【最終話】 宙へ
本日投稿の二話のうちの一話目です。
ご注意ください。
ラストは今日、死ぬのだと口にした。
そして、最期にサクのために【秘術の門】を使うことを望んでいるとも。
──命をかけた、一世一代の告白。
彼女の言葉が本気であることは、サクにも十分伝わっていた。
「……くくっ」
だがサクは、含み笑いを洩らす。堪えられないといった様子で、それでも瞳には強い光を宿らせたままに。
怪訝な表情を浮かべるラストに、サクは指を二本突き出した。
「おいラスト、あんたは大きな勘違いを二つしている」
「勘違い?」
「ああ。ひとつは、俺が【秘術の門】を求めている理由。俺が集めているのは術そのものであって、術の効果ではない」
「……お主は、自分の未来を知りたくはないのか?」
「あのなぁラスト。未来がわからないから、人生は楽しいんじゃないか。先に知ってどうする。面白くもなんともないだろう?」
「……サク、お主は死が怖くないのか?」
「宇宙に行くってことは、それはすなわち死と同意だ。何も怖くなんてないさ。それに……」
サクはバルコニーに出ると、空を見上げながら口にする。「あそこには、あいつらが先に行って待っている」
サクの瞳に映るのは、遠い日々に出会った友たちの姿なのか。
口元がわずかにほころんだサクの様子に、ラストはふふっと微笑む。
「なるほど、怖くないわけだ。そなたは一人じゃないんだからな。であれば、妾も一足先に星の果てへと行っておくとするか。サクが来るのを楽しみに……」
「そうは問屋が卸さないぞ。ラスト」
サクはぐいっとラストの手を掴んだ。これまで彼が決して取ることがなかった強引な態度に、僅かに狼狽えるラスト。サクの真剣な表情に、ラストは思わず顔を背けてしまう。
だがサクは戸惑うラストに構わず話を続ける。
「あんたが勘違いしていることがもう一つある。俺は、泣く子も黙る天下無敵の怪盗ネームレスだ。この俺に盗めぬものはない」
「サク、そんなことは承知して……」
「だから俺は、ラスト──お前を盗む」
最初、ラストはサクの言ったことの意味がわからなかった。ゆっくりと言葉の意味が浸透していくにつれ、ラストの心に湧き上がってきたのは戸惑いだった。
「何を言っている? さっきも言った通り、妾は今日死ぬのだぞ?」
「俺が、あんたを死なせはしない。……今の俺は、かつての俺じゃない。自分が気に入ったやつが理不尽に死んでいくのを、指を咥えて甘んじるようなガキじゃないんだよ」
サクは、ラストを救おうとしている。
その事実を突きつけられ、既に死を受け入れていたラストの心は強く揺れた。ラストは震える声でサクに確認する。
「サク、妾はお主を騙したんだぞ?」
「その程度のもん、俺にとってはウソでもなんでもないさ」
「……そこまでして、妾の【秘術の門】が欲しいのか?」
「下らんことを聞くな。【秘術の門】は多様性に富んでいるから、ある程度組み合わせで代用が効く。だが、あんたはどうなんだ? 代用できるようなやつなのか?」
「それは……妾に聞くことか?」
「俺はな、あんたほど知的で豪胆で、ユーモアがあって情が深いやつを知らない。俺はあんたのことを気に入っている。あんたが理不尽に死ぬ運命なんてクソ喰らえだ。だから俺が──あんたの運命を変えてみせる」
ラストが、必死で唇を噛む。そうしないと涙がこぼれ落ちそうだったから。
必死に泣くのを我慢しているラストに、追撃のようにサクは言い放つ。
「ラスト、今度は俺からの質問だ。あんたは生きたいのか? それとも死にたいのか?」
「サク……」
「俺はあんたを気に入った。あんたが欲しい。″血界秘術″も、ラスト自身も全部な」
「……お主は贅沢なのだな」
「ああそうさ、俺はしがない盗賊だ。欲しいと思ったものは手に入れないと気が済まないんだよ。さぁラスト、あんたの希望を言うんだ! もう一度聞こう」
