15.ガーランドの能力
ノーフェースを倒したことで安心したのか、マリィの全身から透明な炎のオーラが消えた。
途端に力尽きたかのようにぱたりと前のめりに倒れこむ。
「マリィ!」
ラストが慌ててマリィに近づこうとする。だがそれよりも前にマリィを支えるものがいた。メイド服に身を包んだ黒髪の美女--サクだ。
いつのまにかマリィの傍に移動していたサクに支えられ、マリィは満足げな笑みを浮かべる。
「師匠、私は……やりとげましたよ」
「よくがんばりましたわね、マリィ」
「えへへ……うれしい、です。あとのことは……お願いしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、あとはまかせなさい。それが、わたくしの仕事なのですから」
一方、ガーランドは撃沈したノーフェースを唖然とした様子で眺めていた。
「ばかな……あのノーフェースが負けただと?」
ガーランドが知る限り、ノーフェースは相当な力を持つ魔術師だ。【秘術の門】を支える時点で戦略級魔術師と呼べるだろう。
それほどの存在が、たかが騎士ごときに負かされたことが信じられなかったのだ。
ガーランドが呆然としているうちに、サクがマリィを抱えてラストたちの元へと運んでゆく。力を使い果たしてほとんど動けないマリィをラストたちに預けると、すぐにサクはガーランドへと向かおうとする。そんな彼--いや彼女にラストは声をかけた。
「サク、マリィのために成長の機会を与えてくれたこと、感謝する」
「なんのことを言っているのか分かりませんわ。わたくしはただ、楽をしたかっただけですのよ?」
「……まぁお主がそう言うなら、そういうことにしておこうか」
ひらりとメイド服のスカートを翻すと、そのまま振り返ることなく、サクラはガーランドに向かって歩み出したのだった。
◇
「さぁガーランド様、前座は終わりました。次はわたくしのお相手をして頂けますか?」
呆然としていたガーランドは、ふいに声を掛けられ顔を上げる。
彼の目に映ったのは、右手に薔薇の花の意匠が施された細身の剣を持つメイド──サクの姿である。その周りを飛び回るのは、妖精の姿をしたイッカことイータ=カリーナ。
武装したサクの姿を見て、ガーランドは眉をひそめる。
「……サクラ。もしやお前、俺様のことを謀ったのか?」
「なにを仰いますガーランド様。わたくしはマリィとノーフェースが戦う場をお願いしただけですわ。もっとも、まさかマリィが勝つとは思ってませんでしたけど」
「むむっ、ではなぜお前は剣を持って俺様に対峙している?」
「だって申し上げたではありませんか。次はわたくしがあなた様のお相手しますってね」
サクは艶かしく身体をくねらせると、剣を振るいメイド服のスカートを短く切る。ふんわりと薔薇の香りが漂い、白く美しい白磁のような生足が白日のもとに晒される。
「お相手をするとは、俺様と戦うという意味だったというのか」
「ええ、もちろんですわ。……他に何をお望みで?」
「……まあいい。足腰立たなくしてから、じっくりと堪能してやる」
あえて挑発するように、生足を惜しげもなく見せびらかすサクラ。
はじめはサクラの生足を見てガーランドは舌なめずりをしていたものの、すぐに彼女が手に持つ剣に視線を向ける。
「……そいつは魔剣か?」
「いやですわ、ガーランド様。乙女の秘密を聞かないでくださいませ」
「たとえ魔剣だろうと、俺様にその剣は届かんぞ?」
「そもそもこの魔剣──花剣と言いますが、これにそんなにすごい効果はありませんわ。ただ、斬ったときに薔薇の香りを漂わせるだけですもの。うふふ、可愛らしい効果だと思いません?」
