう、少し先で降りてご挨拶にいこうと。
言われたとおり俺たちの馬車は、研究院の入り口をすぎて止められた。そこで降りる。
石畳に降り立った時、ふと視界右側に入った人物が気になった。
研究院の壁。地面近くに段差があるが、そこに男が腰かけていた。
茶色いローブのフードを被り、パンを食べている。
ツェモイもそれに気づいたか、そちらへ歩み寄った。
「失礼。この辺りは食べ歩き禁止区域だよ」
男は前に立ったツェモイを見上げると、慌てたようにパンをポケットにしまい立ち上がった。
なかなかの体格の男だった。背は、俺と同じぐらいだろうか。ツェモイに謝りつつパンを握っていた方の指を舐めている。
俺は入り口の方を振り返った。アリー家のアレックスなる娘はもう歩道にいて、迎えの馬車に近づいている。
「団長……」
そう呼びかけようとした時だった。
研究院の向こう側の角から数人の男が走り出てきた。
《剣聖・サッキレーダーが発動》
反射的に車道に視線を走らせた。4車線道路の対向車線から中央車線を踏み越え、粗末な馬車が走り込んでくる。
粗末な馬車はそのまま、アリー家の馬車の前で急停止。まるでアリー家の馬車が走行できないようにするかのように。
緑髪のメイドがやかましく悲鳴をあげた。角の向こうから走ってきた者たち、そして粗末な馬車から降りてきた2人の男が、手に刃物を光らせて、アレックス嬢に殺到したからだ。
「冷血女! 死ね!」
「仲間の苦しみを思い知れーッ!」
男たちがそんなようなことを口々に叫びながら襲いかかろうとしているところへ、
「ラリア!」
「はいです!」
俺はラリアを投擲する構えを取る。
ツェモイもレイピアを抜き、アレックス嬢の方へ走ろうとした。
だが。
《誰かが剣聖・ムソクのスキルを発動しています》
俺たちのそばを風のように走り抜けた者があった。
俺の目に飛び込んだ後ろ姿は、先ほどのパン男。
《パン男はザ・カラテ・ブラックベルトのスキルを発動しています》
ローブを翻しながらパン男が飛んだ。
高い跳躍だった。そのまま暴漢たちの群れに躍り込む。
「わっ、なんだおまえ……ぐわ!」
「ぎゃッ!」
拳による突き、足による蹴り、縦横無尽に駆け回り、暴漢をなぎ倒していく。
強い。
殴られた暴漢は真後ろではなく斜め上空に吹き飛ばされていた。
アレックス嬢はメイドの手を引っ張り階段を登っていた。ツェモイはそちらへ走っていく。
階段下ではパン男と暴漢たちとの大立ち回り。すでに暴漢の数は1人を残すところとなった。
絶叫を上げながらナイフを突き込んだ暴漢。左手で無造作に払ったパン男。返す右拳が暴漢のみぞおちに埋まる。
「おお、すごい!」
「みんなやっつけたぞ!」
通行人の歓声が上がった。
だが俺は、やはり車道の方に視線をやりながら……、
《ウルトラスプリントのスキルを発動しました》
瞬時にアレックス嬢の前でかばうように立つツェモイの、さらに前方の階段に走り込む。そして車道を振り返る。
やはりいた。《サッキレーダー》が感知した奴。向かいの歩道の群衆に紛れ、クロスボウをこちらに向けている男。
発射。
《パウンドフォーパウンド・パリィのスキルが発動しました》
人差し指と中指でつまんで止めた。
パン男が驚いたような顔でこちらを振り返っていた。
だがすぐさま車道へ飛び出し、走る馬車を避けながら向かい側へ走っていく。逃げ去るクロスボウの男を追っていったのだ。
「アレックス様、お怪我は⁉︎」
ツェモイの声だ。
振り返ってみると、階段にへたり込んだメイドのそばに立つアレックス嬢にツェモイが寄り添っている。
「……はい、大丈夫です。ツェモイ団長……どうしてこちらへ?」
アレックス嬢は毅然としたものだった。声に震えもない。ただ少しポカンとした顔でツェモイの顔を見ていた。
ツェモイは「研究院を訪ねたのですがたまたま……」と答えると、俺のそばへきて、
「ロス殿、感謝する! まさかクロスボウを持った奴までいたとは気がつかなかった!」
そう言って、俺がつまんでいた矢を手に取る。矢じりの匂いを嗅ぐと、
「……ご丁寧なことだ。毒が塗ってある」
後ろのレディーに聞こえないようにか、小声で吐き捨てた。
「彼ら、いったい何なんだろう?」
「うむ……」
ツェモイは押し黙った。
階段下で昏倒している暴漢たちを見下ろしながらも、チラチラと俺の顔をうかがうようにしていた。
何者か知っているのだろうか。そのうえで言いたくないのだろうか。
だがはっとしたように、
「誰か! 誰か衛兵を呼んでくれたまえ! 早く!」
と通行人に呼びかけ始めた。
俺は階段のやや上に立つアレックス嬢を振り返ってみた。
彼女はパン男が去った方を見つめていた。




