第159話 リスポーン
「くったばれーーーーー!!!!!」
叫んで放たれたスピットファイアお得意の光弾攻撃は、やはり《ドラゴンウォール》に波紋を起こしただけだった。
ウォッチタワーも大槌を見舞おうとエンシェントドラゴンに近寄ろうとはしていた。
正直、全長200メートルはあるうえに体表が炎に包まれているドラゴンに、ハンマーを食らわせることでどうにかしてやろうとしているウォッチタワーの正気を疑わないでもなかったが、やはりというか、彼はのたうつ巨体の前に足踏みを余儀なくされていた。
「おンどれがーーーッ!!! 死ねーッ! 虫ケラが粘ってないで早く死ねーッ! あれこれスペースを占有しやがっておまえはこの世に生まれてきてはいけなかったンだーーーーッ!!!!!」
燃え上がる巨体の周囲を飛び回りながら、血も涙もないスピットファイアは差別発言によってドラゴンを傷つけようとしていた。
だが尺取虫というのは耳があるのだろうか? どこ吹く風とばかりに麓へと進む。
「スピットファイア! ウォッチタワー! 固有スキルを使うんだ! 固有スキルを使えばドラゴンの障壁を破れるはず! 君らで言うと、《リスポーン》か《エッグ・ロジック》だ!」
しかし同時に、ドラゴンは口を大きく開き、火山弾を吐き出した。俺たちはめいめいスキルを使い避ける。
ドラゴンは次から次へと火山弾を打ち込んできた。
俺は避けながらふと、背後を振り返る。
火山弾は、そっくりそのまま火山のエネルギーを流用しているものかかなりのパワーがあり、放物線を描くこともなく一直線に飛んでいた。
ドラゴンより山の下側にいる俺たち目がけ飛ばされた岩の弾丸。山の斜面に平行に沿って、麓へ向かい飛んでいる。
だが麓までは落ちなかった。
火山弾はあるところまで飛ぶと、空間の壁に消えた。
そして……再び空間から現れ、元の勢いのまま逆走してきた。
「みんな気をつけろ! 後ろからも飛んでくるぞ!」
スピットファイアが張った四霊の結界のせいだった。
あの結界は、境目に侵入すると逆向きになって出てくる。今や俺たちは、ドラゴンからの攻撃と反転してくる火山弾の挟み撃ちに合っていた。
「ロッさん! 固有スキルを使えったって、どんな風に使えばいいんだ⁉︎ おれのスキルってつまりどんな能力なんだよ⁉︎」
両サイドからの火山弾を大槌で豪快に破壊しながら叫ぶウォッチタワー。
大変失礼だが、そんなこと知るか。ウォッチタワーの《エッグ・ロジック》は物理法則を捻じ曲げる能力というが、それで《ドラゴンウォール》をどうすればいいかだなんて使い手でもない俺に訊かれても困る。
スピットファイアの《リスポーン》にしてもそうだ。
死んでも何度でも蘇るスキルだというのはわかったが、死ぬということは勝てていないということだ。ドラゴン狩り専用のスキルが固有スキルとのことだが、負ける前提のスキルでどうすればいいのか。
「ロスさん、後ろッ!」
ドラゴンを見上げ物思いにふけっていた時、背後から火山弾が飛んできた。
ハルが目にも留まらぬスピードで駆け寄ってきて、それを飛び蹴りで砕く。
こんな感じで彼に救われたのは2度目だ。
さすがは冒険者学校卒のエリート、経験豊富で隙がない。こういう調子で彼も以前、ドラゴン狩りに成功したのだろうか……。
ふと、そのハルがドラゴンをどうやって倒したのか思い出した。
たしか、《プロジェクト・フィラデルフィア》で障壁の中にワープし、そして剣術によって倒したという話。
俺は尺取虫を見やった
燃えてのたうつ巨体。あの中に飛び込めば、ハルにとって危険すぎる。だから俺はウォッチタワーたちに賭けているわけだ。
だがスピットファイア。
妖精は飛べる。
しかもスピットファイアの《リスポーン》は、自然界にあるマナのエネルギーを取り込み肉体を再生させるという。