「ふむ、サクラはなかなかに良い趣味をしてるな。……よかろう、お前に俺様に無条件で一太刀を浴びせる権利を与えてやる」
ガーランドは挑発的な笑みを浮かべながら、両手を広げてサクの剣を受け入れようとする。
サクも「では、お言葉に甘えて」と近づいていき、流れるような動作でガーランドを切りつける。
バチンッと大きな音がして、サクの手から剣が弾け飛んだ。ふわっと一瞬だけ薔薇の香りが広がる。
いやらしい笑みを浮かべながら、ガーランドが「どうした? 何かあったのか?」とわざとらしく尋ねる。聞かれた方のサクラも、嬉しそうに恍惚とした顔をしながらガーランドに流し目を送る。
「素晴らしいですわね。肉体そのものが雷と化してるなんて」
「ほう、気づいたか。しかもまともに電撃を喰らうのを避けるために、とっさに剣を手放すとはな。サクラ、ますますお前のことが気に入ったぞ」
「光栄ですわ、ガーランド様」
サクは痺れが走る手を振りながら、ペコリと頭を下げる。
「だがこれで分かっただろう? お前の剣は俺様には届かない」
「さて、どうでしょうか? もう少し試してみましょうか」
ふと気がつくと、再びサクの手に別の剣が握られていた。先ほどとは違い、蘭の花の意匠が施されている。
一体この剣はどこから取り出したのか、ガーランドは首をひねる。気になって先ほど飛ばされた剣を見ると、既に綺麗さっぱり消滅していた。
「なんなんだその剣は、ポコポコと湧いてきおって。もしや魔術か?」
「うふふ、今度は蘭の香りがする剣ですわ。高貴なるガーランド様にはお似合いですわよね?」
言うが早いか、サクは素早く剣を投げつけた。だが今度はガーランドの体を完全にすり抜け、向こう側にある木に突き刺さる。
剣が刺さった場所には、蘭の花が湧くように咲き乱れてゆく。だが今度の剣も、ガーランドの体を傷付けることは叶わずにいた。
「くくく、何度やろうと無駄だ。これで俺様に逆らえないこと、十分理解できたであろう?」
「まぁ、わたくしは最初から逆らうつもりなんてございませんわ」
「……これほど圧倒的な力を見せつけられても、怯えた様子ひとつ見せんとは。なにやら妙な術も使いおるし、実に気に入ったぞ。どうだサクラ、俺様の配下になるつもりはないか?」
「いやですわ。もしわたくしをモノにしたかったら、力づくでしてください。わたくし、強引な男性が大好きですの」
ウインクをしながら投げキッスをするサクラに、ガーランドはさらに口元を歪める。
「くくく、本当に面白いヤツだな。だが少しイタズラが過ぎるぞ。俺様の【秘術の門】《神撃の雷燼》で、少しお仕置きをしなければいけないな」
勝ち誇った笑みを浮かべるガーランドが、右手を天に掲げ、電撃を放ち始めた。やがて雷は右手の上に集まっていき、一つの輝く門を形取る。ガーランドの【秘術の門】だ。
ゆっくりと扉が開き、中から稲妻を放つ槍が徐々に姿を現す。ガーランドは槍を鷲掴みにすると、切っ先をサクに向けた。
「《神撃の雷燼》だと? それは、セルシュヴァント魔法帝国に伝わる有名な【秘術の門】の一つではないか!」
ラストが思わず反応した通り、《神撃の雷燼》は、セルシュヴァント魔法帝国の建国王アーガベルトが使いこなしていたと言われる伝説の【秘術の門】だ。
自らを『神罰の雷』と名乗り、圧倒的な破壊の力で一つの国を作り上げた建国王と同じ力を持つということは、ガーランドが相当な魔術師であることを示していた。
「あら、建国王の【秘術の門】を使えるなんて素敵ですわね。さすがはガーランド様」
「くくく、恐れ入ったか。だが降参するのはまだ早いぞ? 俺様の《神撃の雷燼》は、我が身を雷に変えるだけでなく、この通り雷の槍の形を成すことも出来る。これこそが我がセルシュヴァント魔法帝国の建国王アーガベルトが使っていた、蛮族の勇者たちを数多く焼き殺した『神雷の裁き』だ」
