第137話 ホッグスとの再会
お詫び
前話において「8+3」をハルが「12」と答えたのはミスです。修正しました。
決してハルがもともとおバカだとか、館の呪いがまだ効いているという伏線とかそういうんじゃないです。
純粋に間違えました。
縦穴を登りきった。
鍾乳洞めいた広い空間に、荷運び用の台車やツルハシなどが散らばっている。
俺たちのいる昇降口から奥の横穴までトロッコ用のレールが続いているのが目に入った。
ツェモイが俺の背から降りつつ、
「先ほど通信具でこちらに人を送ると言っていたが動きが遅いな……」
と呟いた。
レールの通路へ走りこむ。
やがてラリアが耳をピクピクさせ、
「マスター。向こうで誰かケンカしてるです」
レールの先を指差した。
さらに走ると、ラリアの言うとおり怒号と、金属を打ち合わせる音が聞こえてきた。通路の奥に火花が明滅しているのも見える。
やがて俺たちは、整然と区画された広い部屋へと出た。
そこにはグレイクラウドと2人のオークがいた。彼らがツルハシを振り回し、5人の女騎士と戦っている。
「ミーシャ! 戦闘をやめろッ!」
ツェモイが走りながら呼びかけた。その声に振り向いた女騎士が……。
「ああっ! ロス・アラモス! 会いたかったわ!」
背中からヌルチートを出現させた。
残り4人の騎士もだ。
「いくぞーラリアーッ!」
「おーっ!」
《ラリアのディジェスターが発動しました》
《ツープラトンのスキルが発動しました》
《カミカゼ・ブーメラン‼︎》
投擲。
光をまとい高速で飛んだラリアが、騎士5名の鎧を破りさった。
《女騎士Bは気絶……
要は全員気絶した。ヌルチートも消えていく。
ツェモイが倒れた騎士たちに駆け寄るのをよそに、俺はグレイクラウドのもとへ。
「おうロスさん! なんでここに⁉︎」
「ランドッグか知らせてきた。俺の仲間を知らないか?」
「あの強いゴブリンか。館で一緒に帝国戦士と戦ったんだが、急に弱くなっちまって……すまねえ、連れていかれちまった! 奴らそっちのハルさんを見つけきれねえで、そしたらいっちまったんだ、地下通路に」
別のオークが言った。
「追おうかどうか迷ったんだけどよ、おれら。呪いがあるから……したらきたんだ、妖精たちが。おれらをどっかの部屋に案内して、壊せって言ってきた、何かの魔道具を」
……あの円筒形の台座の機械か。
「そんでまた地下へいけっつーんだ、妖精が。で、ハルさんはどこいったかわかんねーもんで、おれらだけでここに……」
ハルを見やると、彼は眉をハの字にして目をそらした。
グレイクラウドが言った。
「ロスさん、説得は上手くいかなかったのか、スピットファイアの?」
「奴に会える前にこうなってしまった。妖精たちは?」
「下の兵士からおれらを幻術で隠してくれたんだが……ここに上がったら飛んでった、奥へ。ウォッチタワーはどうなった?」
「彼もここへきている。エルフを覚えているか? ウォッチタワーの足は彼女が治した。今2人は双子山の祭壇へ向かった。スピットファイアがそちらへ飛んでいったんだ」
不思議そうな顔をしたグレイクラウドのそばで、
「おいミーシャ! ミーシャ起きなさい!」
ラリアに気絶させられ倒れた騎士の1人の頬を、ツェモイが引っ叩いている。
ミーシャと呼ばれた騎士はうっすらと目を開けた。
「う……あ、団長? あれ? 私……」
「ミーシャ。少佐はどこへいった?」
「少佐……ホッグス少佐は奥に……あれ? 私たしか、ヌルチートを渡されて、ロス・アラモスを捕まえようとしてたような……?」
ミーシャの表情が、そばに立っている俺を見上げて固まった。
「あっロス・アラモス……!」
「ミーシャ、彼のことはいい。と言うよりなぜ捕まえようとしていた? 私はそんな命令出していないぞ」