「あんたはここで死にたいのか? それとも……俺と共に、あの宙の果てへと旅立ちたいか?」
サクは勢いよく天を指差す。空には、満天の星空。
ラストは、誘われているのだ。最強の魔術師のパートナーとして、星の海への旅へと。
ラストの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
だがラストはすぐに涙を拭うと、まっすぐにサクを見つめる。
「そんなの、答えは決まっている。妾は……」
ラストの口元が、ゆっくりと動く。
紡ぎ出された言葉は……。
──サクと、共にありたい。
ラストの言葉を聞いた途端、サクの全身から猛烈な光が溢れ始めた。まるて嵐のように、内から外へと、光り輝く粒子が止まることなく吹き出してゆく。
「なんだその光は……もしや、魔力か?」
それは、サクの体から漏れ出た魔力の光だった。信じられない量の魔力を前に、驚きのあまり涙も引っ込んでしまう。
これが、サクの本気なのか。
ゾクリとしたものが、ラストの背筋を駆け抜ける。
魔力が溢れるがゆえに、ついには宙に浮くサク。その横には金髪を大いに散らしたイータ=カリーナが、まるで王に従う美姫のように連れ立って浮いている。
驚くべき光景の前に固まってしまったラストに、サクは語りかける。
「いいか、ラスト」
「……なんだ?」
「俺はな、理不尽に立ち向かうために力を手に入れた。以前までの俺じゃない。俺はこれまでも、これらも、あらゆる理不尽や不可能を踏みつけ、踏み越え、前に進んでいく」
ごくり、とラストは唾を飲み込む。
「だからラスト、お前もついてこい。俺にはあんたが必要だ」
「ああ、もちろんだサク。妾を……連れて行ってくれ」
「あんたを死なせやしないさ、ラスト。イータ=カリーナ! やれるかっ!」
サクの言葉を受け、イータ=カリーナは嬉しそうに頷く。
おそらくサクは、神の意志に逆らうようなことをしようとしている。恐れ知らずな、しかしそれはイータ=カリーナが望んでいたような強い意志。
『なかなか無茶を言うわね。ラストの″血界秘術″を廃棄するってこと?』
「いいや、違う。変質させた上で、簡単に使えるように加工するんだ!」
『……正気? そこまでするなら少ない数の並行起動じゃ済まないわよ? いえ、それでも上手くいくのか……』
「イータ=カリーナ。俺はお前の何だ?」
『最高の相棒よ』
「そうだ。だったら相棒の俺を信じろ!」
サクの強い瞳に見つめられ、イータ=カリーナは満足げに唇をぺろりと舐める。
『やっぱりあなたは最高ね、サク。ゾクゾクするわ。いいでしょう、あたしはどこまでだって付き合ってあげる』
「決まりだな、やるぞ。まずは……大罪の【七門】を同時並行起動する」
『それだけじゃ足りないわよ?』
「わかってる。そのあとでセフィロトの【十のセフィラの門】と、アガスティアの【神羅八門】もいくぞ」
『……神話級の門を二十五も並行起動するの? あなた、死ぬかもよ?』
「お前といっしょなら、死んでもいいさ。イータ=カリーナ」
『──その言葉が聞きたかったわ。じゃあ、いくわよ!』
サクとイータ=カリーナが手を繋ぐ。
さらにサクが、ラストに向かって手を伸ばす。
微笑みかける、サクとイータ=カリーナ。
もはや、ラストに迷いなどない。
ラストは、ゆっくりとサクに向かって手を伸ばした。
◇
白楼宮にあるラスティネイア姫の居室から、まるで朝日が昇ったかのような眩い光が確認された。
異変を察したマリィが、フリルを連れてラストの部屋へと駆け込む。
「姫様っ!」
「あわわっ!」
部屋に飛び込んだマリィが目にした光景。
その光景を、彼女は生涯忘れることがなかった。
中央に立つのは、背の高い黒髪の男。その男が、左右に二人の美女を引き連れて、バルコニーから今にも飛び立たんとしていた。
黒髪の男は、もちろんサクだ。しかも彼はあえて目元が隠れるマスクをつけて、怪盗ネームレスの格好をしている。
