表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/20

4.あるメイドの事情

 あたしの名前はフリル・リシャール。

 ラウラメント=ウル王国の王都ラウラメントに住む、元気なことが取り柄の十七歳の女の子だよ!


 実はあたし、すっごい場所で働いてるんだー。その場所は、王都ラウラメントにある白く輝く豪華な宮殿。その名も″白楼宮はくろうきゅう″!

 白楼宮は、女性だけしか入ることを許されていないすごく特別な場所なんだ。あ、一人だけ例外がいるんだけどね。


 それで、ここ″白楼宮″に主人として君臨してるのが、【ウルの聖女】ことラスティネイア姫だ。ちなみにこの姫様、見た目は幼じょ……ゲホンゴホン、とても幼くお見えになるんだけど、実はあたしより年上の二十三歳の、とっても素敵な方なんだよ。



 ラスティネイア姫は幼い時からこの国の巫女として、ずっと″白楼宮″の中で育てられたって聞いた。

 巫女ってのは、王族の中に何代かに一人生まれる存在で、巫女が生まれた時代にはラウラメント=ウル王国の繁栄が約束されてるんだって。ただ、なぜかその巫女はいつの代も短命だって聞いてた。

 先代の巫女であるサーナード姫も、成人する前に亡くなったらしいわ。もっとも百年以上前の話だから、本当かどうかなんて分かんないんだけどね。


 ただ、その伝承にかかわらず、あたしは姫様には長生きしてほしいと思っている。

 だって、このあたしを地獄の底から救い出してくれたのは、他でもないラスティネイア姫なのだから。



 今から五年くらい前、あたしは両親を事故で亡くして孤児になった。当時十二歳だったあたしに、大した選択肢は無かった。何処かの店で住み込みで働くか、もしくは孤児として露頭に迷うかくらいしかなかったんだ。

 こんなあたしだけど、見た目はちょっと良かったりする。そのせいで、あたしはいやらしい店主のいる店に引き取られそうになってた。

 あんなスケベ親父に引き取られたら、待っているのは過酷な人生だ。でも拒んだところで、明るい未来が待っているわけじゃない。どう足掻いても、待ち受けるのは地獄のみ。

 そんなあたしを救ってくれたのが、ラスティネイア姫だった。



 姫様は、引き取り先が決まる寸前だったあたしの前に颯爽と登場して、「この娘、この妾が貰い受ける。文句はないな?」と宣言してくれた。【ウルの聖女】である姫様に逆らえる人なんているわけがないよね? 事実、誰も姫様に反論しなかった。

 こうしてあたしは、姫様に半ば強引に″白楼宮″で働くメイドとして連れて行かれることになったんだ。


 あのときは激変する状況に戸惑いながら流されるしかなかったんだけど、今では姫様にものすごく感謝している。

 なにせ、あのままだったらあたしは、きっと酷い目に遭っていたに違いなかったのだから。



 実はここ″白楼宮″には、あたしみたいにラスティネイア姫が拾ってきた・・・・・女の子が他にもいる。【漆黒の戦乙女】ことマリィだってそうだ。


 マリィは十年くらい前に姫様に拾われたと聞いている。あたしと同じ孤児で、姫様に才能を見出されて三年前のセルシュヴァント魔法帝国との戦役では大活躍したって聞いた。


 マリィは普段は無口で大人しい子なんだけど、戦役で大活躍したって聞いてすっごく驚いたもんだ。とはいえ、マリィが救国の英雄であるのは事実な訳で、気がつくとうちの職場の女の子たちの人気が爆発してたんだ。

 ほら、うちの職場って女の子ばっかりじゃない? だからちょっとカッコいい子はチヤホヤされたりするんだ。

 マリィは元々凛々しい顔立ちで他の子達に隠れた人気があったんだけど、戦役での大活躍以降さらにキャーキャー言われるようになってさ。

 でも、姉代わりを自称するあたしからすると、チヤホヤされてマリィがなんだか戸惑ってたりするのが、ギャップ萌えで可愛らしかったりするんだけどね。えへっ。



 そうやって時々女の子を連れ帰ってくる姫様が、最近また新しい女の子をメイドとして拾って来た。いや、女の子っていう呼び方は大人の女性に対して失礼かな?

