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ヌルチート 〜異世界ハーレムなのは良いんだがなんかモテ方がおかしい〜  作者: 奥山河川
第四章 オルタネティカ・スプリングス物語
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第174話 鳥のおもちゃ


 翌朝我々は領主の豪邸で目覚めた。


 ロココ調、バロック調、何でもいいが、とにかくそういう調の装飾にあふれた部屋でだ。


 昨晩の一悶着を解決したことで、俺たちは領主の感謝の証としてここへ寝泊まりできたのだ。


 朝っぱらから卓球台より大きいテーブルでの朝食に呼ばれ、領主の娘(名前も覚えていない)がスカートをつまんで礼を述べるのを聞いたり、ラリアのためにご馳走を《ザ・サバイバー》で加工してみたり。


 そういうことをやった。


 領主がうちの娘の婿にとかどうのこうの言っていたがそれを適当にあしらい(相手は12歳だそうだ、まるで平安時代だ)、俺たちは街の教会へと向かった。


 昨夜、魔族リーダーのスーツ魔人を生け捕りにしたのだ。そいつは教会の中で、魔術師たちが張った結界に捕らえられている。

 俺が、まだ聞きたいことがあるからと街の衛兵に頼んだ時、そうしてくれたのだ。


 そういうわけで教会に向かったのだが。





 教会の前には広場があり、中央の噴水が朝日に煌めいていた。

 その向こうにそびえ立つ、尖塔を持つ荘厳な建物が教会だった。


 俺たちが噴水のそばを通りすぎようとした時、子供の泣き声が聞こえた。


 そちらを見やると、噴水の反対側に5人の子供たちがいて、うち1人が泣いている。


 俺はそのまま通りすぎようかと思ったが、何となく足を止めてしまった。パンジャンドラムもウォッチタワーもそうだった。


 泣いている男の子が、他の4人から突き飛ばされているのを見たせいだろう。


 今この場にハル・ノートがいたら大変なことになっていたかも知れないなと思いつつ、俺はそちらへ歩みを進めようとした。


 だがそれより早く、子供たちに近づいた者があった。


 黒髪の、背の高い美女だ。

 見覚えがある。昨夜領主の娘と共に魔族に捕らえられていた、シスター風の女性だった。


 彼女は子供たちのそばにしゃがみ込んで目線を合わせる。


 シスターは何かを喋っていた。よほどの小声なのか、噴水の水音にかき消されこちらまでは聞こえない。

 だが返事をする子供の声は聞こえている。


「だってー! この子だけ持ってないんだもん! 持ってないなら一緒に遊べないよ!」


 見やってみれば、4人の子供はみな、鳥のおもちゃのような物を持っていた。


 そのうちの1人は鳥の背についた小さなハンドルをぐるぐる回している。ハンドルから手を離すと、羽が羽ばたくように動き始める。

 ゼンマイ式か何かのオモチャなのだろうか。子供は水をすくうような形にした手のひらの上に鳥を乗せていたが、その鳥のおもちゃは浮き上がりすらした。


 泣いている子はそれを持っていない。


 ラリアが左腕から降り、ディフォルメを解除して、そちらへ歩いていく。俺も何となく後ろからついていってみると、


「これからみんなで、飛ばして遊ぶんだもん!」

「でも……悲しんで……いるわ……」


 シスターの声が聞こえた。

 蚊の鳴くような声だった。


「もっと仲良く……ええと……」

「でもー!」

「手を……取り合い……あの……」

「だってー!」


 手こずっていた。

 シスターは何かを言おうとはしているようだが、上手く言葉が出てこないのか、子供の前でうつむいたり、視線を泳がせたりしながら、問答を続けていた。


「鳥……ええと……鳥は季節と共にいずれ……空に列をなし……」

「それでー⁉︎」

「だから……鳥というものは……一緒に……」

「つまりー⁉︎」


 もはや出口すら見えなかった。

 だがラリアが子供たちのそばへいき、言った。


「イジメちゃダメですよ!」

「な、何だよおまえー!」

「4つもあるんだから、みんなで回せばいいですよ」


 シスターはラリアを眺め、少しぽかんとしているようだった。

 子供たちはラリアに対しまだぶつくさと文句を言っていたが、やがて教会の方から、おそらく法衣なのだろう白い服を着た男がやってきた。


「おお、イノシャ様、こちらにおいでで……」


 呼ばれたシスターはしゃがんだまま男を振り返った。特に何か返事をするわけでもない。


 男は子供たちを見やったが、ラリアに向けて言った。


「こらっ! なぜ獣人がこんなところをウロウロしているんだ!」


 首をすくめたラリア。

 やれやれだ、また始まった。説明をしようと思ったが、先にパンジャンドラムとウォッチタワーが男に詰め寄る。


「いやいや先にこっちにツッコもうよ」

「子供相手に大声出すんじゃねーよエー!」


 2人はラリアを後ろに庇っていた。男はやや気圧されたように後ずさったが、何か反論しようとした。


 だが。イノシャと呼ばれたシスターが、男のすぐそばに立った。

 そばに立たれるまでシスターの存在に気づかなかったのか、男は目が合った瞬間ビクッとした。


「よいのです……この子は、彼らを諭そうとしていたのです……」

「は……イノシャ様、しかし獣人……」

「こちらの方々は……昨夜わたくしを助けてくれた方……」


 シスタ・イノシャはそう言って俺たちを振り返る。


「え! と言うと、魔族の戦士を一瞬で生け捕りにした……ああ、お話に伺っていたのはあなた方だったのですか……⁉︎ たしかに」男はラリアを見ながら、「領主様から特別に行動の自由が許可されていると聞いておりましたが……」