左側に控える美女は、言わずと知れたサクの守護者であるイータ=カリーナ。黄金色の髪を後ろで纏め、チューブトップにパンツ姿という、これまたサクに合わせた姿を見せている。
そしてもう一人、サクの右側に控えていたのは……。白銀色の髪を宙に踊らせ、白いドレスに身を包んだ女性。
──その女性の姿を見た瞬間、マリィの全身に電撃のようなものが駆け抜けた。
「も、もしや……あなたさまは……」
震える声で、マリィはその女性に声をかける。彼女は、マリィの呼びかけに微笑みながら頷く。
その姿に既視感が重なり、マリィは確信する。この女性は……
──間違いなく、大人の姿になったラストであった。
一気に二十三歳の女性へと変貌を遂げたラストは、眼を見張るような美女へと成長していた。
白金色の髪は辺りを漂う魔力の光を浴びて眩く煌めき、整った目鼻立ちを際立たせる。すらりと伸びた手足は長く、まるで絵画に描かれた女神のように均整が取れている。
なにより彼女を引き立てていたのは、その顔に浮かぶ笑顔。ラストは、幸せいっぱいの笑みを浮かべていたのだ。
マリィは、ラストが徐々に幼くなっていることを知っていた。
出会った時は自分より年上に見えたのに、いつのまにか逆転していた。
今では幼児にしか見えなくなったラストの姿に、マリィはずっと心を痛めていた。
だが、今自分の目の前に、夢にまで見た大人のラストの姿があった。
しかも、彼女がイメージしていたよりも遥かに気高く、美しい姿で。
「ラスティネイア姫様……」
マリィは、涙が止まらなかった。
敬愛する主人が、絶対不可避の呪いから解放されたのだ。これほど喜ばしいことがあろうか。
横のフリルが「うっそ⁉︎ 姫様が大人になってる……」などと呟く声も、もはや耳に入ってこない。
それほどに、マリィはラストの姿に見入っていたのだ。
「マリィ! フリル! 世話になったな。ラウラメント=ウル王国の姫であるラスティネイアは、今ここに死んだ! これから妾は一人の女性″ラスト″として生きていく!」
「姫様……」
「お主たちはもう自由だ。妾に縛られる必要はない。自分の人生を好きに生きよ。これが、妾からの最後の命令だ」
ラストは笑顔で残されるであろう二人に最後の指示を出した。
これで、ラストとマリィたちの縁は完全に切れる。そのはずだった。
我を取り戻したマリィが、涙を拭うと背に担いでいた大剣を構えた。剣の先が向くのは──サクの方向だ。
「待て! 怪盗ネームレス!」
「……どうした、マリィ。警備兵よろしく妨害でもするつもりか?」
サクが愉快そうに問いを投げかける。だがマリィは首を横に振ると、大剣を床に突き立て、サクに向かって答える。
「怪盗ネームレス! あなたが盗むそのお宝は、完璧ではない。大事なものが欠けているぞ!」
「……大事なもの?」
首をひねるサクとラストに向かって、マリィは膝をついた。忠誠を誓う騎士のような姿勢を取ると、二人に向かって堂々と宣言する。
「それはこの私だ! 私も連れて行け、怪盗ネームレス!」
思いがけないマリィの申し出に、戸惑いを見せたのはラストだった。幼子を諭す姉のような表情でマリィに語りかける。
「何を言うマリィ。これは妾のワガママなのだ。お主まで付き合う必要はない。お主はお主の幸せを見つけよ」
「嫌でございます! 私の幸せはあなたと共にあるのです! お願いします、私も連れていってくたさい!」
マリィの意志は固い。決して揺らぐことはないように思えた。
困り果てたラストが、隣にいる黒髪の男に視線を向ける。意見を問われた形のサクはニヤリと笑う。
「欠けているというならば、仕方あるまい。全てを奪っていこう! 怪盗ネームレスは、すべてのお宝を奪うのだからな!」
マリィの顔が、まるで闇夜に咲く花のように破顔した。
彼女がこれまで浮かべたことが無いような無邪気な笑顔に、思わずラストの顔が綻ぶ。