「まぁ怖い」
「多少手加減してやる。これでも喰らって俺様の前に跪くがいい」
ガーランドが手を振るうと、宙に浮いた雷の槍が電撃を放ちながらサクラに向かって突き進んできた。
あんなものに貫かれたらひとたまりもない。だがサクはそこで両手をパンッと打つと、素早く詠唱を開始する。
「”乙女たちの花畑”より、我が呼び声に応え集え。″召喚、《花の守護騎士》!」
サクラの目の前に、花が散りばめられた可憐な門が現れた。彼女の周りに色とりどりの花まで咲き乱れ始める。
タンポポのようなドアノブが回転して扉が開かれると、中から花吹雪が吹き出してきた。
花吹雪とともに、様々な花の意匠が施された複数の剣が、まるで道を作るように列を成す。ガーランドの放った雷の槍は、剣の道をたどるようにしてサクラたちの方向からずれていき、そのまま森の奥に激突して大きな爆発を起こした。
「ほう、まさか剣を召喚して雷を誘導するとはな。なかなか面白いことをするではないか。しかしまさかサクラも【秘術の門】の使い手だったとは思わなかったぞ」
「乙女に、花の【秘術の門】は似合うと思いませんこと?」
「くくく。だがな、その程度の格の【秘術の門】では、俺様の《神撃の雷燼》には到底敵わないぞ? 次は外さん。動け、ツィー=カフ!」
ガーランドの命令を受けて、黒い女神ツィー=カフが『きぃええぇえぇえ!』と奇声をあげた。
女神の叫びに呼応して、それまで周りで待機していたインプたちが一斉に動き出す。
彼らはサクたちを取り囲む輪を縮めるように動き始めた。どうやら逃げ道を塞ぐことが目的のようだ。徐々にインプたちが包囲網を狭めていく。
気がつくと、サクたちはひと塊りになるよう追い込まれていた。すぐ隣に来たラストが、自分たちを取り巻く状況についてサクに問う。
「完全に包囲されたな。この状況であの雷の槍を食らえばひとたまりもないぞ。なにか手はあるのか?」
「ええ。おかげさまでガーランドの持つ能力は、だいたい分析ができましたわ」
「……もう分析できたのか?」
「ええ。イータ=カリーナ。説明して頂けます?」
突然サクに話を振られて、イータ=カリーナは、待ってましたとばかりに頷いて説明を開始する。どこから取り出したのか、メガネまでかける念の入れようだ。
『えー、オホン。ガーランドは大きく二つの能力を持っていると予想されるわね。まず一つがさっきも見せた雷の【秘術の門】。マリィの身体をすり抜けたり、ヤマトの剣が効かなかった点から見て、自身の体を雷そのものに変化させることができてるみたい。実質的に物理無効の力も持ってる、相当な格の【秘術の門】よ。さすがは建国王アーガベルトの《神撃の雷燼》ね』
【秘術の門】にも当然のように格がある。その中でもイータ=カリーナの語る通り、《神撃の雷燼》はかなり上位に位置するほどの格を持つものであった。
『そしてもう一つは……あの黒い女が関係してるわね』
「ツィー=カフと言っていたか、ガーランドの守護者なのだろう?」
『ええ、しかもアレは……たぶん″邪神″クラスね』
「なっ⁉︎ 邪神となっ⁉︎」
邪神というキーワードに、ラストが眉を潜める。
邪神といえば、つい先日サクから凄惨な話を聞かされたばかりだ。″最果ての迷宮″に封印された七体の邪神によって、数多くの英雄たちが無残な死を遂げたという。
そのような恐ろしい邪神を守護者にするなど、ラストには想像できなかった。
『厳密に言うと邪神じゃなくて、邪神級ね。邪神とは別物だけど、邪神に近い力を持つ悪霊よ』