 姫様はとても気まぐれな人なので、たまにこうして女の子をどこかから拾ってくることがある。何を隠そう、あたしやマリィもそうなんだけどね。


 そんな姫様の、今回の拾い物は--なんと魔術師だ。お名前はサクラさん。

 サクラさんは、年齢不詳--多分二十代後半くらいかなぁ? 背が高くて均整が取れた体格に整った目鼻立ち、落ち着いた雰囲気のすごい美人さんだ。いつもイッカちゃんっていう名前の妖精の守護者アステリアを連れてる。

 あ、ちなみにアステリアってのは魔術師が契約してる精霊のことね。なんでもその精霊の力を借りることで、魔術師は強い力を出すことができるんだって。

 サクラさんが連れてる精霊のイッカちゃんは、背中に透明な羽が生えたちっこい妖精さんなのだ。


 あー、話が逸れちゃったわね。

 それで、そのサクラさんなんだけど、この人がまたすごく大人びてて素敵な人なんだ!

 なにせ、以前演劇で見た男役の女役者みたいに、綺麗なのにすっごくスマートでとっても優しいの、ぐふふっ。

 だから、ここに来た初日から″白楼宮″の女の子たちの注目を一身に集めてるんだ。


 かく言うあたしもそう。

 サクラさんが来た初日に柱の影から盗み見してたら、後ろから友達に押されてサクラさんの前に飛び出しちゃったんだ。だけどそのときサクラさんが「おやおや、あわてんぼうの可愛らしい精霊が飛び出して来たわね。ほら、慌てないで元の場所にお戻りなさい?」って、優しくフォローしてくれたんだよ!

 んもう「お姉様ーっ!」って感じで、あたし一発で大好きになっちゃったんだ。

 だからかな、それ以来なんだかサクラさんから目が離せないんだよねぇ。じゅるりっ。


 ……っと、そんな話をしてたら、向こうからサクラさんがやって来たわ!

 早速声をかけなきゃ! きゃーっ、いやーん!



 ◆◆◆



 ラウラメント=ウル王国の王都ラウラメントには、絢爛と光り輝く大理石で建てられた見事な宮殿がある。

 そこは、王族の女性が主人として君臨し、王族を除くと女性のみが入ることを許された場所であった。


 街の人々は、白く輝く宮殿を″白楼宮″と呼んだ。


 ある日の夜、月明かりに照らされぼんやりと浮き出た″白楼宮″の中を、メイド服に身を包んだ背の高い女性が、片手に薄く光る照明を持って悠然と歩いていた。

 身体は並みの女性よりも頭一つ高く、とても凛々しい顔つきをしており、長く伸びた黒髪を後ろで束ねている。

 さらに彼女の側には、なんと背中に羽の生えた小さな少女が、キラキラと輝く光の粒子を振りまきながらふわふわと宙を舞っていた。見たものは、おそらくその存在が″妖精″だと気づいたことだろう。


 二人--いや、一人と一匹の正面から、別のメイド服を着た可愛らしい顔立ちの美少女が歩み寄って来た。その子は嬉しさを隠しきれない様子で背の高い美人メイドに声を掛ける。


