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ヌルチート 〜異世界ハーレムなのは良いんだがなんかモテ方がおかしい〜  作者: 奥山河川
第四章 オルタネティカ・スプリングス物語
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第172話 入牢せよ! ロス・アラモス!


 朝の町外れで、俺たちはハルを見送ることにした。


 街の向こうには草原が続いていて、右手には大渓谷の崖。それらを朝日が照らしていた。


 ネズミのキーホルダーはすでに馬車の形に変化している。

 その前で、ハルと俺たちは向かい合っていた。


「ハルさん、充分に気をつけるんだぜ」

「はい。あくまでも、ただ西の転生者がオルタネティカ帝国からの援軍要請に応えるか確認しにいくだけですから」


 ウォッチタワーに、ハルはそう応えた。


 帝国は魔族との決戦に向け、カシアノーラ各地に号令を発していた。

 それは各国の軍だけでなく、有能な高位の冒険者にも発されている。

 パンジャンドラムが西で会ったというマジノという転生者はSランクの冒険者として認知されていた。

 もう1人、ペリノアド共和国の大統領も、かつては冒険者だったという。


 帝国の要請があれば、マジノは応えるかも知れない。しかし問題は大統領。なにせ一国の大統領という立場であり、国を離れるかどうか……しかも大統領はヌルチートの虜となっているはずだった。


 だからハルは、もし大統領が動きが取れない場合、何とか接触して「地球に帰る方法がある」と伝えにいくことになったのだ。


「でもよ。やっぱリスキーじゃねえか……?」

「ハル、大丈夫なのかよ?」

「何とかしますよ。それに俺が転生者だってことはバレないように振る舞いますから。冒険者ギルドのカードが使えないのは痛いけど……」


 元々冒険者だったハルは、当然冒険者としてギルドに登録している。だがサッカレー王国でのトラブルのため彼のカードは没収されていた。

 第一、あったとしてもSランク冒険者ハル・ノートは、転生者として知られている。


 ハルは今後、偽名を使って活動する必要があるだろう。


 俺は彼に小さな袋を手渡す。


「チレムソーコインだ。使ってくれ。身分証明書が必要な場合、賞金稼ぎギルドにいってみるといいかも知れない。経歴を訊かれず登録できる」

「ああ、ありましたねそんなん」


 袋を受け取ったハルは、これからあらゆるリスクを背負って旅立つ。

 俺は言った。


「もし可能であれば獣人を探せ」

「獣人?」

「口頭で、形だけでいいから奴隷の契約をしてもらえ。ひょっとしたら、ヌルチートの呪いを無効にできるスキルを持っているかも知れない」


 ハルの視線は、俺の隣に立つラリアへと向けられた。また俺に向き直り、うなずく。

 そしてハルはにっこりと笑った。

 ハルが笑うところなど初めて見たような気がする。


「ロスさん」

「何だろう」

「言ってませんでしたね。助けてくれてありがとうございます。俺、やってみます。ロスさんが俺にそうしてくれたように」


 俺が何か言う前にハルは馬車へ乗り込んだ。


「進捗は手紙で知らせます。ギルドで受け取ってください!」


 窓からそう言うと、車輪に紫の炎を吹かせながら走り去っていった。


 俺たちはハルの不思議な馬車が、草原の丘を登っていくその様を、少しばかり呆然として見ていたかも知れない。


「……あいつ、どしたんだろうね」

「初めて会った時ぁ、あんな覇気のある顔じゃなかったような気がするなあ」


 それぞれ呟いた2人に、俺は何も言わなかった。


 馬車が丘の向こうへ消えるのを見届けて、俺たちもバギーとキャンピングカーに乗り込み、帝国の首都へ向かった。





 よく晴れた日だった。


 やや南西へ向けて伸びる帝都への進路は、石畳で舗装されている。おそらく輸送能力の向上のためにそうされたのだろう。ガスンバ南支部はオルタネティカ帝国の版図の北、端っこだったが、そこまで舗装が行き届いていることが、帝国の強大さを匂わせていた。