「邪神ほどの力を持つ、守護者……」
『しかもあの小鬼、ガーランドの守護者『ツィー=カフ』の眷族よ。マリィは一騎当千だから軽く撃退してたけど、下手すれば一国が滅ぼされるレベルじゃないかしら』
イータ=カリーナの言葉に、ラストはいまも黙々とインプを召喚し続ける黒い女神のほうに視線を向ける。
確かに彼女の言う通り、麻痺効果を持つ小鬼をほぼ無限に呼び寄せられたら、国であろうと手も足も出ない可能性がある。冷静に考えると実に恐ろしい戦力だ。
「しかしガーランドのやつ、あのような力を持つ守護者をどうやって……」
『そこが、もう一つのガーランドの持つ能力じゃないかと思ってるわ』
「……もう一つ、力があるのか?」
「おそらくガーランドは、相手を操る能力を持っていますわ。それが神才、もしくは【秘術の門】の力なのかまでは分からないけどね」
サクはイータ=カリーナから話を引き継いで、仮説を説明する。
ガーランドは、なんらかの手法で″相手を操る力″を手に入れた。その力を用いて、黒い女神を守護者とし、さらには″自称ネームレス″をも配下に加えたのではないか、と。
「そういえば、建国王アーガベルトは他人を自在に操ることができたという伝承を聞いたことがあるな。もし彼がそのような血を受け継いでいたとしたら……」
「血族に似た神才持ちがいたなら、その力を持ってる可能性はありえますわね」
「しかし、そんな力があるならば自分の兄でも操って王位に着けば良いのにな」
「忘れたんですの? 彼の望みは王位じゃなくてあなたですわよ、ラスト? それに第一王子であるブルームハイトに、その手の魔術は効きませんわ」
効かない理由についてサクは詳しく話してはくれなかったが、どうやら超一流の冒険者だったブルームハイトにはこの手の魔術は効果を発揮しないらしい。
だがそれであれば、魔術が効く相手を探せばいいだけだ。そこでガーランドは、ネームレスや隣国のラウラメント=ウル王国並びに自分に目をつけたのであろうか。
ラストは思考していくなかで、ふと別の疑問が浮かんでくる。
「……あのネームレスの偽物が操られてたと、サクはいつ気づいていた?」
「もちろん、最初にヤツと対峙したときですわ。魔力の流れを見れば、おおよそそれくらいのことは分かります」
「もしかしてお主、あのときわざと致命傷を与えずにあやつを逃したのか?」
「うふふっ、疑似餌はちゃんと動かさないと、本命は食いつきませんからね」
そう言うと、サクは真っ赤な唇を広げてニッコリと微笑んだのだった。
◇
サクとラストが話し込んでいる間に、ガーランドによる包囲網はほぼ完成していた。
「さぁ、もう逃げ道も無くなったぞ?」
再び雷の槍を呼び出し、サクたちに向けて構えるガーランド。
インプによって周囲が包囲されていることから、容易に逃げることもできない。なにより、仮にサクが避けたところで、逃げ切れないラストたちは巻き込まれてしまう。
ガーランドの言う通り、サクたちは追い込まれていた。
「俺様のツィー=カフの眷属インプに麻痺されて倒れるか、我が雷を受けて倒れるか、好きな方を選ぶがいい」
「第三の選択肢はないのかしら? ガーランド様を打ち破るという、ね?」
「……これだけの能力を目の当たりにしても、まだ俺様と対峙する気力があるか。よかろう、伝説の【秘術の門】を喰らって打ちひしがれるがいい。 《神撃の雷燼》──″神雷の裁き″」
「召喚、《花の守護騎士》!」
逃げることの許されない状況でガーランドの槍が迫る中、サクが今回召喚したのは、巨大なヒマワリの形をした盾だった。サクは回避するではなく、受ける道を選んだのだ。