マリィの笑顔につられたのか、慌てたフリルが「じゃ、じゃああたしも連れてってよー!」と駄々っ子のように訴え、ついにサクとイータ=カリーナが爆笑する。
苦笑いを浮かべながら「仕方ない、毒食らわば皿までだな」などと嘯くサクの横で、ラストが笑顔で両手を広げた。
大人の女性に変貌を遂げたラストの胸に、マリィとフリルが勢いよく抱きついてくる。
弾ける笑顔に溢れる幸せが、三人の間に広がっていった。
仲睦まじく抱き合う三人の様子を眺めていたサクとイータ=カリーナは、ふとバルコニーの外に視線を向ける。
『あらあら、ちょっと時間をかけ過ぎちゃったみたいね。どうやら侵入がバレたみたいよ?』
イータ=カリーナの言う通り、すでに下には多数の警備兵たちが駆けつけてきていた。前回のノーフェースの侵入を許した教訓から、彼らも迅速に対応するようになっていたのだ。
マリィたちを引き離したラストが、心配そうにサクの側へと寄る。
「どうやって脱出する? ″血界秘術″でも使うのか?」
「いや、どうせならもっといい手段がある。せっかくのラストたちの晴れの門出だ。めいっぱい派手にやろうかと思ってな」
サクがニヤリと笑いながら、右手を空に掲げた。宙に描かれる、巨大な魔法陣。
「もしや、【秘術の門】? ……サク、何かを召喚する気か?」
「なぁラスト、一つ質問だ。なぜ俺が、女の姿になってまであんたの依頼を受けたと思ってる?」
「さっきも言っていたではないか。それは、【秘術の門】が欲しかったからだろう?」
「それもあるが、それだけじゃない。実は金のほうも大事だったんだ」
「……金? お前ほどの男が金欠だというのか?」
「ははっ、そう言うな。では俺は、何のために大量の金や【秘術の門】を求めていると思う?」
ラストは首を斜めにする。そんなの分かるわけがないと言いたげだ。
サクは人の悪そうな笑顔を浮かべると、ラストの腰に手を回しながら「その答えは、こいつさ」と言いながら、【秘術の門】の詠唱を始める。
「 ″秘密基地【宙への道】へと接続し、宙へ渡る船を起動せよ″。召喚──《宇宙巡航艦招来》!」
サクの詠唱に応えて、宙空にひときわ輝く銀色の門が現れた。扉が左右に開いていき、中からゆっくりと、巨大な何かが姿を現しはじめる。
──出現したのは、巨大な鉄の塊だった。
一見すると、丸い筒のように見える。様々な光を発しながら現れたそれを呼ぶ名称を、ラストは知らなかった。
「サク、これは……」
「こいつは″宇宙船″っていうのさ。その名も『アルデバラン』。文字通り、宇宙に飛び出すための船だ」
「──なんと、宇宙に飛び出すための船なのか!」
「ああ、俺はこいつに既に百億エリルは突っ込んでいる。動力源はイータ=カリーナの魔力で、俺が【秘術の門】を使うことで、この船は動く。それが、俺が大量の金と【秘術の門】を必要とした理由なのさ」
開いた口が塞がらない、とはこのことである。
ラストたちはあまりにもスケールの大きな話な完全に度肝を抜かされていた。
あんぐりと口を開けていたラストを、ふいにサクがお姫様抱っこした。驚くラストにいたずらっ子のような表情を見せながら、サクがウインクする。
「さぁみんな、乗りこむぞ! 大金をかけただけあって、こいつはなかなかの出来だぜ?」
サクの号令に合わせて、宇宙船から光が照射された。光に包まれたサクたちの身体が宙に浮く。
──そのままサクたちは、宇宙船の中へと導かれていった。
金属によって作られた通路を抜けると、たどり着いたのは少し開けた空間だった。サクは「ここはコックピットだ」と語るものの、その言葉の意味がラストには分からない。
「さぁみんな、そこに座ってシートベルトをしてくれ、これから″ワープ″する」
「ワープ?」
「ああ。俺の《亜空間転移》を利用して、任意の場所に転移するのさ。あぁ、同時に複数の【秘術の門】を起動するから、気をつけてくれよな」