「サクラさん、こんばんわ! 今日は遅番ですか?」

「こんばんわ、フリル。そうですわね、遅番になるのかしらね」

『やっほー、フリル!』

「ふふっ、イッカちゃんは今日も元気だねっ!あーあ、あたしもイッカちゃんみたいな守護者アステリアが欲しいなぁ」


 サクラと呼ばれた長身の女性と、イッカと呼ばれた守護者アステリアは、美少女メイドのフリルと親しげに会話を交わす。

 二人と一匹はしばらく雑談に興じていたものの、やがてサクラが頭を下げながら「それじゃあわたくし、そろそろ行かないと」と別れを告げる。


「あぁそっか。ぼちぼち姫さまのお相手の時間だよね。サクラさん、がんばってね!」

「ありがとうございます、フリル」


 別れの挨拶をするサクラからごく自然な仕草で頭を撫でられ、思わず頬を染めるフリル。

『浮気だー!』とブーブー文句を言うイッカを無視すると、サクラは名残惜しそうに手を振るフリルに見送られ、宮殿の奥へと向かっていった。



 ″白楼宮″の最奥にある、ひときわ豪華絢爛な扉。

 サクラはその前に立ち、静かにノックする。「入るがいい」時を待たずに中から柔らかな声が聞こえて、一人と一匹は部屋の中へと入っていく。


 室内には、黄金色の髪に金色の瞳を持つ色白の少女--いや幼女が待ち構えていた。

 幼女の奥には、鋭い目つきの長身で黒髪の女性が

 、身の丈ほどの大剣を前に突き出すようにして仁王立ちしている。

 この幼女、実はこの国の王女であり、現在ここ″白楼宮″の実質的な最高権力者であるラスティネイア・ヴァーレンベルク・アル・ラウラメントであった。もう一人の女性は、彼女の護衛を務めるマールレント・ヴィジャスである。


 さらに二人の奥、ラストの後ろに隠れるようにしていた、目元まで金色の髪に覆われた性別不詳の人物が、おずおずといった感じで顔を出す。

 ところがその人物は、入室してきたのがサクラだと分かると、「あっ! サクラだ!」と言いながら嬉しそうに飛び上がった。その際に前髪が踊り、美少女と見まごう素顔が晒し出される。


「いらっしゃい、サクラ! ここに来るのを心待ちにしてたんだよ!」

『一応あたしもいるんだけどなぁ、スピッツ』

「あはは、ごめんごめんイッカ」

「ラスティネイア姫。マールレント様。それに……スピリアトス王子。ごきげんよう」

「ごきげんよう、サクラ! それにしてもサクラはいつ見てもカッコいいね?」

「王子、それは女性に対する褒め言葉ではないのではないですかね」

「うーん、ごめんごめん。でもサクラはやっぱりカッコよく見えるんだよねぇ」


 スピリアトスと呼ばれた白い肌に整った目鼻立ちの美少女--もとい美少年は、実はこの国の王子である。

 ゆえあって、乙女の楽園と言われるここ″白楼宮″唯一の男子として滞在していた。もっともその外見から、女の園であるここ″白楼宮″でもあまり男として見られてはいなかったが。


 サクラの小言にもめげず、スピリアトスはまるで恋をする乙女のような瞳で彼女のことを見つめる。

 一方のサクラは救いを求めるようにラストの方に視線を向ける。ラストはため息まじりにスピリアトスに語りかけた。


「なあスピリアトス。お前がサクラのことを好きなのは分かるが、妾はサクラと話があるのだ。そろそろ部屋に戻って寝ておきなさい」

「ちょ、ちょ、ちょっとお姉様っ⁉︎ ぼ、ぼ、ぼ、ぼくは別にサクラのことが好きってわけじゃあ……」

「問答無用だ、スピリアトス。さぁマリィ、こやつを護衛して部屋まで送ってもらえるか」

「かしこまりました」


 スピリアトスは最後まで名残惜しそうにしていたが、再度ラストから促されると、マリィに引き連れられながら渋々退室していった。



「弟が迷惑をかけてすまないな」


 スピリアトスたちが扉の奥に消えたとたん、ラストがニヤリと笑いながらメイド服を着た女性サクラに話しかける。するとサクラは、それまで被っていた仮面を脱ぎ捨てると、肩を竦めながらラストに対して無遠慮に愚痴を吐く。


「まったくだよ。まさか俺がこんな経験をすることになるとはな」

「その割にはずいぶんとメイドも板についてきたようだな、サク。それにイータ=カリーナも」

『こーらラスト、いまのあたしは魔術師兼メイドのサクラちゃんの守護者アステリアである、花の妖精イッカちゃんなんだからね! 発言には気をつけてよね!』

「ははっ、分かってる。すまなかったなイッカ」


 彼女らの会話から分かる通り、メイド服の女性サクラの正体は、実はラストの【秘術の門】によって女性化させられたサクなのであったのだ。ちなみに妖精イッカは、イータ=カリーナが自主的に変身した姿である。



