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第169話 洞窟の奥に


 時計があればおそらく午前だと断定できただろう。朝靄が晴れた頃、俺たちはオーク村を後にした。


 巨木の立ち並ぶ大森林を、浮遊するスピットファイアに先導され歩く。


 俺の前、やや左を歩くウォッチタワー。スピットファイアの真後ろだ。

 ウォッチタワーの左後ろにパンジャンドラム。ハルは俺やパンジャンドラムより後ろをついてきていた。


「なんか……RPGみたいな話になってきましたね……」


 振り返ると、ハルが俺を見ていた。


「と言うと」

「あ、ほら、魔族との戦い、とか……世界の崩壊を食い止めろ、とか……」


 俺はウォッチタワーを見やってみた。

 彼の横顔は、どことなく神妙な面持ちに見えなくもなく、ただ黙々とスピットファイアを追いかけている。


 オーク村を出る時、多くのオーク(ユーモアのセンスには年齢が出るものだ)が見送りにきていたことを思い出す。


 ウォッチタワーに対してだ。オババ氏が語ったことをそっくりそのまま信じるなら、彼らにとっては今生の別れということになる。


 ベースにいた俺たちに連絡をよこすのに2日を要したのは、あるいは別れを惜しむためではなかったのか? 部外者の俺には関係のないことでもあり、邪魔になるのもアレだから、ウォッチタワーたちオークが抱き合って、ひとりひとり別れの挨拶を済ませる様をあまり見ていなかったが。


「じゃああれだねえ。ウォッちゃんが主人公? 世界を終末から救う選ばれし勇者って感じ?」

「ああ……ウォッチさんのスキルってなんか補正かかってんのかって感じですもんね」

「じゃあオレは……なんだろ。ゴブリンが起き上がって仲間にして欲しそうにこちらを見ています、からのメンバー入り?」

「自虐がキツイような……」

「おまえはフォーク業者な」

「いや、商人ってジョブあるでしょちゃんと……」


 RPGか。


 ロールプレイングゲーム。

 役割を演じる遊び。


 我々は個性的すぎるかも知れないが、たしかにそういうメンバーに見えなくもない。

 宿命を背負った勇者。改心した魔物。国を追われた若き王。マスコットのコアラ。


「ねえ、ロス君はRPGどっち派だった? ファイナリックファンタジアとドラゴニッククエスチョン。オレ、ディーキュウ派」

「あっ、俺はエフエフ派……」

「ロス君は?」

「……オブリビオニング派」

「洋ゲーかあ。自由すぎて何していいかわかんなくなんない? オープンワールドとか」


 正直なところ、パンジャンドラムがあげた2つのタイトルはどちらもプレイしたことがない。

 その2つはたしかに、俺が子供だった頃、社会現象を起こしたタイトルだ。


 だが俺が初めてTVゲームなるものに触れたのは、20代前半の頃だった。コントローラーの使い方に慣れるのに2週間を要した。そして楽しみ方がよくわからず、黙って見ているだけで済む恋愛シミュレーションゲームしかほとんどやらなくなった。


 それにオープンワールドなら、ただ立ち止まって景色を眺めているだけでも時間が潰せる。


「でもディーキュウどれかはやったことあんでしょ? シリーズではどれが面白かった? オレ6」

「……ハルはどうだ?」

「あっえっ俺ですか? 俺ディーキュウはあんまり……しいて言うなら……7?」

「あーオレそれ持ってるけど時間なくてまだやってないわー」

「スピットファイア、どこへ向かっているんだろう?」


 ウォッチタワーの先をゆっくりと飛ぶスピットファイアに声をかける。

 妖精王は振り向いて言った。


「さあね。わからンね」

「何だと」

「心のおもむくままに従って飛ンでるンでね。ただこっちの方に飛ばなきゃならないような気がしてるのさ」


 また前を向く。

 代わりにウォッチタワーが俺を振り返った。

 俺はまずスピットファイアに言った。


「なあ、ちょっと訊いていいか」

「なンでも訊くといいお喋りは好きさ」

「君はウォッチタワーのこと、どう思う?」

「勇敢な戦士。オークの戦士長(せンしちょう)。森の守り人。魔女のくそったれドラゴンを葬って大森林(だいしンりン)を守ったチョーやべータフガイ」


 俺はウォッチタワーと視線を合わせる。


 スピットファイアは以前まで、ウォッチタワーのことをプロレスラーの観音寺塔義だと認識していた。

 だが今は、ガスンバのウォッチタワーとしか認識していない様子。


 パンジャンドラムがそばへやってきて、


「……中の人、目が覚めたから空っぽなのかな?」


 俺へそう囁いた。


「オババさんはスピットファイアがこの世界を創ったって言ってたよね。ひょっとしてオレたちがいるここって、スピットファイアの夢の中なんじゃあ……」

 