 その道に沿いながらも少し外れてバギーを走らせる。オフロードタイヤで石畳に疲労をかけるのも悪い気がしたからだ。


 助手席にはラリア。後方に流れ去る景色を眺めている。遠くの草原に牧畜の羊が、飛び散った白いペンキのしぶきのように見えていた。


 途中で立ち寄った小さな街で食事休憩。2人が運転を代わってくれなかったので午後も俺が走らせた。


 日が傾き始めた頃、城郭が近づいてきた。


 少し車を止めて地図を見てみるが、帝都ではない。

 我々が今いる地域はサイディス領という名前で、そこにある街のようだ。


 ガスンバ南支部から帝都までの、半分の位置。


「今夜は泊まりになりそうだな」

「泊まりになりそうです」


 地図をラリアに渡し車を進める。

 城郭よりもかなり手前にきた時に車を降り、アルマジロのリュックにしてラリアに背負わせる。

 城郭まで歩いていってから門番に、俺のギルドカードを見せた。





 城郭の中は結構な人でごった返していた。


 ドイツの街並みを彷彿とさせるような厳格でシックな建物の間を通る石畳は、夕暮れに玄関先で灯された各家のランプによって照らされている。


 そこを大勢の人々が行き来している。


 俺は近くを歩いていた中年男性を呼び止め、


「失礼。今日は何か祭りでも? ずいぶん人が多いようだが」

「ここはサイディアカの街だよ」

「知りたいことはわかった失せろクソ野郎」

「ここはサイディアカの街だよ」


 立ち去る中年をよそに、辺りの人々を見回す。


 大半の人間が武装していた。

 軍隊のように統一性のある鎧と衣服を身につけた者もあるが、ほとんどはめいめい違った装備。革鎧の者もあれば、金属鎧の者もあるし、鋲のついた革のベストを着たスキンヘッドもいる。


