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第百五話 残酷! 人間椅子!


 森を歩く人間とオークの一団。


 あれからオークたちは、ひとまずオークの野営地に案内すると言った。

 前方を行くオークたちを睨みつけながら、ホッグスが俺に言った。


「……なぜ貴様は奴らの言いなりになどなっているのだ? オークは野蛮で、人間を見かけると襲ってくるという。なぜ話など……」

「向こうは攻撃の意思がないことを見せた。わざわざモメる必要はない」

「むう……しかし、オークは帝国騎士と事を構えていた。私は第一次ガスンバ進行には関わっていなかったから詳しくは知らんが、奴らは我らが帝国軍と知っている。何か企んでいるのかも……」

「ではどうするんだ? 兵士は君を入れて6人。うち2人は戦闘不能。向こうは5人の巨漢だ。一戦交えればいいのか?」

「ぬ……! 貴様も冒険者であろう、なぜ自分を勘定から外す。まさかオークが怖いのか?」

「ああ」


 ホッグスは口をへの字に曲げた。


 オークたちを眺めた。彼らは5人とも、俺たちに背を向けて前を歩いている。


 これまでに聞いた話からすれば彼らは帝国軍にあまりいい印象を持っていないと推察すべきだ。だが彼らはなぜか我々に完全に隙を見せていた。背後から一気に襲えば、少なくとも俺は、別に勝てないようにも思えない。


「ホッグス少佐〜。あのオークさんたちは、私たちのことを信頼してるんですよ〜。オークは好戦的ではありますけど、戦士としての誇りがあります〜。たぶんあくまでお話がしたいから、何もしかけてこないんです〜」