「えと……えっ? いや命令じゃないです。少佐にやれとは言われたんですけど、私、自分でみんなと……あれ? 何で私そんなこと……」
ツェモイもまた俺を見上げた。俺は言った。
「……ナイト・ミーシャ。訊いていいだろうか? 俺の仲間はどうした? 背の低い男だ」
「ああ、あのゴブリン……」
ゴブリン……パンジャンドラムは衣服とドクロの仮面で正体を隠していたはず。引っぺがされたか。
「少佐が奥の広間の方へ連れていきました。それで、意見の相違があって」
「誰の? 何のだろう」
「えっと……私たち騎士団と女性冒険者の間で、4人の転生者のうち誰が1番カッコいいかでケンカになって……私とそこの4人はアラモス派ということで意見が一致したから、捕まえようとここへ……でも何で捕まえようと思ったんだろ……?」
ミーシャは首をひねっていた。
ツェモイが尋ねた。
「ミーシャ。少佐はなぜオークを待たず坑道に入った? ここで何をやっている? それに、ロス殿が戻ってくるのを見越していたようだが」
「たしか……坑道に入ってしまえば誰も追ってはこられないから、先に押さえましょうという判断で。ただ転生者だけは油断ができないから、ヌルチート所持者は警戒してくださいって……」
「少佐が言ったのか?」
「いえ……」
「では誰が」
ミーシャは言った。
「アップル顧問です」
ツェモイとハルの視線が俺に集中していた。
「……先へ進もう。グレイクラウド。エルフはこの坑道を進むと祭壇に出ると話していた。いこう」
「おう!」
「ミーシャ! 他4名も私に続け! 転生者のことは忘れろ!」
「はっ! ……えっ? はい……えっ?」
ミーシャ以下5名。首をひねりつつツェモイのあとに続く。俺たちは部屋の奥にあるさらなる通路へ走ろうとし……、
「あっあっ、ロスさん、これっ!」
ハルが叫んだ。
何事かと振り返れば、ハルは部屋の真ん中に立ち右の壁を指差していた。
そちらを見やる。
ガラス容器を取り付けられた2つの台座。それか3組並んでいる。
「俺、ちょっと違いますけどこんな感じのやつ見たことある……アリスが俺の屋敷に運び込んでた……!」
俺も見覚えがあった。
「ああ……ヌルチートの製造機だ」
周囲を見回すと壁際に木箱が並んでいる。俺はその蓋を開けた。中には小さなイガグリ状の木の実が入っている。
ツェモイもそれを覗き込み、
「ロス殿、これは? ブアクアの実のようだが……」
「ヌルチートの材料の1つらしい。そこの容器が製造機だ」
「ぬ……ミーシャ!」
「は、はいっ⁉︎」
「おまえは少佐とここを通ったはずだ。これが何か説明を受けたか?」
「はい、あの、これでヌルチートを造ってみんなに配れるから、転生者に負けることはないと……上にもまだたくさんヌルチートがあると言ってて」
俺からミーシャに尋ねた。
「少佐がそう言ったのか?」
「いえ……アップル顧問が……」
みんな、顔を見合わせていた。
「ナイト・ミーシャ。少佐たちは奥か?」
「はい、上の方に……」
「ハル、頼む」
「あっ……はい!」
ハルが魔法でヌルチート製造機を破壊しきったことを確認したあと、俺たちは部屋奥の通路へ向かった。
それから俺たちはスロープになっている通路を上っていったが、その際も男の冒険者たちとすれ違った。
そのつどツェモイが自分の指揮下に入るように彼らに言い、共に上部を目指した。
途中にはホッグスの部隊の兵もいたが、その場合はまずツェモイと騎士団が話しかけて気を引き、その隙に俺とハルが飛びかかって武装解除した。
その上で兵から話を聞いてみると、もしも俺かウォッチタワーのどちらかがやってきたら食い止めつつ、通信具で女の増援を呼べとホッグスに指令を受けた……ような気がすると彼らは話した。
