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第百十九話 駆逐 ※


 ラリアは地に降り立った。

 

 ヌルチートを3匹残して、ついに《ツープラトン》の効果が切れたらしい。

 そんなラリアの前にパンジャンドラム。そばにはハルがいる。


 そちらに剣を向けた騎士が1人。

 その手前に、光の剣をひっさげたツェモイ。

 残る3人目の騎士はさらに手前で、俺、ウォッチタワー、そしてホッグスと向かい合っていた。


 転生者4人と獣人2人に挟まれた、3人の女騎士。


 ツェモイは前後を油断のない目つきでうかがっていた。

 俺と向かい合っている騎士の額には脂汗がにじんでいて、パンジャンドラム側の騎士も、剣先が揺れているのがこちらからも見えた。


「ツェモイ団長」俺は言った。「諦めてくれないか」

「……なに」

「もう勝ち目が失せたことは君にもわかっているはずだ。ヌルチートは残り3匹。俺たち4人の転生者のうち、必ず1人はフリーになる。であれば、君達のうち1人は2対1。瞬く間に倒れるだろう。そして2人の転生者がフリーになり、次は3対1。この先は言わなくてもわかってもらえると思うが」


 ツェモイは静かに視線を動かすのみ。彼女の部下は、チラチラと団長を盗み見て、逆転の一手を指示されるのを待っていた。


 そしてそんな一手はない。


 ツェモイもそれがわかっているからこそ動かないのだ……という俺の読みはまだ甘かった。


「勘違いしているようだなロス・アラモス殿。まだ3対3だよ。ウォッチタワーは歩けない」

「ああまったくそうだった。失念していた」


 俺はウォッチタワーを横目に見やった。


 このオークの戦士長は両足のアキレス腱を切断され車椅子に乗っていたのだった。

 将棋をやっている時に、飛車でおびやかして王手をかけようとしたらさっき自分の角を取られていたのを思い出し詰め手が足りないことに気づいたような気分だった。将棋をやるといつもそうだ。