サクの指示に従い、ラストたちはそそくさと席に着く。
「イータ=カリーナ! ナビを頼む!」
『はぁーい!』
いつのまにか、目の前の壁に外の様子が映し出されていた。さらには映像の中に、イータ=カリーナも入り込んでいる。彼女はいつものドレス姿ではなく、ピッチリとした赤のボディスーツに身を包んでいた。
驚きの連続で戸惑っているラストに、サクが声をかける。
「ラスト、《天をも見通す目》を使え」
「えっ?」
彼女が戸惑うのも無理はない。なにせその【秘術の門】のせいで、ラストは死にかけていたのだから。
だがサクは安心させるような笑みを浮かべると、ラストに説明する。
「大丈夫だ。既にその術には改良を加えてある。妙なリスクと機能を落として、″望む座標を確認できる″術に変更した。さぁ、やってみろ!」
「……わ、わかったぞ」
サクに促されるままに、ラストは恐る恐る術を行使する。
「開眼──《天をも見通す目》!」
次の瞬間、ラストの脳内に、凄まじい量の情報が飛び込んできた。しかもその質や中身は、これまでと全く異なるものであった。
「よし、イータ=カリーナ! 繋げっ!」
『はぁーい、接続っと』
彼女の声に反応して、ラストの頭に飛び込んでくる情報が一気に落ち着いた。代わりに、前方画面の左側に、円形の地図が表示される。
「これは……もしや周辺の地図か?」
「ああ。だがあんたが望めば好きな座標の地図を表示できる。それこそが俺が探し求めていた機能──《天をも見通す目》の真の能力さ。ま、誰かが魔改造して妙なもんに変質してたけどな」
そう語るサクの前には、複数の光る盤面が現れていた。何かと尋ねると「こいつは【秘術の門】を操作盤化したもんだ。こいつで俺は、この船を操作するのさ」とのこと。
さっぱり意味はわからないラストであったが、サクは極めて上機嫌だった。「これで未知の宙域の座標だって探れるし、安全に旅立つことが出来る」と、まるで子供のようにはしゃいでいる。
『嬉しいのは分かるけど、サク、そろそろタイムリミットよ?』
「……ああすまん、つい興奮してしまった。それじゃそろそろお暇するかな。ラスト、あんたはどこに行きたい?」
ふいに問われて、ラストは僅かの間考えたあと、思い浮かんだ場所を伝える。
「……綺麗な海が見たいな。妾はこの白楼宮からほとんど出たことないのだ」
「ってことだ。イータ=カリーナ、良い場所はあるか?」
『そうね、じゃあ南の島のカイアイナウイあたりにしましょうか?』
イータ=カリーナの返事に応じて、前方の画面に新たな地図が表示される。そこは、ここから遥か南にある常夏の島。
『《天をも見通す目》のおかげで数十倍捗るわね、座標セット完了よ』
「よし、では行くぞ! 宇宙船アルデバラン、発進!」
『しゅっぱーつ!』
ごごごごごご……。
凄まじい轟音を上げながら、アルデバランが鳴動していく。あまりの恐ろしさに、マリィとフリルはお互いの手を握りしめる。
ラストは真っ直ぐに前を見ていた。彼女の目に映るのは、まだ見ぬ未知の世界と、そして──。
「いくぞ。ワープだ!」
黒髪の怪盗サクが、声を上げる。
すると、宇宙船アルデバランは、目の前に発生した黒い空間の中へと飛び込んでいった。
◇
銀色の巨大な龍が、ラウラメント=ウル王国の王都ラウラメントにある″白楼宮″に現れた。恐るべき事態にラウラメントの人びとは恐慌に陥っていた。
だが、突如現れた銀色の龍は、出たときと同様に突如消え去ったという。その際に、本来消えてはならないものも同時に消えてしまっていた。
そのような報告を受けた第一王子のスピリアトスが、慌てて姉のラスティネイアがいるはずの居室を訪れる。
彼女の部屋には、一枚の紙だけが残されたいた。
手に取るスピリアトス。そこにはこう書かれていた。
『宝物は頂いた。怪盗ネームレス』
〜 エピローグに続く 〜