 サクがラウラメント=ウル王国の後宮″白楼宮″で働き始めてから、すでに一週間が経過していた。

 ここ″白楼宮″は男子禁制。ゆえに男の姿では立ち入ることが許されなかったのだが、女体化することができたサクは、こうして問題なく働くことを許されていたのである。


 彼らが出会ったあの日、ラストの【秘術の門】で女性の姿に変貌を遂げたサクであったが、不意打ちでこれほどの憂き目にあったにも関わらず、彼はラストからの仕事の依頼をあっさりと受諾していた。

 そのまま悪ノリするイータ=カリーナ共々、ラストのメイドとしてその日から″白楼宮″で働き始めたのである。


 サクは、ここではサクラと偽名を名乗り、ラスティネイア姫の護衛魔術師兼メイドとして見事に順応していた。それはもう見事なまでの順応ぶりである。

 悪乗りしたイータ=カリーナも『それじゃああたしも変装するわね!』と言うと、ごく平凡な精霊の姿へと変貌を遂げ、この生活を楽しんでいた。


「ここでの生活は慣れたか、サク」

「……まぁぼちぼちかな。しかし、まさか俺を男子禁制の宮殿で働かせるために女体化こんなナリなんぞさせるとは夢にも思わなかったぞ」

『そう言う割には素直に受け入れてるわね、サクラちゃん?』

「なぁに、人生なにごとも経験ってもんさ」


 わざわざこじんまりとした妖精の姿に変身して、楽しげに宙を舞うイータ=カリーナに、肩をすくめながらサクは返事を返す。


 イータ=カリーナが言う通り、サクは意外にも女性化した現状を苦もなく受け入れていた。

 さすがにしぐさや態度まで完璧とはいかないものの、身に包んだメイド服を可憐にはためかせながら挨拶を返す姿などは、なかなかに色っぽいものである。どうやら男の色気というものは、その身が女性に変じても変わらないものらしい。


「それにしてもあの嬢ちゃん、なかなか打ち解けてくれないな」

『マリィのこと? それはね、ヤマトが最初にコテンパンにしちゃったからよ』

「おいおい、俺のせいかよ」

『その代わり、スピリアトスくんやフリルちゃんはヤマトにメロメロみたいじゃない? うふふ、罪作りな女ねぇ』

「やめてくれ、イータ=カリーナ。そいつは笑えねえ冗談だ」


 ちなみにスピリアトス王子は、ここ″白楼宮″に住まう唯一の男性である。

 本来であれば男性である彼は宮中に立ち入ることすら許されないはずなのだが、いかんせん彼は王族、しかも王子であるがゆえに、特別にこの場所に住むことを許されていた。もっとも、他の理由もあって彼はここに住まざるを得なかったのだが。