「ツェモイ」ホッグスが言った。「5対3である。私と、向こうのコアラっ子がいるのである」

「貴殿が数に入るものか」

「どうかな? 私の足元からの剣を避けながら、さっきのコアラっ子の速さに対応できるか自信があるのか」

「…………」

「剣を捨てて投降しろ! エレオノーラ・ツェモイ!」


 ツェモイはゆっくりと剣を……脇構えに構え、深く腰を落とした。


「……私のこの《ライトソード》。知ってのとおり伸縮自在だ。たとえばこの光を、めいっぱい伸ばして横に振ればどうなると思う?」


 ホッグスがちらりと天井を見上げた。

 天井には、先ほどツェモイが《ライトソード》でつけた切断の跡が残っている。


 これは一度屋根に上がったハルを斬ろうとしてついた跡。失敗しこそしたが、この跡はツェモイの剣が、建物ごと敵を切断できる切れ味を有していることを表している。


 当然この狭い廊下で野球のバットでも振るように横斬りされれば、ツェモイ以外の全員が死ぬことになるだろう。俺は言った。


「ハッタリだ」

「なぜそう言い切れる?」

「まだ君の部下がいる」

「私はウォッチタワーだけいればそれでいいのだが?」

「論破だ。椅子の上のウォッチタワーはとっさにしゃがめないぞ」


 しばし、無言。


 ツェモイの剣は将棋と言うより、チェスでいうクイーンのようなものだった。飛車と角の性能を併せ持った、チートと呼んで差し支えない性能の駒。


 向こうの騎士とツェモイのヌルチートが、それぞれパンジャンドラムとハルを。

 手前の騎士のヌルチートは俺を見ている。

 フリーはウォッチタワー。


 俺は見落としを探していた。

 こちらの手駒と向こうの手駒。ボードのどこかを見忘れていないか。


 ツェモイは剣の光を消した。脇構えを解き、切っ先は背中側から床へと向いていく。


 俺は見落としを見つけた。

 クイーンというより香車と捉えるべきだと。


「パンジャンドラム、避けろ!」


 俺が叫ぶと同時にツェモイが切っ先をくいと跳ね上げた。向けられた先はパンジャンドラムたちの方。

 パンジャンドラムがラリアを抱え左に跳ぶ。


《ツェモイ団長はライトソードのスキルを発動しています》


 光の速さで刃が形成。一瞬避け遅れたハルの右肩に突き立った。


「あっっっ‼︎」


 ハルの悲鳴。

 俺はウォッチタワーの背後に回り、


「君だけが頼りだ!」

「おうよ!」


 車椅子を押して走った。

 こちら側の騎士が引きつった顔を見せる。が、横っ跳びに左へ。車椅子を避けて、後ろの俺に剣を突き込んできた。


 俺は椅子の持ち手を離した。その持ち手に、すでに座席の裏側でぶら下がっていたホッグス。

 突き入れられた剣をホッグスの長剣が跳ね上げる。同時に俺は騎士へ組み付く。


 そして騎士へ正面から抱きついたまま、跳び上がって両足を胴へ巻きつけぶら下がった。


 ブラジリアン柔術名物、引き込みだ。一度タイバーン王国でこれをやられた記憶が懐かしい。騎士は踏ん張れず、床に背中をつけた俺に覆いかぶさる。


 ヌルチートの悲鳴。

 椅子を離れたホッグスの長剣が、目の前のヤモリの首に食い込んでいた。騎士の体を伝わり、俺にも血が降りかかる。


《ザ・マッスルのスキルが発動しました》


 両足で蹴って騎士を跳ね上げた。宙に舞った騎士の腹へ、


剣聖(ソードマスター)・ジュージュツのスキルが発動しました》


 拳で腹へと当身。気絶した騎士が落下で頭を打たないように一度襟首をキャッチ。それから壁にもたれさせた。残り2匹。


 前方へ目を向けると、ハルの肩にまだツェモイの剣が刺さっているのが見えた。剣の持ち主であるツェモイは腰を落とし、そのままハルの体を斬り下げる体勢を整え……。


 先行させておいたウォッチタワーが椅子の上からツェモイに掴みかかった。背後から覆いかぶさるように騎士団長の両腕を抑える。


「ああんウォッチタワぁ! 熱い! その両腕ぇっ! 背中に感じるこの大胸筋の圧迫感っ!」

「やかましんだよこのド変態オラァッ!」


 シラフの状態でもパワーはオークの方が上のようだ。ウォッチタワーはすでにツェモイの左手を剣から離させることに成功した。


「ロス、バカアマのヤモリは私に任せるのである! 残りを頼む!」


 ディフォルメホッグスがウォッチタワーの広い背中を駆け上がり……、


「む、挟まっとるのである……」


 ツェモイのヌルチートは彼女の背中とオークの大胸筋の間。ホッグスはウォッチタワーの肩の上で、何とか長剣を突き刺せる位置を探しているようだった。


「む、む、う、腕が……」


 しかしホッグスのディフォルメ形態、背も腕も長剣の長さに見合っておらず、切っ先を2人の間に定めるのも一苦労のようだった。


