第176話 ツェモイとの再会
へへ、今日はちょっと余裕がなかったのでね。
正確に言うと時間を無駄にしてしまってね。
帝都ネクスカは大きな街だった。
城郭の門から入ってすぐには大きな広場があり、中央にある噴水がすぐに目に飛び込む。
水瓶を持った裸婦の彫像。その瓶から水が漏れだすという構造はありふれたデザインだった。
だがその裸婦の立つ台座は灯籠のようになっていて、中で炎が燃えている。そのため流れる水に揺らめく光が、噴水全体を明るく照らしていた。
噴水の池は馬車道路用の、ロータリーの中心らしい。我々の馬車隊は噴水を左回りに回っていく。
馬車隊はさらに、真っ直ぐ伸びる大通りを進んだ。
左側通行だった。
馬車は我々だけではない。対向車線からくるものと、何台もすれ違う。
車道と歩道にわかれていた。歩道側はやや高く、車道との間に段差がある。
夜だというのに人通りはあった。
街灯がある。
建物はみな高く、立体的。5階建てはおろか、密集した建物をブロックとし、それを支えとしてビルのように伸びる建物もあった。
我々が進む大通りの頭上にアーチも見える。
それらの建物の窓からは明かりが漏れ、中世レベルの文明とは思えないほどの発展ぶりだった。
やがて我々は、街の中心部にある大聖堂へと着いた。
5つの尖塔を持つ石造りの大きな聖堂だった。
シスタ・イノシャがそこで降りた。
俺はバギーの中で、聖堂から出てきたローマ教皇のような格好の太った男が、大仰に彼女を出迎えるのを見ていた。
彼女は1度こちらを振り向いた。
目が合うのも変だと思ったので俺はハンドルを見ていたが、視界の端には彼女が目に映っている。
一礼したあと聖堂前の階段を登っていくのが見えた。
そのあと俺たちは魔族リーダーを入れた壺の馬車の先導で、帝国軍省なるものがある区域へ向かった。
城郭都市の中にさらに石壁で区切られた場所がある。
そこのゲートに立つ見張りと騎馬の護衛隊長が話をしていて、やがて互いに敬礼し合うと、隊長は馬首を巡らせ俺のバギーへと近づいてきた。
馬上から運転席を覗き込むようにしながら、俺たちが帝国の客人として招かれている旨が伝わっていることを話した。
バギーはゲートをスムーズに通過した。
帝国軍省の区域は道路が広く……というより建物と建物の間の距離がかなり空いていた。やがて馬車は石造りの、3階建ての建物の前で止まった。
入り口の前には見慣れた顔があった。
エレオノーラ・ツェモイだ。
今日は鎧を着ていない。白いローブに、フードをかぶっている。銀河帝国と反乱軍が光る棒を振り回して戦うSF映画に登場する騎士のような風情だった。ただし、彼女の腰に吊るされ、ローブのスリットから覗いているのは光る棒ではなく、細身のレイピアのようだったが。
馬車とバギーは入り口の前で止まる。建物は右側だ。ツェモイが歩いてきて、身をかがめて運転席の窓から俺を覗き込んだ。
「ロス殿、よくきてくれた」
「チーズバーガーと、ポテトのLサイズ。ドリンクはMで」
「なに?」
「何でもない。言ってみただけだ。魔族のテロリストを捕まえたぞ」
「ああ、今日の昼に伝令がきて知った。さすが、さっそく大手柄だな。それにしてもすごい車だな。馬はいないのか?」
ツェモイはバギーをしげしげと眺める。なぜだか急に、彼氏持ちの女がスーパーカーに乗ったナンパ男についていくか試したドッキリ番組を思い出した。
だがツェモイの方は、
「ウォッチタワーは?」
「後ろの車だ。ところで、俺たちはどうすればいいんだろう? 聞いたところによると」
俺は、前に止まっている馬車の白い壺を指差しながら、
「君がアレの尋問をするそうだが。俺たちもこの夜中に君の芸術的プレイを見学する必要がありそうか?」
「相変わらず手厳しいな。今日はもう遅いし、疲れてもいるだろう? 貴殿らのために特別な宿泊施設を空けておいたのだが、ここからそこまでいくのも時間がかかる。ここの来客用の泊まり部屋も一応用意してあるが……どうする?」
少し考えた。
運転し続けで尻が痛かった。助手席を見やると、ラリアは眠っていた。
これからまたどこだか知らない場所へ移動するのも悪くはなかったが、厚意を無駄にするのも悪いだろう。
「世話になる」
仕方がない。ウォッチタワーには今夜だけ我慢してもらおう。
ただ、その前に尋ねた。
「ホッグス少佐は?」
「彼女は休暇を取らされたよ」
「休暇?」
「ああ。彼女の部下のロクストン殿が、少佐が魔女の呪いにかけられて大変だったと上に報告したのさ。過酷な任務だったし、これから魔族軍との決戦もある。休めるうちに休んでおけと言われたとさ」
「ホワイトだな」
「白がどうした?」
「いや」
「よし。では泊まっていってくれたまえ。何のお構いもできないのは残念だが。明日には貴殿らのための屋敷へ移動してもらうよ。むさ苦しいここよりそちらの方が絶対にいいだろうからな。泊まり部屋には部下に案内させよう」
ツェモイは入り口を振り返り部下を呼んだ。
やってきたのは見覚えのない……つまりガスンバにはいなかった女性の騎士。お互い知り合い同士では顔を見たくない間柄なのをわかった上での配慮かも知れない。
俺たちは馬に乗った部下に案内され、長距離ドライブを終えた。




