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第百二十話 炸裂! ガスンバの大噴火!


 ツェモイが悲鳴をあげ剣を取り落とした。ウォッチタワーの握力によって、彼の指が手首にめり込んでいた。


 そしてウォッチタワーはその手首を離すと、今度はツェモイの胴体に腕を回してクラッチ。即座に上体の捻りのみでツェモイを振り回した。


 控えめに言って、それは狂的なスピンだった。車椅子の金属ホイールは石の床に火花を散らし光の円を描く。まったく地に踏ん張らず、ツェモイを振り回す慣性のみでそれをやってのけているのだ。


「びえーっ!」


 被害者はツェモイばかりではない。ウォッチタワーの肩に乗っていたホッグスもまた、文字どおりの困った立場に立たされていた。彼女はギアのイカれたメリーゴーランドの中心で、ウォッチタワーの頭にしがみつき回転している。


 ウォッチタワーは、投げた。

 ツェモイを、天井に。


 光の剣によって亀裂を入れられていたため強度が落ちていたのか、ツェモイの体は天井を突き破り、矢の如き速度で上空へ発射された。



 ウォッチタワーは回転の勢いのまま車椅子から転げ落ちた。床に背中をつけブレイクダンスのように2回転。

 そして次の瞬間、恐るべき背筋力によって跳ね上がった。


「ダッシャッッッ!」

「おわーっ!」


 ウォッチタワーはツェモイでブチ破った天井の穴から天へ旅立った。彼の頭にしがみついていたホッグスと共に。

 先に打ち上げたツェモイを追って上昇していく。


 ツェモイは運動エネルギーを失い落下を始めた。

 ウォッチタワーの方はと言えば、ツェモイを投げ上げたあとどんなプランがあったものか、上昇により追い越してしまっていた。


「バカめウォッチタワー、捕まえそこねたなあ!」


《ツェモイ団長はライトアローのスキルを発動しています》


 ほくそ笑んだツェモイの体が金色に輝き始めた。そして天井の穴から俺たちを見下ろし、


「これでも喰らえ、転生者ども!」


 と、両拳をこちらへ伸ばした。


《ライトアローの説明を受けますか? YES or NO?》


 もちろんだ。


『ライトアローは飛来物にエネルギーを与えて高速化させるスキルだぞ! 着弾と同時にエネルギーを解放、周囲360度を破壊する! 反抗的なコミュニティを原始時代に戻してやれ!』


 ……飛来物? ツェモイは飛来物を所持していないようだが……。


「ロ、ロス君! あいつ自分で突っ込んでくる気だよ!」

「あっ、このコアラと一緒だ!」


 転生者3人、揃ってラリアを見下ろした。

 ラリアを投げるとどうして光るのかと思っていたら、そういう種類のスキルだったのか。


 ツェモイは落下現象を投擲エネルギーにすり替え、自ら爆弾となったのだ。

 だが。


 ツェモイが自身の背後に目をやった。

 たぶん俺たちが、彼女の後ろ、上方を見ていたせいだろう。

 ツェモイもまた振り返ったが、その時驚愕の表情を浮かべた。


 すでにツェモイのすぐ上に、ウォッチタワーがいたのだ。


「な、なにっ⁉︎ 貴様、さっきまで上にいたはず……」

「おれが落ちてくるのがおかしいかい? 異世界人よ、万有引力ってもんを知らねえわけじゃねえだろ」

「バカな、物体の落下スピードには差などない! 追いつけるはずが……だいたい私は加速している……!」

「おれもさ」


 なぜかウォッチタワーが、輝きをまとうツェモイに接近し始めた。


「なっ……なぜ……⁉︎」

「わかんねえかい、おれぁもう1人乗せてんだぜ」


 ウォッチタワーの首に、しがみついたホッグス。ディフォルメを解除して、体重の戻った女性。


「おれの側は体重が2人分! こっちのが重いんだから先に落ちるに決まってんだろ!」


 見上げたハルとパンジャンドラムからそれぞれ一言。


「いやいやいや……」

「ないっしょ」


 物体にかかる引力というものは、一定のエネルギー。

 しかるに落下する、つまり宇宙において星に吸い込まれていく速度は、その星の重力の強さに依存する。どんな物質であろうと変わらない。


 地球上ではたしかに鳥の羽など軽い物が風に舞う時もある。だがそれは空気抵抗を受けているから舞うのであって、ウォッチタワーの巨体は空気で舞うには重すぎるし、空気を孕むには肌がツルツルすぎる。


 不可能の理論である。

 俺は一瞬、上空のウォッチタワーなる転生者の、前世における学業の成績に懸念を抱いた……しかし。

 

《ウォッチタワーは固有スキル、エッグ・ロジックを発動しています》


《エッグ・ロジックの説明を受けますか? Ye


 Yesだ。


『エッグ・ロジックとは、スキルの意味はわからんがすごい自信だ』


 真面目にやれ。


『エッグ・ロジックはあらゆる物理法則を、その場に臨んだ使用者にとって最も適した方向へと捩じ曲げるスキルだぞ!