 物心ついたときから″白楼宮″に住み着き、ずっと女性に囲まれて過ごしてきたスピリアトス。

 本来であれば女性など見慣れているはずなのだが、サクラが初めて目の前に現れたときになぜかビビッと来たらしく、それ以来彼女?のことをずっと追い回していた。


「なぁラスト、あいつはおまえさんの弟なんだろう? 本当についてるもんついてるのか?」

「何が言いたいのかよく分からんが、スピリアトスはラウラメント=ウル王国唯一の王子だ」

「それはそれでいいんだが、とりあえず俺に擦り寄ってくるのをなんとかならないのか?」

「無理だ。弟の恋路の邪魔を姉ができるわけなかろう」

「おいおい、そりゃねーんじゃないか。唯一の直系王子の恋のお相手が男なんて話はしゃれにならんぞ?」

「妾は様々な恋の形に理解が深いつもりだ」

『あらラスト、ステキな考え方ね』

「……狂ってるの間違いじゃないか?」


 そんなこんなで雑談を交わしていると、ふいにサクの身体からピンク色のもやが漏れ出してきた。


「おやおや、時間切れかな」


 サクの呟きをよそに、そのもやは徐々に厚みを増していき、しばらくするとサクの全身をすっぽりと包み込んでしまう。


 パサリと音がして、サクが着ていたメイド服が床に落ちた。その音を契機として、ピンク色のもやが徐々に薄れていく。

 やがて完全にもやが晴れ、改めて姿を現したのは、それまでのメイド服姿の女性版サクではなく、全身黒い革服に身を包んだ長身の男性--まぎれもない男性姿のサクであった。


「ほぅ、どうやら魔術の効果が切れたみたいだな。本当にきっかり一日しか持たないのか」

「うむ。だから毎日この時間に来てもらってるのだよ」

『惜しかったわね、もうちょっとで男版サクのメイド服姿が見れたってのに』

「そいつは笑えないジョークだ。死んでもお断りしたいぜ」


 イータ=カリーナの軽口に苦笑いを浮かべ、肩を竦めるサク。

 二人のやりとりを横目で見ていたラストが、ふいに身につけていた服を脱ぎ始めた。やがて全てを脱ぎ終えたラストが、サクの前にあられもない姿を晒す。


「ちとタイミングがずれて元に戻ってしまったが、まぁ問題はない。再度術を施すとしよう」

「はいよ。しかし、毎回毎回全裸にならないと使えない【秘術の門】ってのも厄介なもんだな。しかもたった一日しか効果が持続しないときたもんだ」

「妾は男女入れ替わる魔術という時点で破格の価値があると思うのだがな」

「否定はしないが、王家に伝わる秘術の割には俗過ぎる気がしないか?……しっかし姫さん、ぽんぽん服を脱いで、あんたには恥じらいってもんがないのかよ」

「仕方ないであろう。それが《最高の接吻メルヴェイユ・ヴェーゼ》の制約であるわけだしな」


 サクの指摘を気にする様子もなく、ラストは秘術を施すために全裸のままサクに近づいていく。

 全裸となったラストとの口付け。これが毎晩二人の間で繰り広げられる秘密の儀式となっていた。もっともイータ=カリーナという見物人は毎回付いていたのだか。


 詠唱が終わると、ラストの胸元に具現化した扉が開き、いよいよ秘術が開放される。何度目になるだろうか、熱く情熱的な口付けがサクとラストの間で交わされる。

 幼女と大の大人のキスなど、知らぬものが見たらどう思うだろうか。だが幸いにもこの場にいるのは、当の二人の他には人間のような感情を持ち合わせてないイータ=カリーナだけ。


 淫靡な儀式が進むにつれ、サクたちの体の周りを再びピンク色のもやが包み込んでいく。

 そのまま問題なく秘術が進行していくかに思えた、そのときだった。



 パリーン、というガラスが割れるような音が、静かな夜の宮中に響き渡った。同時に「きゃーっ!」という女性の声の悲鳴が耳に飛び込んでくる。

 これはあきらかに、異常事態だ。


「夜だってのに、ずいぶんと騒がしい娘もいたもんだな」


 いつの間にやら術を終え、再び女性の姿に戻ったサクが、先ほど脱ぎ捨てたメイド服に袖を通す。


「……今の声、もしやフリルか?」

「あぁ、あの落ち着きの無い娘か。ラストの手駒は見た目は良いんだが、曲者揃いだからな」

『あら、フリルちゃんは曲者じゃなくて天然だと思うんだけどなぁ。それよりもフリルちゃんのことが気になるわ、さっさと行ってみましょう』

「はいはい、そう慌てるなよ。ラストも行くか?」

「もちろんだ。妾はここの主人だからな。異変を確認する義務がある」


 三人は意思を確認しあうと、まずサクとイータ=カリーナは廊下に出る。

 近場に異変がないことを確認すると、慌てて着衣してきたラストを引き連れて、そのまま悲鳴が聞こえた方に向かって駆け出したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