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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
3 恋

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97/201

第96話 受け継ぐ者

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 光は小さく息を吸い込むと、ゆっくり静かに話を始めた。


「里々衣はね、俺たち兄弟にとって、大事な宝なんだ。俺はね、自分について何言われても、例え自分がどうなっても、里々衣が守れるなら、構わないんだよ。でも、ハルや里々衣の事を知りもしない奴らにどうこう言われるのは、本当に許せないんだ。あの場に、中西が居てくれて良かった。俺一人だったら、きっと殺してる」


 最後の一言に、美夜は目を見開いた。


「そんな……。冗談でも、そんな事を言ってはだめです」


 光はそっと微笑む。


「だから、中西が居てくれて良かったって言ってるんだよ。犯罪者にならずに済んだ……」


 美夜は身体を捻り、光に向いた。


「コウさん。約束してください。もう、そんなこと、思わないでください。自分がどうなったって良いような発言、止めてください。コウさんが居なくなったら、ハルさんも里々衣ちゃんも、悲しむどころでは済まないかも知れない。それに、私も困ります」


 光は微かに目を見開き、美夜を見た。美夜はどこか必死さを感じる表情で言葉を続ける。


「コウさんが居なくなると、私、ケーキの作り方を教わる人がいなくなるじゃないですか。Lisの味を作れるのは、コウさんだけなんですから」


 光は呆けた顔で「ああ」と息を吐き出すように言うと、小さく吹き出し、「そうだね」と笑い声を上げた。


「もう言わないよ」


「約束ですよ」


「はいはい」


 光は腕をぐっと上に伸ばすと、勢いを付けて立ち上がった。


「何か飲む?喉乾いたでしょう?」


「はい」


「じゃあ、ちょっと買ってくるよ。待ってて」


 光は小走りで自動販売機の前まで行き、暫くして、缶コーヒーと紅茶を持って戻ってきた。


「紅茶で良いんだよね?」


「はい、ありがとうございます」


 光は美夜の隣に腰を下ろすと、缶コーヒーを飲んだ。

 美夜はキャップを開けて、冷たいミルクティーを口に含む。甘く冷たい紅茶が、喉を通っていく感覚に、これほど渇いていたのかと、自分でも驚くぐらい、一気に半分を飲み干した。紅茶が喉を潤し、先ほどまで胸につかえていた怒りも、流れていったようだ。


「さっきの店、もう行けないな……」


 光は心持ちがっかりしたような声を出した。

 美夜もその言葉に「ですね」と同意する。


「ちゃんと味わって食べてみたかったな。中西、味とか覚えてる?」


「覚えてる訳ないじゃないですか」


「ですよねえ……。ああ、くそ!あいつさえ居なければ! ああ!むかつく!」


「コ、コウさん、落ち着いてください」


 美夜は苦笑しながら言った。


「まあ、いいかあ。あの近辺にあいつが居るわけだから、近寄ったらまた鉢合わせするかも知れないし。忘れよ」


「そうですよ、その方が良いです」


 光は頷くと、缶コーヒーを飲み干した。

「そう言えば」と、美夜はふと宏美が言っていた言葉を思い出した。


「あの、ハルさんもコウさんも、もしかして……」


「【ハイエスト・レリッシュ】に関係あるのか?」


 光は先回りして言った。


 【ハイエスト・レリッシュ】

 日本にある大手の老舗菓子メーカーだ。誰もが憧れる高級菓子の店で、紙袋を持っているだけでも人目を引く。その菓子メーカーの略名が【ハイレリ】。


 美夜は光から視線を逸らすと「はい」と頷いた。

 光は「とうとうばれたか」と冗談めかして言うと、「そうだよ。実家の会社は【ハイレリ】です」と答えた。


「【ハイレリ】の菓子、食べたことある?」


 光は、穏やかで優しい声色で訊ねた。


「はい。お中元とかお歳暮で来たことがあって、何度か食べたことがあります」


「昔はね、あんな味じゃなかったんだ。俺達の祖母はね、フランス人なんだ。祖父は、祖母が大好きでね……。祖母の喜ぶ顔が見たくて、和菓子職人から洋菓子職人になって、祖母が好きな菓子を作り続けたんだよ。でも、祖父が亡くなって、俺の親父が社長になったら、全部変わっちゃったんだ。俺もハルも、会社の味を元に戻そうって、言ってたんだけど……」


 光は遠くを所在なげに見つめながら、独り言の様に話を続ける。


「でも、そうすることで、今の味を【ハイレリ】の味だって、美味しいって思ってる人にとっては、俺たちがショック受けたように、味が変わったって、ショックを受けることになるんだよって、祖母に言われてね。だったら、俺たちは俺たちで、今の店を立ち上げようって。それで、今がある。今の店の味は、昔の【ハイレリ】と同じなんだ。焼き菓子は特にね」


 光は弱々しく微笑んだ。


「俺は……俺たちは、実家とは違う場所で、祖父の味を継いでいきたかったんだ」


 美夜は何と言っていいか分からず、小さく頷いた。


「中西を採用したのは、その辺にも理由があるんだ」


 一陣の風が吹き抜け、光の髪を掻き上げていく。色素の薄い柔らかな瞳が、美夜を捉えた。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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