転生者の固有スキルはエンシェントドラゴンのドラゴンウォールを破るためのスキルだけど、具体的にどう破れるかはその時々のノリによって違うぞ!

人生はしょせん刹那が盛り上がるかどうかだぞ!

ただし1日に5回しか使えないからご利用は計画的に!』


「いやいやいや……」

「ないっしょ」


《beat, beat, beat real and fake‼︎》


 ウォッチタワーの体がついにツェモイに到達。

 そしてツェモイの両足を掴み、開脚させる。


「うっ! どうするつもりだ!」

「決まってるぜ! 今まで俺がてめーにかかされた恥! 晴らさせてもらう! いくぜぇぇぇ!」


 言うが早いかウォッチタワーは反転。開脚したツェモイの股間に自分のケツを乗せた。


「あっ、種付けプレス……」

「ハル、あれは砧って言うんだ」


 正面を向けて抱き合う形ではなく、互いが反対の方向を向いている形。ウォッチタワーはそうやって、腕を伸ばしてツェモイの両足首を捕らえている。


「くっ、おのれ離せ!」


 ツェモイがその拘束する腕に、輝く手により貫手を放つべく上体をくの字に起こす。

 両手、同時だった。気づいたウォッチタワーは足を離し、貫手を後手に掴んで食い止めたが……。


「バカめ!」


 足の拘束を解かれたツェモイ。オークのケツから自分のケツを離そうとする。

 その足の動きは、ガスンバの至宝、つまりウォッチタワーの股間へ金的蹴りを見舞うための、膝を曲げる姿勢に入った。


「おい狐のねえさん! 手伝ってくれ!」

「はあ?」


 ウォッチタワーの首に肩車で座っていたホッグスが素っ頓狂な声をあげた。

 だが次の瞬間、


《ウォッチタワーはツープラトンのスキルを発動しています》


 いきなりホッグスの体が青白い光をまとい、


「おわーっ、何であるかぁーっ⁉︎」


 肩車のまま背中を反らしブリッジ。その体勢から、ホッグスの両手がツェモイの両足首を捕らえた。


 再びツェモイは砧固めの体勢に戻された。両手、両足をガッチリとホールドされ、抵抗もできないまま開脚姿勢を強要される。


「くっ……! この私にこのような恥ずかしい格好をさせて……っ!」

「何を今さらカマトトぶっとるのであるか」

「ウォッチタワァーッ! やはり貴様はよくわかっているなァーーーーーッ!!!!!」

「………………」


 複雑に絡み合った3者が急速に落下してくる。


「あっ、こっちきますよアレ」

「うわ、ヤッベ」

「ラリア、逃げるぞ!」

「はいです!」


 どういうわけかなぜか急加速する落下速度。


「そりゃーっ! ガスンバの大噴火ーっ!」

「それ技の名前であるか?」

「うわぁぁぁーーーーーーーっ!」


 砧のウォッチタワーとツェモイ、ブリッジのホッグス。

 砲弾の如き速度で空中廊下へ落ちた。

 天井を突き破るとほぼ同時に床も貫通。


 そして、大轟音。


 下の地面に着弾したらしいガスンバの大噴火とやらが衝撃波を発生させ、空中廊下、いや周囲の建物のガラスが砕けた。

 巻き上げられた砂埃が火山の噴火のように、床に空いた穴から一気に噴き上がる。


 とにかく凄まじい衝撃だった。


「うわー、ぺっぺっ!」

「すごい砂です!」

「あっこれ相手死んだんじゃないですかね?」


 俺は廊下に充満した砂埃を手で払いながら、穴の下を覗き込んだ。


 そこには、地面に大の字となったツェモイ。

 その横で座り込んだウォッチタワーと、ツェモイを見下ろすホッグスの姿があった。


「どうだ見たかオェ! これが、これがなあ! おれたちの力なんだよオェ!」

「…………私もであるか……?」


 ツェモイはぐるぐると目を回して、微動だにもしていなかった。





《ツェモイ団長は気絶しています》



–––––––––––––––––



 俺とラリア、パンジャンドラム、ハルは、床に空いた穴から飛び降り館の外、地上に立った。


 あたりはすでに夕暮れ、コの字型に建物で囲まれた空中廊下の下には、ひと足早く夕闇の暗がりができていた。