あくまでも、気がする、だ。当人たちも記憶が曖昧な様子だった。
兵士たちには「ロクストン中尉たちがスピットファイアと交戦し怪我をしているから戻って救護を」とツェモイが話して引き返させた。
そうして、やがて俺たちは通路を上りきった。
天井からつらら石の垂れ下がるだだっ広い空間に出た。天井はトラス構造の骨組みで補強されているようだった。
そこは行き止まりなのか、我々がやってきた通路以外に道はない。ただ天井に大穴が開いていて、そこから外までつながっているのか陽の光が差し込み明るかった。
その陽だまりに、女騎士団と女性冒険者たちが集まっていた。
「マスター、ドラムおにーさんです!」
ラリアが指差した先。天井の穴から光が降り注ぐスポットに、3段ほど高くなった祭壇のようなものがある。祭壇には十字架が組まれていて、パンジャンドラムが吊るされていた。
その周りを騎士や女性冒険者が奇声を上げながら回り踊り狂っている。
「ロス君助けてぇ!」
石段には他にも女性たちが座っているが、そちらは頬杖をついたりしてつまらなさそうな顔に見えた。
だがその座っていた者たちがこちらに気づいた。
「ホッグス少佐! ロス様がおいでなさいました!」
祭壇を振り返って叫んだのは女性冒険者。俺は彼女の顔に見覚えがない。ロス様呼ばわりのあげく謙譲語で話されるいわれはなかった。
彼女が振り返った先には祭壇。
館で見た円筒形の台座と同じ物があった。
その後ろに高さ3メートルほどの黒い六角柱。根本部分からはそれぞれ(後ろの方は見えないがおそらく)6方にパイプが伸びていて、パイプの先には幾何学模様の描かれた箱が。
六角柱の上部には透明の膜でできた大きな袋。中には、館で見つけた黒い球が詰まっている。袋からは蛇腹が垂れ下がっていた。
そしてその六角柱の後ろからホッグスが姿を現した。
「……早かったな、ロス。オークはもう少し悩むかと思っていたのであるが。それに……ツェモイ団長も一緒か」
ツェモイが進み出て言った。
「ホッグス少佐……館では貴殿が私に説明を請うたな。今度は私の番だ。私の部下に勝手に命令を下すなどどういうおつもりか」
ツェモイの視線は祭壇周りにいる騎士団員に向けられているようだった。ホッグスはそんなツェモイを見つつ首をかしげた。
「……ツェモイ団長。ヌルチートはどうした? なぜロスと行動を……ウォッチタワー殿もおらんようだし……さては!」
ホッグスは目をカッと見開き、
「乗り換えたか! やはり細マッチョの真の魅力に……」
「人聞きの悪い侮辱はやめたまえ、この私が細マッチョなど……たんに貴殿がよこしたヌルチートは始末しただけだ」
目を針のように細めたホッグスへツェモイはさらに言う。
「いかなるおつもりかお尋ねしたいものだな。ヌルチートは人の理性を狂わせる呪いを持っている。貴殿とて、恥ずかしながら館での私たち騎士団の醜態を目の当たりにしてわかっているはず。なぜこんなことを……」
ホッグスは目を細めたまま答えない。
俺の後ろのグレイクラウドたちオークも何か言いたそうにしていたが、その前に俺は言った。
「……少佐」
「何だ」
「……そこの全員か?」
「…………」
「全員ヌルチートを持っているのか」
騎士団員が9人。女性冒険者は20人いる。
ホッグスは答えない。
十字架の上のパンジャンドラムが言った。
「そうだよ、全員だ! こいつらがいきなり館に入ってきて……」
俺はホッグスに顔を向けたままチラリとパンジャンドラムの腰を見た。ドクロ仮面とコートこそ脱がされていたがまだズボンは履いていた。
ホッグスへ尋ねた。
「…………君もか」
ホッグスは1度目を閉じきった。
そして彼女の背中から、ゆっくりとヤモリが顔をのぞかせた。