だが雷の槍の直撃を受けた瞬間、ヒマワリの盾はあっけなく吹き飛んだ。さらに着雷点を中心に稲妻が炸裂し、激しく爆発する。
猛烈な爆風に晒され、ひとたまりもなく弾き飛ばされるサクとイータ=カリーナ。
「サクっ⁉︎」
「師匠っ⁉︎」
「サクラさん!」
ラストたちの悲鳴が響く中、吹き飛ばされたサクは近くの森へと墜落した。さらに着地した地点に、巨大な落雷が何度も何度も炸裂する。執拗なまでのガーランドの追撃だ。
「くはははっ! これはちとやり過ぎてしまったかな、これでは消し炭になっているかもしれんなぁ?」
炸裂する稲妻を操りながら、勝利を確信して高笑いするガーランド。サクが吹き飛ばされた場所は、生き物の存在を確認することが不可能なくらい消し飛ばされている。
もはや、サクの生存は絶望的のように思われた。
まさか、あの師匠がやられてしまったというのか。マリィは黒いクレーターと化した一帯を見ながら心の中で葛藤していた。
いくら最強の魔術師といえど、伝説の建国王の【秘術の門】の前では無力だというのだろうか。
だがそれでもマリィには、サクが負ける姿がまるで想像できなかった。なにせ彼は、自分の父すら命を落としたあの迷宮で、たった一人生き残った″英雄の中の英雄″なのだから。
一方、一通り雷を撃ち尽くして満足したのか、ガーランドが今度はラストたちに視線を向ける。
「さーて、次はお前たちだな。……特にそこのオカマ!」
「ひいっ!」
「貴様だけは、まともな死に方をさせんぞ!」
「いやぁぁ、やめてえぇぇ!」
怒気を発するガーランドに名指しされ、悲鳴をあげてフリルにしがみつくスピリアトス。その様子を嗜虐的な目で眺めながら、ガーランドは再び手に雷の槍を召喚する。
だが二人の間に立ち塞がるものがいた。両手を広げたラストだ。
「ね、姉さん⁉︎」
「……なんだお前は。俺様は幼女趣味ではないぞ? 死にたくなければそこをどけ」
「止めろ、ガーランド。こやつには、妾が指一本触れさせん」
「……ほぅ、幼いのになかなかの心意気だな。あと十年経てば食ってやったんだが──」
人を小馬鹿にしたような邪悪な笑みを浮かべるガーランド。
「残念ながら、お前たちにその機会は永遠に来ることはない。死ねっ! 《神撃の雷燼》」
ガーランドが無慈悲に手を振るい、電撃を帯びた槍が、容赦なくラストたちに襲いかかってくる。
避けられないと判断したラストが、覚悟を決めて目を瞑る。
……だが、ラストたちの身体に電撃が届くことはなかった。それどころか、爆発音や落雷の音すら聞こえて来ない。
予想していた衝撃が来ないことに、不審に思ったラストがゆっくりと目を開ける。
彼女の目の前に、見たこともない人物が立っていた。
◇
立っていたのは、マントを身に着けた長身の女性だった。
夜の闇のように黒い髪は、夜空の星のように時折キラキラと光を放っており、相当に整っているであろうその顔には、目だけが隠れる仮面をつけている。
そして、彼女の美しく研ぎ澄まされた身体には、全裸に近い水着──いわゆるビキニに似た服を身につけていた。
場違いなまでに扇情的な格好をした女性の登場に、その場にいた全員の目が釘付けになる。
「……何者だ、貴様」
自身の電撃を防がれたガーランドが、突如現れた美女に不機嫌そうに問う。
「名乗るほどのものではないさ。ただ、目の前の宝を汚されるのが許せなくてね」
「まさか、貴様は……」
ラストには、この人物の正体がすぐに分かっていた。
彼──いや彼女を呼ぶ名称を、ラストはいくつか知っている。その中からラストは、今の彼女に最も相応しい名で呼ぶことにした。
その名は──。
「【怪盗】ネームレス!」
ラストの呼びかけに、ビキニ姿の美女はニヤリと笑った。