そしてスピットファイアは現に、俺のマイクロウェーブや、水蒸気を使って再生したことがある。
火山弾を避けつつドラゴンの眼前を飛び回っていたスピットファイアに、俺は言った。
「スピットファイア!」
「なンじゃい! いいアイディアでも思いついたか!」
「まあな。悪く思うなよ」
「あン?」
《ハードボイルを発動しました》
マイクロウェーブの光線を発射。
狙いはスピットファイア。
体の小さいスピットファイアは声も出さずに爆死した。
「ロッさんてめえ気でも狂ったかーーーッ‼︎」
ウォッチタワーはロス・アラモスに向かって大変失礼な発言をした。
と同時に、
《スピットファイアはリスポーンを発動しています》
《吐院火奈太の再ダウンロードが開始されました》
《Respawn‼︎》
スピットファイアが、ドラゴンの体のすぐそばに出現。
「おおっ⁉︎ スピットファイア、ワレ生きとったんけ!」
「ガハハハハハ黒帽子ッ! 貴様にはノーベル精霊賞を2つあげちゃうッ!!!!!」
出現したのは《ドラゴンウォール》の内側だった。
なるほど、《リスポーン》はこう使うのか。
ハルの固有スキルと似ているが、失敗しても何度でもやり直せるぶん上位互換と言えなくもない。
もっともドラゴンが何かしらのマナを発していなかったら再生できないという欠点もあるが、この場合はドラゴンのまとう火のマナが、俺たちに有利に働いた。
「死ねやーーーーーッ!!!!!」
《スピットファイアはかんしゃく玉のスキルを発動しています》
障壁の中に侵入した妖精王。尺取虫の長い体に沿って飛び、満遍なく光弾を打ち込んでいく。
「ガハハーッ! 手こずらせやがってッ! でもこれでジエンドじゃーーーーいッ!」
尻尾までいき、そしてまた光弾を連射しながら頭の方へ戻ってくるスピットファイア。
しかし……パンジャンドラムが言った。
「ロス君……あいつ、なんか顔色悪くない?」
飛び戻るスピットファイア。
汗だくだった。
表情も歪んでいる。
「うわ……あっつ、ここ……なンじゃここ……」
飛行のスピードも落ちていた。
「ロ、ロス、まさか」ホッグスが言った。「ドラゴンは障壁があるのか? それで中に入れないと……?」
「ああ、それが?」
「ひょっとして……出られないのでは……?」
一瞬、ホッグスが何の話をしているのかわからなかった。
だがすぐに、言わんとしていることにパンジャンドラムも気づいたようだった。
「……めっちゃ、熱がこもってるってこと?」
スピットファイアは今やヘロヘロだった。
ホッグスやパンジャンドラムの推察のとおり、障壁の内部はドラゴンの体の炎の熱が溜まり、かなりの高温のようだ。
内部をヨロヨロと飛ぶスピットファイアは、もう光弾を撃つのもやめたほど衰弱していた。
その時、ドラゴンもまた動くのをやめた。
地に横たわったまま、何かプルプルと震えている。
「なンだ、臭い……」
スピットファイアがそう呟いた瞬間。
《ドラゴンウォール》の内側に、一気に炎がほとばしった。
障壁のため漏れてはいないが、そのぶんドラゴンの姿すら見えなくなるほど発光した。
『スピットファイアが死亡しました‼︎』
直後、後ろの方から声。
「ロス、避けて!」
同時に発光するドラゴンの顔面辺りから光線が発射された。
俺たちはそれを避けた。通りすぎた光線を振り返ると、射線の先にエルフがいて……。
「エルフ魔法、ハイパーXカウンター!」
魔法によって、ドラゴンの光線を上空45度に跳ね返した。
ドラゴンはブレスを吐ききり、体の光も収まった。その隙に駆け上がってきたエルフ。
「くっさ! これオナラだわ! オナラに火をつけたのよ!」
「お、おいロッさん! それよりスピットファイアが……」
「大丈夫、あいつは何度でも蘇るさ」