 パンジャンドラムが呟いた。


「冒険者っぽいね」


 我々が雑踏の答えを見出したのは、サイディアカの宿にいった時だった。


 俺たちは宿で門前払いを食らったのだ。

 満室だと。

 宿の従業員が申し訳なさそうに、

「各地の冒険者が帝都の招集に応じて旅をしてるんです。それでお部屋の方はちょっと……」

 と言ったものだ。


 そして、俺たちは日の暮れた街角で途方に暮れていた。


「ロス君どうする……?」

「キャンピングカーは……せめえんだよなあ」

「まあ大半ウォッちゃんがスペース占めてるからね」


 空は日の沈んだ直後の暗い紫。

 我々の立ち話は、武具屋でキャンプ用品を買って城郭外でバーベキューという方向まで飛躍していく。


 そんな時だった。


「ちょっと君たち」


 そんな声をかける男があった。

 そちらを見やると、頭頂部の尖った金属製ヘルメットを被り、金属の胸当てを付け、腰にサーベルを吊るした男が、すぐそばに立ってこちらを見ている。2人。


 お揃いの衣装だった。駅伝選手のようにタスキも掛けている。

 イタリアの憲兵を思わせた。俺は彼らに、法執行機関の者のような印象を受けた。


「何か?」


 俺が問いかけると、右側に立っている方の男が、俺の左腕を指差す。

 そこにいるのはディフォルメのラリア。


「失礼だが、君とその子の関係は?」

「関係? 奴隷だが」


 2人の憲兵くさい男は顔を見合わせた。

 そしてこちらを向き直り、ため息をついた。





 そして、次に我々は牢屋の中で言い争っていた。


「いったい何だっておれら牢屋に入れられてんだ……」

「ウォッちゃんの顔がよくなかったんじゃない? ガラ悪そうだし……」

「何だと生まれつきだ! ロッさんだって目付き悪いだろオェ! だいたいおまえさんだって顔色悪いぞ!」

「いやあんたと同じような色だし」


 ここは街の中心部にやや近い場所。

 先ほど出会った2人は街の衛兵だそうで、ついてこいと言うものだからついていくと、そのまま衛兵本部の建物に入っていき、そのまま地下の留置場に放り込まれた。


 石造りの牢。

 鉄格子の向こうに留置場の通路があり、壁のランプは光が弱く薄暗かった。


 牢の中には筵が3つあるだけ。


「おーい! こらーっ! 誰かーっ! 誰かいないのーっ! おーい!」


 パンジャンドラムは格子を掴み、通路の奥へと叫んだ。

 奥の方から一人、男がやってきて、牢の前に立つ。


「何だうるさいな! 静かにしろ!」

「ちょっとちょっと! 説明ぐらいしてよ。何でオレたちをここに閉じ込めるんだよ!」

「おまえらが帝国憲法に違反してるからだろうが!」

「帝国憲法?」

「知らないのか! ……知らないだろうな、ゴブリンだし……。いいか、このオルタネティカ帝国では、獣人を奴隷としていることを禁止しているんだ」


 番兵らしき男は、俺の隣に座っているラリアを指差した。


「この国では原則的に……あくまで原則的にではあるが、ヒューマンと獣人は同じ街では暮らさない。獣人はしかるべきコミュニティで生活する義務がある。獣人が獣人区以外をウロウロしてるだけでも違反なのに、おまえ」


 彼は俺を指差して、


「おまえは奴隷として連れ歩いている! けしからん奴だ! だから牢に入れてるんだ! わかったらおとなしくしていろ!」


「いやわかんないよ」パンジャンドラムは言った。「オレら外国人だよ? いきなりそんな、人間関係のあり方に口出されたって……」


「ええいやかましい! 人の国に入り込んでおいてマイルールを貫こうとするな! これだから移民……特に冒険者という奴らは困るんだ……と言うか、外国じゃゴブリンやオークの冒険者もいるのか?」


「いやオレらは冒険者じゃないけど」


「うるさい静かにしてろ喋るな!」


 番兵は遮って踵を返した。

 その背中に俺は声をかけた。


「獣人奴隷は違反だと言ったな。ではこの子はどうなる?」


 番兵は足を止めて振り向き、


「どうせその子はゴースラントからさらってきた子なんだろう。当然獣人街で保護されるか、もしくは……リベレイトエンジェルの保護下に置かれるだろうな! 今日はもう遅いからここで拘留するが、明日になれば取り調べを受けてもらう。法に違反し奴隷を所有したおまえには重い罰がくだるだろう!」


「外国人でも?」


「外国人でもだ!」


 そう言うと、番兵は今度こそ立ち去っていった。


 リベレイトエンジェル……久しぶりにその名を聞いた。たしか、所有者に辛く扱われる獣人奴隷を保護し、故郷へ送り返す活動をしている慈善団体だったか。


 ラリアを見やると、向こうも俺の顔をじっと見ていた。


「ロス君、どうする……?」

「いきなり逮捕とか聞いてないぜ……」


 パンジャンドラムとウォッチタワーは鉄格子の前で立ちすくんでいた。

 俺は筵の1つに仰向けに寝転がった。


「ちょうどよかった。雨風をしのげる宿が見つかった」

「ええー……」

「ロッさん……」

「明日になれば取り調べが始まるそうだ。その時にホッグス少佐に連絡を取ってもらうよう話すさ」


 そして帽子を顔の上に乗せる。


 そもそも我々は帝国軍のホッグス少佐とツェモイ騎士団長に招かれてこの地にきたのだ。話がきちんと通っていないのは少しがっかりだったが。


 ラリアが俺と壁の間に潜り込んできた。

 パンジャンドラムとウォッチタワーのため息が聞こえる。


「ロス君さあ……」

「肝が太すぎだろこの人……」


 俺は帽子を持ち上げ、言った。


「ローマに入りてはローマ人のように振る舞え、だ」


 それに。


「それに……いずれ元の家に帰ることになる。慌てることはない」


 俺は帽子を下ろした。




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― 新着の感想 ―
[良い点]  ロス・アラモスが悠然と寝た。いずれ帰る。いずれ帰ると物事がおざなりになってやしないかと心配だが、大丈夫なのか。奴隷という名の友人が平等という差別に引き裂かれないか。
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