第百十六話 ダーティープラン
ご存知かも知れませんが、第六話に加筆して六話と6.5話となっております。
ステータスとスキル、そして最上級スキルについての説明が加わりました。
ホッグスの長剣と、床にうずくまり震えている女騎士の剣を拾う。
そしてウォッチタワーのところへ走り戻る。
三叉路の廊下、俺たちがやってきた方からツェモイともう1人、騎士が走ってくるのが見えた。
俺はそっちへ騎士の剣を思い切り投げる。当たったかどうかは確認せず廊下の角に身を隠し、
「ロス、バカ者! 他人を助けている余裕があるか!」
ホッグス少佐のお叱りを受けつつ車椅子を押して走った。
吹き抜けに出た。
塔のように丸く壁が囲む建物。
上部は大きな丸窓があり、蜘蛛の巣状の窓枠。そこから光が差し込んでいる。
壁に沿って、金属の手すりがついた螺旋状のスロープ。どうやら1階まで続いているようだ。
スロープを下った。
手すり越しに吹き抜けの下方に目を向ける。
壁のいくつかの扉からそれぞれ、女騎士たちがバラバラと現れるのが見えた。
「者ども! 挟み討ちだ!」
上を見やればツェモイが通路から顔を出したところだった。
《不正な妨害が行なわれています。スキルを発動できません》
車椅子の重量が増した。下りのスロープで勝手に加速し始める。
「まずい……コントロールできない」
「ロ、ロス頑張れ! ファイトである!」
約1名、下から騎士が先行し駆け上がってくる。
「ロっさんこのまま突っ込め!」
「何だと⁉︎」
「おれを殺せねえんだよ奴らは!」
もっともだった。女騎士たちはオークであるウォッチタワーの体だけが目当てなのだ。死んでしまえばお愉しみできない。
先行してきた1人へ足を止めずに突っ込む。
騎士は少し顔を引きつらせたが、
《女騎士Eはザ・マッスル・スクワット・パーシャルのスキルを発動しています》
どすこいとばかりに待ち構えた。
衝突。
騎士はやや押されながらも踏みとどまった。
「団長! みなさん! 捕まえました……」
「ナメんじゃねーぞオラァ!」
叫ぶが早いか、ウォッチタワーは騎士の胸ぐらを掴みつつ、もう片方の手で手すりを掴んだ。
そして自ら手すりに身を乗り出し、吹き抜けから飛び降りようとし始めた。
「ウォッチタワー、何を……!」
「聞けやエレオノーラ・ツェモイ! テメエなんかのなぁ! いいか、テメエなんかの言いなりになんかなあ、なりたくねーんだよおれァ! こーなったらテメエオェ、こっからなあ、飛び降りてなあ、死んでやるっつってんだよオェ!!!!」
俺はウォッチタワーの腰に後ろから組みついて引き止めようとした。
しかし160kgはあるらしい彼の体重。しかも彼はすでに先ほど捕まえた女騎士を手すりの向こうへ突き出し、その体重もさらにかかっている。あれよあれよと言う間にウォッチタワーの巨体が手すりの向こうへずり落ちていく。
「ウォッチタワー殿、早まるのはダメである……!」
突然の奇行。
追い詰められたオークの戦士長は、敵に辱めを受けるぐらいなら自決を選ぶつもりなのか。
だが俺の頭には閃くものがあった。
ウォッチタワーはひょっとして、考えがあってやっているのじゃないのか?
俺は叫んだ。
「ナイト・ツェモイ! このオークを落とすぞ!」
上を見上げると、最上部の手すりから乗り出しこちらを見下ろすツェモイの顔が引きつったのが見えた。
「ロス、何言っとるのであるか!」
「ツェモイ、君が知ってるかどうかはわからんがな! 俺たち転生者は高いところから落ちても死ぬことはない! そうはならないスキルがあるんだ! だが知ってのとおり君らのアクセサリーは俺たちのスキルを封じ込める……つまり今ウォッチタワーをこの吹き抜けから落とせば、君らが熱視線を送り続ける限り彼のスキルは発動せず、ウォッチタワーは死ぬ!」
ブーツの底がやや滑った。ウォッチタワーの体がさらに手すりの向こうへ引きずられる。
下のスロープにいる女騎士たちから悲鳴があがった。
俺はホッグスに、ウォッチタワーが捕まえている騎士のヌルチートを始末するよう言った。
ホッグスが長剣でヌルチートをつついているのを確認したあとツェモイを見上げ、
「頭から落としてやる!」
ウォッチタワーの腰を持ち上げた。
女騎士たちはよほどウォッチタワーに魅力を感じているのか、吹き抜けには彼女たちの悲鳴が響き続ける。
中にはツェモイの判断を待たず、ヌルチートを引っ込めろと叫ぶ者もちらほらいた。
ツェモイを見上げた。
彼女は般若のごとく険しい表情で俺たちを睨んでいたが、部下の独断を制止する風でもない。
俺は言った。
「少佐、俺から離れるな!」
そして体ごと手すりに乗り上げ、吹き抜けへ躍り込んだ。
悲鳴。
浮遊感。
女騎士たちはヌルチートの姿を隠し、顔を手で覆っていた。
見上げたスロープ最上部では、吹き抜けのガラス天井を背負ったツェモイの顔が見えた。
《ゼロ・イナーティアのスキルが発動しました》
《ウォッチタワーはゼロ・イナーティアのスキルを発動しています》
1階まで到達したら、森へ走ろう。木々や草にまぎれれば、ヌルチートの視線はかわしやすくなる。
そう思っていた時だった。
ツェモイの表情が笑みに歪むのが見えた。
「スキルを発動したなッ! 伸びろ、剣よォ!」
《ツェモイ団長はライトブレードのスキルを発動しています》