 やがて我々は森の茂みを抜け、滝にたどり着いた。


 ガスンバへきて初めてスピットファイアと交戦した時、俺は滝に落ちたことがあるが、方向からいってここはその滝ではない。


《コンパスマーカーのスキルが解放されました》


 俺が落ちた滝は双子山から南。だが今俺たちは山から西へ進んでいた。


 それに滝はあの時と違い大きなものではない。高低差は5メートルほど。俺たちが抜け出た茂みは滝の真ん中ほどの高さだ。


 俺たちが滝の傍の岩場に立つと、スピットファイアはそのまま、滝の傾斜に沿って、落ちる水の方へ飛んでいく。


「ついてきな。滝の裏になンかある」


 その言い草からするに本人も何があるのかよくわかっていないのだろう。傾斜をよく見ると、たしかに流れる水の向こうに、洞穴のような暗がりが透けて見える。


 そこへ突っ込んでいこうとしたからか、ウォッチタワーがスピットファイアを両手で包み込んだ。なるほど、水の重さで羽根が折れでもしたら大変だ。


 俺たちはずぶ濡れになりながら滝裏の洞穴へ入った。


 水音が反響していた。奥行きはかなりあるようで、奥へいくほど暗がりが深まって見える。

 ウォッチタワーの手から出てきたスピットファイアの体が発光した。松明がわりらしい。奥へ飛んでいくのでそれに続く。


 たどり着いた突き当たりは、通ってきた穴よりも広い空間。


 そこには、布が被せられた大きな物が2つ置かれている。


 2つとも、横幅のある大荷物のようだ。高さは、右の物が俺の背丈ほど。左の物は、ウォッチタワーの身長ほど。


「スピットファイア、なんだいこれは?」

「さあね。それについてはわからン。たぶン僕が用意したものじゃない」


 スピットファイアはそんな曖昧なことを言いながら広間の奥へ飛んでいき、布を被った2つの置物の裏側へ消えた。


 そして姿を現した時には、古びた木箱を抱えていた。それを俺たちの方へ運んでくると、足元に置く。


「これは?」

「わからン。僕の内なる声がこれを貴様(きさン)らに渡せと囁くのだ」


 木箱はRPGに出てくるような宝箱のような形。縁は錆びた金属で補強してある。蓋とおぼしき場所に、鍵穴。


「鍵は?」

「僕は持っとらン」


 ウォッチタワーはしゃがみ込むと、宝箱に手をかけて、力づくで開いた。

 破壊音と共に蓋はちょうつがいごともぎ取れた。彼はそのまま、箱の中にあった物を取り出した。


 本。いや。

 綴じ込みのバインダーだった。


「これプラスチック製だぜ……」

「マジ? この世界プラスチックとかあんの?」

「あっ……グリーンスライムは固めるとそれっぽくなりますけど……」


 ハルはバインダーを受け取った。しばらく撫でさすっていたが、


「いや、違うな……スライム板はもっと柔らかいもんな……完全にプラスチックですよ」


 そして俺に手渡す。

 開いてみた。


「何があんの?」

「……新聞だ」

「新聞?」


 俺は開いたバインダーの中が見えるようにみんなへ向けた。


「……ほんとだ。新聞の切り抜き記事だ」

「ジャパン経済新聞……通称JK新聞じゃないですか!」


 バインダーには数枚の紙が綴じ込まれていて、1枚目はJK新聞の切り抜き記事。


「ロッさん、何の記事だいそれ……」

「……日本の少年がコンピューターを自作した、という内容の記事だ」

「コンピューター……」

「その少年の名前」


 俺は記事のいち文を指で示して、みんなに見せる。


「吐院火奈太だ」


 3人は食い入るように記事に顔を寄せた。それからそろってスピットファイアを見つめる。


「でも……これが何か?」


 ハルがそう言って俺を振り返った。


「パソコンの自作なんて、誰でもできるってゆうか、やるんじゃあ? なんでそんなことが新聞記事に……?」


 俺はもう一度記事に目をやった。


「……画期的、コンピューターと書いてあるな」

「え、どんな?」

「わからない。画期的としか書かれていない」


 実際、小さな記事だった。製作者である少年の名前、居住地の県名、「難しかったけど頑張りました」という本人の短いコメント。それと……。


「何それ」パンジャンドラムが言った。「よくそんな記事で金もらえるね」

「不登校児だとも書かれてある。体が弱くて学校に通えない少年が、自宅学習によってコンピューターを作った……」


 そういう内容。

 あとは記事にある白黒の写真。端には優しげだがやや遠慮がちに見える微笑みを浮かべた、母親らしき女性。

 中央に、ベッドに座った可愛らしい顔の男の子が。カメラに向かってピースサインをしている。


 俺の手にある記事をのぞき込んだウォッチタワーが言った。


「……会ったことあるぜ。この子だ。間違いねえ。おれが火事から助けようとした子供」

「ロス君、他には何かある?」


 バインダーの別のページをめくる。


 地図のような絵があった。

 島の地図。あまり上手とは言えない絵だった。子供が描いたようなタッチ。

 しかしそのひり出した一本糞のような形状の島には、森林地帯だとか、中央の砂漠だとか、流れている川だとか、そういったものが文章による注釈付きで、細かく書き込まれている。


 絵の左隅には、島の名であろう単語がある。


 ゴースラント大陸。


「……ラリアの故郷だな」


 俺の言葉に、みんなは地図をのぞき込む。


 大陸の絵は、西端の、やや上向いた部分が赤い線で丸く囲ってあり、注釈だろうか文が書かれてあった。


「……ここへいってください。って書いてあるね……ちょっと待って、しかもこれ……!」


 パンジャンドラムは俺からバインダーを引ったくると、地図に顔を近づけ、


「ここへいけば地球に帰れるって書いてあるよ!」




 

なろうの仕様が変わりましたね。

何話からでも評価ポイントが入れられるようになりました。

入れられるようになりました。

ポイントが。

ええ。

ポイントがね。

入れられるように。

下の方からね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >ジャパン経済新聞……通称JK新聞 スゴイ!うまい!
[良い点] オーク村を出る時、多くのオーク(ユーモアのセンスには年齢が出るものだ)が見送りにきていたことを思い出す。 自分で言って自滅するけどクールなところ好き。 ロスは落ちぶれる前はゲームなん…
[良い点]  地球に帰るのか。 異世界物の定番問題が勃発。帰れるなら帰るか。しかし死人が帰って何になるのか。それとも死んでいないのか。たとえ生きていてもそんなに頑張って帰るほど地球ってそんなにイイトコ…
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