《Respawn‼︎》
言葉のとおり、早くも再出現したスピットファイア。やはり障壁の内側だった。
あらためて攻撃を再開した。
だがまたすぐに動きが弱まり、攻撃も止まる。
「あづい……」
「ぐ、ぐう…………!」
スピットファイアはたしかに、何発も光弾を撃ち込んでいた。しかしドラゴンの肉体が巨大なためか、あまり効果的なダメージを与えられているようには見えなかった。
「あついよー……」
完全に動きが止まったスピットファイア。かろうじてホバリングはしているが、白目を剥き始めている。
俺は気づいた。
ウォッチタワーが震えていた。
彼の手から、大槌が地に落ちた。
「よし、おれがいく……!」
「あっ、待ってよウォッチタワーさん! いってどうするつもりなんですか⁉︎ スキルの使い方もよくわかんないのに……」
ハルの言葉はもっともらしく聞こえた。
だがウォッチタワーの目は弱ったスピットファイアに向けられたまま。
そして言った。
「……あいつ、あの中にしか出られねえんじゃねえのか? なんか頭ん中で声がするぜ。マナの力を使って体をどうのってよ。つまり、今あいつはドラゴンの火で体を作ってんじゃねえのか?」
「そう、だと思いますけど」
「だったらあいつは、ずっとあの中に生まれ続けることになる。何度も、何度も。あの火の中に。ずっと火の中に生まれるんだ」
「で、でも! スピットファイアは本当に死ぬわけじゃ……!」
ウォッチタワーはハルを振り返った。
「人間はな。体は生きてても心だけで死ねるんだぜ」
息を呑んだハル。
「おれにはわかった。あいつ……おれが火の中から助けそこねた、あの男の子なんだ。きっとそうだ。スピットファイアは頭のおかしい奴だけどよ。やっとわかった。あいつ、今でも死に続けてるんだ。あの日からずっと。正気でなんかいられるもんかよ」
ウォッチタワーはドラゴンを見据えた。
「やってやるぜ……子供1人助ける力もねえほど弱ええのに何がプロレスラーだ……森も守れなくて何が戦士長だ!」
そして走り出した。
「やってやるっつってんだよオェ!!!!!」
迎え討つドラゴンはそんなウォッチタワーに火山弾を発射した。
拳を振り上げ、それを打ち砕こうとしたウォッチタワーだったが……。
《ハル・ノートはツープラトンのスキルを発動しています》
《ハル・ノートはプロジェクト・フィラデルフィアを発動しています》
《パンジャンドラムはレギオンを発動しています》
ウォッチタワーに先行し3人のゴブリンズが飛び出した。
ゴブリンズは空中へ飛び上がり、それぞれ互いの足首を掴みあい、三角形を作り出す。
その三角形の中に火山弾は吸い込まれた。
ウォッチタワーの背後へ追走するハルとパンジャンドラム。
「ウォッチタワーさん、止まらずに走って!」
「いけゴブリンズ! とりあえずあいつの顔面ふさげッ!」
わらわらと大量に出現したゴブリンズがドラゴンへと殺到。彼らは《ドラゴンウォール》へと突っ込んだが、波紋を起こしながらもすり抜けていく。
そうやって燃え盛るドラゴンの体にしがみついていった。おまけに互いの首筋に噛みつきあって、血液を噴出。炎を消そうとしていた。
ゴブリンズの数はドラゴン全体を覆うには不充分ではあったが、蒸発する血液の蒸気が障壁内に充満し、たしかにドラゴンの視界をふさぎ始めていた。
「そりゃーーーーッ!!!!!」
ウォッチタワーも体当たり。
ウォッチタワーの方は《ドラゴンウォール》に衝突したまま、中へは入られなかった。
しかし彼は。
その《ドラゴンウォール》を太い両腕でをわっしと掴み。
言った。
「しゃらくせえーーっ! ぶつかって通れねえってことは……つまりさわれるってことだーーーーッ!!!!!」
《ウォッチタワーはエッグ・ロジックを発動しています》