「インティアイス殿……オークは野蛮で、話が通じない危険種族である」

「こちらには怪我人がいます〜。他はどうかは知らないですけど、ガスンバのオークは怪我人と女性を攻撃するのは嫌がります〜」

「む、なぜであるか?」

「弱いから〜。弱い者を攻撃するのは、ガスンバのオーク部族にとっては恥だそうです〜」


 そうやってコソコソ話をしている時だった。

 オークの1人が振り向いた。グレイクラウドだ。


「それだけじゃない、声をかけた訳は、おまえたちに、おれたちが。用があった、その黒い男に」


 彼は俺を見ながら喋っていた。


「ロス・アラモスか? 名前、おまえの」


 グレイクラウドは俺の名を呼んだ。

 彼に名乗った覚えはない。

 俺は少し考えて、言った。


「どうしてそんなことを聞くんだろう?」

「森で見かけたら連れてこいと頼まれた。たぶんいるはずだと」

「……誰にだ」

「野営地まで来てもらわなきゃならない、おまえに。とても困ってる、おれたちは」

「だから、誰に頼まれた」


 グレイクラウドは前方を指差した。

 遠く、木々の間に、蔦や葉っぱを組み合わせた屋根が見える。焚き火も燃えているようだ。あれがオークの野営地らしい。


「行けばわかる。知り合いだと言っていた、その人は、おまえの」


 グレイクラウドは俺の目をじっと見た。何か少し、悲痛さを感じさせる視線だった。そして野営地の方へ歩いていく。


「どうしたロス。早く歩くのである。貴様が行くと言ったんだろう」

「………………少佐、みんな。俺より先に歩いてくれないか」

「……?」


 言われたとおり、ホッグスとアップル、兵士たちは前を歩く。

 俺はその後ろを、ややペースを落として歩く。そして野営地が目前に迫った時、そばにあった大木に身を寄せ隠れた。


 そのままこっそり、野営地を覗く。


「……ロス、何をやっとるか……おや? 野営地にヒューマンがいるではないか」

「……少佐」

「何だ」

「俺はちょっとロッククライミングしてくる。前からやりたいと思ってたんだ。君たちはオークに案内してもらうといい。上で会おう」

「はあ?」

「ロス・アラモス。来てくれおれたちと。すごく困ってるんだ」


 ホッグスとグレイクラウドが俺の腕を掴み、大木から引きずり出そうとしてきた。


「助けてくれ!」

「何をぬかしとるのだ」

「ロス・アラモス、来てくれ、呼んでるんだあいつが」


 大木から覗いた野営地。

 焚き火の前にあいつがいるのだ。


 まず焚き火のそばに、ヒューマンの男が1人うずくまっている。

 四つん這いというか、土下座というか。


 なんとその男……ハル・ノートだった。


 サッカレー王国で出会った、俺と同じ転生者。

 王位簒奪の罪で収監されていたが、消息を絶ったと言われていた……。


 いやそんなことはどうでもいい。奴はもともとガスンバに行きたいと言っていたのだ。いたって不思議じゃない。勝手にすればいい。


 問題は、その背中をまるで椅子のようにして座っている女だ。

 ハルを尻に敷いて、ロングブーツを脱いで足の爪を切っている。


「は、離せ……」

「早く来るのである」


 野営地に引きずられる俺。

 ハルに座っていた、金髪の少女と目が合った。


 しばし、無言。

 そしてそいつは爪切りを放り出し、地面に突っ伏して言った。


「助けて、ロス! 私オークに捕まってるの!」


 焚き火のそばに倒れている少女は、サッカレーでテロ行為の嫌疑をかけられているはずの、あのエルフだった。







「オーケー、まず言っておくことがある。俺はこれからこちらのグレイクラウド氏と大事な話がある。君は一言も話さず、そこに座っていてくれ」

「でも聞いてロスひどいのよこのオークたち、私があんまり美少女だからって穴という穴をほじくり返して孕み袋にしてやるとか言って……」

「そ、そんなこと言ってないおれたちは! 勝手に野営地に入ってきておまえが……」

「ミス・エルフ、ほんとに、何も、喋らないでくれ」

「でも聞いてロスひどいのよ」

「ケツをひっぱたくぞ」

「あ、後ろから激しくイク感じ?」

「頼む」

「わかったわ」


 焚き火を取り囲むまとまりのない集団。

 ホッグスやアップル、兵士たちがエルフとハルをジロジロ見ていたが、俺は努めて奴を見ないようにしながらグレイクラウドに言った。


「よし、始めよう。……ところで何を?」


 グレイクラウドはホッグスの方を見ていた。

 そう言えば、彼らオークは帝国の戦士に話を聞きたいというようなことを言っていた。であれば俺が対話の主導権を握ろうとしているのも変な話だった。


 ホッグスは座らずに立っていた。他の兵士も。焚き火のそばの横倒しにされた丸太に座っているのは、俺とアップル、そして俺の右側にしなだれかかっている……コレは置いておこう。

 ホッグスが言った。


「こほん。私はオルタネティカ帝国ガスンバ探査部隊指揮官、クーコ・ホッグス少佐である。本日は勇猛果敢で鳴るオーク族の野営地にお招きいただき、光栄である。……それで。貴君らは我らにいったい何用か」

 

 グレイクラウドはしばらくホッグスと兵士たちを見つめていたが、やがて口を開こうとした。


 しかしそこで、「グレイクラウド!」と喚く声があがった。

 そちらを見やると、野営地の外から1人、オークが走ってくる。

 見覚えがあった。昨日アップルを襲撃していたうちの1人。名前はたぶんランドッグ。


「どうしたランドッグは」


 長いドレッドヘアーのグレイクラウドは振り向いて言った。モヒカンヘアー、と言っても逆立てずに垂れる髪のランドッグが応えた。


「グレイクラウド、オェ! なんで勝手なことをする⁉︎ こんなよそ者、しかも帝国の奴らに……」

「けどランドッグ、仕方ないじゃないか。戦士長を助けるにはこれしか」

「バカヤローオメーオェ! 戦士長を連れ去ったのはこいつらだぞオェ! 敵に助け求める奴があるかよ、オェ!」

「バカヤローテメーコノヤローオェ! じゃ他にどうするっつーんだよ、オェ! オイ、オイ! いいか、オイ! どこにいるのか知ってるのは帝国の戦士だけだろうがよ戦士長が!」

「納得いかねーっつってんだよおれはオェ!」

「じゃどーするっつんだよオェ! オウオメーオェ!」


 急に大声で怒鳴り合いをおっぱじめたオーク2人。最初は紳士な印象を抱いていたが、見た目のとおりガラが悪かった。アップルが少し怯えている。


「強い者しか信じねーんだよオークはオェ! 見てみろよこいつらエー! 小せえし体も、弱そうだ力もエー! よえー奴は嘘をつくんだよエー! 信用できねーんだよ弱ぇー奴はエー! オークはなー! オークはオメーオェ、弱ぇー奴とはつるまねーんだよエー! それを野営地にまで入れてオメー、(なーに)がしてーんだ!」