 シスターは無言でうなずいた。

 男は子供たちを追い払うと、


「これは大変失礼いたしました。お話は伺っております。昨晩捕らえた魔族の侵入者を尋問したいとのこと。お待ちしておりました、ささ、こちらへどうぞ……」


 男は俺たちを教会へと促した。

 俺はそちらへ歩こうとしたが、ふとシスターを見ると、立ち止まったまま向こうを向いている。


 子供たちが走り去った方だ。4人はもう雑踏に姿をけしたが、鳥を持たないからと泣いていた子供だけが、トボトボと歩いていく。


 シスターはその子を追おうとしたのか歩き始め……立ち止まった。また歩き出し、また立ち止まる。


 逡巡しているような様子だった。

 だがそれでもついに歩みを進め、子供の後ろをついていく。


 俺はパンジャンドラムたちに言った。


「悪いが、やっておいてくれ」

「ロス君どこいくの?」

「買い物だ」


 立ちすくむパンジャンドラムとウォッチタワーを尻目に、俺はラリアを左腕に乗せ大股に歩き出した。


 男の子と、シスタ・イノシャの方へとだ。






 町民や冒険者で人通りの多い朝の街路で行なわれたそれは、奇妙な尾行だったように思う。


 トボトボと歩く少年。

 その後ろを、声をかけるわけでもなく歩くシスタ・イノシャ。

 さらにその後ろ、少し距離を置いて歩くロス・アラモス。


 思うに、イノシャ氏は少年に声をかけたがっているのではないだろうか? 少年に追いつこうとするように足を速め、しかし思い直したようにスピードを落とす。


 その動きを繰り返すことで、少年とイノシャ氏は付かず離れずの距離を保っていた。


 そしてそれを後ろからストーキングし続けるロス・アラモスはさらに滑稽だった。重要な出来事をほっぽり出してなぜこんなことをしているのか自分でもわからなかった。


 やがて少年は、広い通りへと出た。

 両サイドに露店が並んでいる。

 少年はそのうちの1つの前で足を止めた。


 動物や、あるいは怪物を模したお面が、屋根付き屋台にぶら下がっている出店。

 おもちゃ屋のようだった。


 シスタ・イノシャはと言えば、離れたところで立ち止まり、食い入るようにおもちゃを見つめている少年の横顔を眺めている。


 俺はイノシャ氏を追い抜いた。それで少年の右後ろに立ってみた。


 少年が熱心に見ていた棚には、先ほど子供たちも持っていた鳥のおもちゃがある。


 俺はポケットからコインを取り出した。棚の向こうに座っている、バンダナを巻いた店主に言った。


「その鳥をくれ。2つだ」


 少年が俺を振り向いた。彼は少し、後ずさってからうつむく。

 コインを渡し、鳥を受け取る。


 そのうち1つを少年の前に差し出した。


 彼はぽかんと、俺を見上げている。

 俺は言った。


「これでみんなの輪に入られる。青春を無駄にするな」


 彼はしばらくの間、俺の顔と鳥を見比べていたが、やがて受け取ってから礼を言うと、どこかへ駆け去っていった。


「旦那、いいんですかい? あの子、お知り合い?」


 店主がそう言った。


「チレムソーコインは地元に帰ると両替できないのでね。使い切りたいのさ」

「へえ。チレムソー教じゃない外国からきたのかい?」

「そんなところだ」


 俺がもう1つの鳥をラリアに渡そうとすると、ラリアはディフォルメを解除して地に降り、受け取った。

 しげしげと眺めるラリアの手を引き、元きた道を引き返す。


 路傍に立っていたシスタ・イノシャの近くまで通りかかった。彼女は黙ってこちらを見ていた。


 カラスの濡羽色(ぬればいろ)。そう表現すべき黒髪を始めて見たような気がする。しっとりと滑らかな長い髪は、憂いを帯びた彼女によく似合っていると思った。ついでに言えば、幸の薄そうな顔だっと思った。


「あの……」


 特に知り合いでもないので黙ってすれ違おうと思っていたら、呼び止められた。

 立ち止まって彼女を見やると、シスターはそれ以上何も言わない。


 どのぐらいそうしていたろうか。5秒か。6秒か。数秒というものは意外に長いものだ。

 やがて彼女は、やっと言った。


「……ありがとう……」


 何に対してか。俺はそう言う代わりに尋ねた。


「本屋を知らないか?」


 彼女はまたしばらく静止していたが、通りの反対側を細い指で差した。


 振り向いてみると、たしかに通り沿いの建物に、本屋の看板がかかっていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 子供の仲間外れ問題。 きっと道徳的にラリアの言った事は正しい。逆にロスが厚意で買ってあげた事は間違ってるんだろうけど、ラリアの説得中に男の邪魔が入った事とロス自身が自分の過去を重ねてしまっ…
[良い点]  ロス・アラモスがちょっといいことをした。青春は過ぎ去るのが早いですからね。しっかり追いかけてと少年の背を押して見送ったロス・アラモス。やさしいおじさんだ。鳥のおもちゃもよく飛ぶに違いない…
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