彼女は剣の切っ先を、手すりの柵からこちらへ向けた。
瞬間、まばたきする間もないほどの速さで切っ先から光が伸び……たのだと思う。
とにかく懐中電灯のスイッチを入れた瞬間あたりが照らされるぐらい一瞬だった。伸びた光の切っ先が、落下するウォッチタワーの右腕を貫通した。
切っ先はそのまま反対側のスロープの床に突き刺さる。
最上部のツェモイから、螺旋スロープ中ほどの床まで、1本の光が斜めに立つ。
それに腕を貫かれたウォッチタワーは吹き抜けのど真ん中で宙吊りとなった。
「ぐああ!」
「うおっ……!」
「あわわである!」
俺は何とかウォッチタワーの右足にしがみつき落下をまぬがれた。ホッグスは俺の背中。
「おっとぉ? ロス・アラモス、しぶといじゃないか。貴殿だけ落ちて欲しかったのだがな。まあいい。しかし貴殿ら、やはり体重を消す《ケイコー》のスキルを持っていたな。極めればあらゆる衝撃を打ち消すことができるとは聞くが……」
ツェモイは光の刃を伸ばしたロングソードを片手に掴んでいた。俺とウォッチタワー、そしてウォッチタワーが掴む女騎士のぶら下がる、光の刃をだ。
それにしても、俺とウォッチタワーはたしかに体重が消えているのかも知れない。しかし女騎士の分の体重(ディフォルメホッグスはほぼ誤差だ)を片手で支えるとはなかなかの握力だ。デッドリフトもやり込んでいるに違いない。
ツェモイはそのロングソードの柄を床に置いて(さすがにキツかったのか?)足で踏む。そして他の騎士たちに呼びかけた。
「諸君! ロスとホッグス少佐を魔法で撃墜せよ!」
「待つのである! こちらにはまだ貴様の部下がいるっ! 当たってしまうであろうが!」
「ツェモイ! とっとと失せやがれ! てめえの部下落とすぞコラァ!」
しかしツェモイは微笑んで言った。
「……戦争には犠牲がつきものだよ」
ウォッチタワーの左手に掴まれた女騎士E。ひっと小さく悲鳴をあげた。
周囲のスロープにいる騎士たちが魔法の詠唱を始めたようだ。ぶつぶつと何やら唱えている。
ウォッチタワーが苦渋に満ちた唸り声をあげていた。
俺は振り子のように体を振って、スロープへ飛び移ろうかと考えた。だがスロープはかなり距離がある。
スキルを使えばいけるだろう。しかしツェモイがそれを予想していないとは考えられない。俺が飛んだ瞬間、俺にだけヌルチートを向けるだろう。なんせあのヤモリはまだ7匹いる。スロープにはツェモイも含め、ヌルチート付きの女騎士が7人勢揃いしていた。
やがてウォッチタワーが叫んだ。
「くそっ! ツェモイてめえコラ! 関係ねえだろうがこの2人は! しかもヤるヤらねえの話でてめえの仲間まで殺す気かおめえは! こうなったらおれも男だ逃げも隠れもしねえ! せめてこの3人だけは助けやがれオラ!」
オークの戦士長は、俺たちみんなでプレイしている双六で自分の止まったコマが、『振り出しに戻る』だと覚悟したようだ。
だが異世界の騎士団長は双六のルールを知らないのかこう言った。
「そうはいかんなあ。そこのホッグス少佐は我ら騎士団が軍規に違反しているとご立腹だ。このまま逃したのでは我が団の行ないが知れ渡ってしまうじゃないか」
俺と背中のホッグスが同時に上を見上げ、
「少佐。この際黙っててやったらどうだろう?」
「う、うむ、そうだな! 貴君らは曲がりなりにも魔女の館を抑え、当初の任務は達成しているのである。我々3人、いや4人を穏便に下に降ろしてくれれば……」
「嘘はよしたまえよホッグス少佐。ここできっちり片をつける。後でこっそり報告されると困るからな」
「どう困ると言うんだろう? 少佐の言うとおり手柄と相殺……」
「だって上層部に知られたら恥ずかしいだろうが! オークに興奮する性癖があるとかバレたら!」
「そこ気にするのであるな。なんか安心した」
喋っている間も俺は打開策を考え続けていた。おそらくホッグスもそうかも知れない。ホッグスは明らかに引き延ばそうとしていた。現に周囲の騎士たちの詠唱が止まっている。
全員、ヌルチートを引っ込めていた。
《ハードボイル》で一発逆転を狙うか。俺の唯一の飛び道具。
だが殺したくない。
いや、それ以前にウォッチタワーの足にしがみつくこの体勢では、360度、塔の吹き抜けの上下にも展開している女騎士たちを1度に倒すのは無理だ。
せいぜいやれて2人。そのあとヌルチートを向けられ、あげく相手の怒りに火をつける結果にしかならない。
ホッグスは上のツェモイと何か交渉をしている。というか、無駄話で時間を稼いでいた。
何かないか。
そう言えば、なぜみんなヌルチートをまだ引っ込めているのだろうか?
……いや、今ウォッチタワーと俺はスキルによって体重、というか運動や質量のエネルギーを消している。今そのスキルを殺されれば、彼と俺の体は落下を始め、彼の丸太のような腕と言えど千切れかねないからか。
………………千切れる?
「少佐、剣を貸してくれ!」
「む? ど、どうするのだ?」
長剣を受け取り、俺は吹き抜けに響き渡る声で叫んだ。
「レディーたち、全員この場から消えてもらおう! さもなくばウォッチタワーのペニスを切り落とすぞ!」
そして剣の切っ先をウォッチタワーの股間へ突きつける。
吹き抜け中から悲鳴があがった。
もちろんウォッチタワーの悲鳴も。