 俺は口を挟んだ。


「失礼、ミスタ・ランドッグ。こちらのか弱い女の子はずっと野営地にいたようだが」


 ハル・ノートを椅子にして俺にしなだれかかるエルフの顔面を押しのけながらそう言った。ランドッグはそれに対し、ちょっと困ったような顔を見せ、


「いやあの……強いからそのエルフは……」


 よく見るとランドッグ、右目の周囲が黒ずんでいる。俺はエルフを見やり、


「まさか殴ってここにいすわっているのか」

「いやぁんロス、か弱い美少女の私がそんなオテンバするわけないでしょぉん、もー、ロスったらイ、ジ、ワ、ル!」

「じゃあハルか」


 俺はエルフのケツの下のハルを見下ろす。

 彼は伏せた体勢からちらりとこちらを見上げ、すぐに顔を伏せた。なぜさっきから無言なんだろうか。


「殴ったのはそのエルフだよ……」グレイクラウドが言った。「ご馳走を振る舞う、強い者には」


 視線を逸らし口笛を吹き始めるエルフ。

 何をどうやったらそんな音が出るのか、天上で奏でられるフルートのごとき美麗なサウンドだった。


 少し顔を上げて俺を見たハル。その顔は、なにかすべてを諦めきった、仏像のような無表情だった。


「強い者しか認めねーんだよオークはオェ! 当てにしちゃダメなんだよこんな貧弱な奴らはエー!」

「じゃーどーするっつってんだよエー⁉︎ (はーなし)先に進まねえじゃねえかオメーエー!」

「弱ぇー奴と話してても進むもんも進まねーんだよオェイ!」

「ナニコラタココラァー!」

「話がしてーなら力を示せばいいっつってんだよエー!」

「ナニィ、コラァ……」

「帝国のよー、誰かがよー! 決闘すりゃいいつってんだよおれとエー! オラこいよオラ!」


 いきりたつランドッグ。

 グレイクラウドはこちらを振り返った。俺たち1人1人の姿を見定めるようにジロジロと見回す。


「あー……その、こう言ってるが、ランドッグは……。1番強そうなのは、ロス・アラモスみたいだが、おまえたちの中では……もしよければ、そうして欲しいんだが……話が早く進む、そっちの方が」


 ホッグスはじめ兵士たちが俺を見ている。彼らは自分でやる気はないらしい。

 たしかにランドッグというオーク、身長が2メートル半はある。体格も太い筋肉の上に脂肪がついて、かなりの迫力だった。

 俺は隣に座る女の子に言った。


「頼んだぞ」

「よっし、私が勝ったらファックするってことね?」

「ちっ」


 俺は舌打ちを1つして、近くにあった薪を拾って立ち上がった。


「オーケー、ミスタ・ランドッグ。こちらも急いでいる。早く終わらせよう」

「オーッシャオメーオイコラオメーカカッテコイオメーコラエー!」


 野営地の、少し広い空間に2人で向かい合う。それを野営地のオークたちが取り囲む。

 

「いいか、準備は?」


 そう言ったグレイクラウド。彼がレフェリーらしい。


「もちろんだオェ!」

「紳士ぶってないでさっさとやればいい」

「それでは……両者の体重差を考慮して、ロス・アラモスは棒きれの使用を提案しておりましたが……ランドッグがこのルールを…………」


 グレイクラウドはそこでなぜか少し黙った。

 固唾を飲んで見守る帝国兵。オークたち。

 そしてグレイクラウドは言った。


「……認めたため!!!!!!」

「ウォォォォォォォ!!!!!!」


 歓声。オークだけではなくなぜか帝国兵からも。ホッグスもアップルも拳を突き上げている。必要なのかこのくだり。


「まあそれで、どちらかが戦闘不能、それかギブアップしたら終わりだ。奪ってはならない、命までは。それでは……ファイッ!!!!」

「いくぞオラーッ!」

「やれやれ」


剣聖(ソードマスター)のスキルが発動しました》


 結論から言おう。ランドッグが地べたに這っていた。ピクリとも動かず失禁していた。


 勝者に対する歓声や拍手もない。みんなぽかんとしていた。

 俺は薪木を捨てると、言った。


「ホッグス少佐、話を進めていてくれ。俺はそっちの2人と話をしてくる」


 そしてエルフとハルに手招きした。



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― 新着の感想 ―
[一言] もれなく失禁させてしまう! ワザマエ!!
[良い点] 出会いたくないトップ2がいて笑った。 しかも二人の登場シーンのインパクトよ(笑)
[良い点] オーク。実にしっくりくるランドッグ。そして人間椅子。一度登場人物になったからには絞りに絞って使い尽くすという材を大事にする環境に優しそうな配慮が伺える再登板。
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