 そこにぶっ倒れているツェモイ。ついに女騎士団を全滅させた俺たち。


 俺とホッグスは顔を見合わせた。彼女は大人の女性の姿を取り戻してはいたが、相変わらず4本の尾を揺らし、軍の制帽を狐耳の上に引っ掛けた出で立ちでいた。お互い何を言うでもなく、ただため息をついた。


 ウォッチタワーも無言でツェモイを眺めている。


「ねえロス君」

「何だろう」

「これ……どういう状況?」


 いつの間にかパンジャンドラムが隣にやってきて俺を見上げていた。


「君の方こそどうしてここへ? どうして俺がここにいるとわかったんだろう?」


 彼はハルを振り返った。


「……あいつだよ。ラリアちゃんと一緒に川下にあんたを探しにいったんだ。そしたらあいつがウロウロしててさ。何やってんだって訊いたら、ロス君を見たって」


 ハルは俺たちから少し離れたところで、手持ち無沙汰の様子で俺たちを見ている。案内させて、ここへきたというわけか。


「それで? こっちは何? 窓から覗いたら騎士の人たちに追いかけ回されてたけど。……で、このオークさんが、転生者?」

「そこまでわかっているならもう説明の必要はないだろう? 彼が彼女の恋人だったのさ」


 俺はツェモイを顎でしゃくった。パンジャンドラムは鼻から息を吐いた。

 座り込んでいたウォッチタワーが俺たちを見上げた。まじまじと眺めていた。


「……なあ、その……あんたたちも、転生者……?」


 そう言った時だった。


 コの字の建物、俺が車椅子を押して逃げようとしていた方向の棟。

 ホッグスがそこに背を向けていたが、1階に扉がある。唐突にその扉が開いた。


「今の衝撃音は何をしたんですか〜……?」


 と、おそるおそるという風に……アップルが顔を出した。


「アップル」

「インティアイス殿! 無事であったか!」


 ちょこちょこと扉から出てきたアップルは、座り込んでいるオークと倒れた女騎士を見て目を丸くした。

 が、


「ひょっとして〜……この人がウォッチタワーさん〜?」

「インティアイス殿、彼を知っているのであるか? いや、それよりよく無事で……虫人間がいたはず……」

「それが〜、この人たちに助けてもらって〜」


 アップルが扉を振り返った。その扉から、2人のオークが姿を現わした。


「おお、ウォッチタワー!」

「ウォッチタワー、生きていたか!」

「うお、おめーら!」


 2人のオークはウォッチタワーに駆け寄った。互いに肩を抱き合っている。


「インティアイス殿、この方々は?」

「はあ〜……。ジェミナイトの鉱山道を探してたら、そこにいて〜」

「何、鉱山道?」

「入り口に結界が張ってあったんですけど〜、解いて中を覗いたらいたんです〜。閉じ込められてたそうで〜」

「いや、鉱山道とはいったい……? 貴君は館の中にいたはず……」


 その時、遠くからホッグスを呼びかける声が聞こえた。

 声に聞き覚えがある。ホッグスの副官、岩顏の男の声だった。


「やっと騎兵隊の到着か」


 俺が呟くと、何かホッグスが慌てたような顔をして、


「ロス! ちょっとそのコート貸すのである!」

「どうしてだろう」

「わ、私は葉っぱを取ってくる」

「葉っぱ」

「葉っぱがないと耳と尻尾を隠せないのだ! だからコート貸してくれ!」


 俺は脱いで渡した。ホッグスはそれを頭からかぶると、岩顏の声がした方とは反対へ走っていく。


「パンジャンドラム」

「なに?」

「兵士たちには、少佐は用を足しに行ったがすぐ戻ると言っておいてくれ」


 俺はそう言ってホッグスの後を追う。

 館の周囲に何もいないとは限らない。


 それに、コートを汚されても大変だ。



これにて第三章前編終了となります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一件落着。後は妖精がどうなるか。 [気になる点] 砧固めがどうなってるか。キ○肉バスターみたいな感じなのか。 [一言] 良いお年を。
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