 代わろうかと思った矢先、パンジャンドラムとラリアの悲鳴が聞こえた。

 見やってみれば、ラリアを肩車したパンジャンドラムが騎士の剣から逃げ回っている。


「パンジャンドラム、こっちだ!」

「ほいきた!」


 パンジャンドラムがラリアをラグビーボールのようにパスしてきた。キャッチ。


「いくぞーラリアーッ!」

「おーっ!」


 投擲の構え。女騎士は振り向いた。ヌルチートを向けてくる。

 彼女は《ツープラトン》のスキルもヌルチートで封じられると思ったのか。いやただの反射だろう、彼女はこちらの最初の投擲を見ていた。


 何にせよ王手だった。

 俺が飛車。ラリアが角。


 パンジャンドラムが桂馬だ。


《パンジャンドラムはキング・オブ・グラディエーターのスキルを発動しています》


 またしてもヤモリの悲鳴。大型ナイフで3つに切り裂かれた死体が血を撒き散らしつつうっすらと消えていった。

 間を置かず背後から組みついたゴブリンファイター。裸締めが騎士の首に巻きついた。


 残るはツェモイの1匹のみ。


「むむむむむ……ふんっ!」


 ホッグスの唸りと気合声が聞こえた。

 そちらを振り返ってみれば、ウォッチタワーの肩の上に、銀髪の若い美女が長剣を掲げ仁王立ちしていた。


挿絵(By みてみん)


 ホッグスがついに本来の姿(そう言えばラリアにせよ、本来はどちらの姿が本性なのだろうか)を取り戻したのだ。

 彼女はいまだ狐の耳と4つの尾をしまってはいなかったが(やはりこっちが完全体なのだろう)、


「死ねーっ!」


 ウォッチタワーとツェモイの間、ヌルチートへ長剣の先を捩じ込んだ。


「や、やめろォこの冴えないヴァージンめェッ!」


 ツェモイは叫びと共に、ウォッチタワーに捕まりながらも手首を返すことで、剣の先を上向きにする。


《ツェモイ団長はライトソードのスキルを発動しています》


 オークの頭上へ光が伸びる。ツェモイの位置からは姿が見えないせいかホッグスに当たることはなく、しかし手首をこねくり回して光を動かすことでホッグスを傷つけようとしていた。


「うお、危ねえ!」

「誰が冴えないヴァージン……バカやめろウォッチタワー殿に当たるであろうが!」


 光の刃は天井まで突き立ち、乱雑に破壊していく。


 俺はその手首を押さえるべく近づこうと考えた。だがツェモイがもがくもので光の刃はナイトクラブ(騎士じゃなく夜の方だ)のレーザーライトのように廊下中を暴れ回る。魔女の館のダンスフロアで、ロス・アラモスは上手に踊れないでいた。


 蠢く光がラリアに触れようとするのを見て、


《パウンドフォーパウンド・マスター・オブ・シェルのスキルが発動しました》


 素早く割って入り、ショルダーロールで弾き飛ばす。


「おっ、やった! ヤモリが消えるのである!」


 ついにホッグスがヌルチートを仕留めきった。

 完全に詰みだ。

 ウォッチタワーの瞳がギラリと光る。


「エレオノーラ・ツェモイ……! 今までよくもやってくれやがったな……ガスンバで平和に暮らしてたおれらオークに戦争ふっかけてきやがって……! つけてもらうぜ……落とし前を!」


 騎士団長を組み締めるオークの両腕、その筋肉が膨れ上がった。


「……ふっ、どうするというのだ? 戦争に負けた女の私を。さあ、おまえの口から言ってくれ!」


 ツェモイはよだれを垂らしていた。ヌルチートは死んだというのに、まさか彼女は普段からあんな調子なのだろうか? どこまでもついていけない女だった。


 そしてウォッチタワーは答えた。


「おおよ! 体で語ってやるぜえっ‼︎」




《ウォッチタワーはザ・マッスル・テストステロンマッドネスのスキルを発動しています》




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[良い点] ついに一気にたたみかけてヌルチート撃破! この作品は本来無敵のキャラが4人もいながら、結局やや不利な戦いを最後まで繰り広げるところがなんとも面白い。主人公の能力は使うと殺してしまうから使い…
[良い点] でかい。オークもヌルチートもホッグスも車椅子も思ったよりでかい。なんならツェモイもでかい。挿し絵の力がふんわりとした想像を吹き飛ばす。あれ、ヌルチート、ヤモリというか、あれに似ているな。そ…
[良い点] 相手が如何にファッキンビッチでもレディには常にジェントルなロス・アラモス さすが至高の前髪を持つ男は格が違うぜ
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