第95話 光の怒り
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光は鋭い視線で宏美を睨み付けた。
「俺には理解できないけどさ。あんた、世間体では美人のうちに入ると思ってるみたいだけど、自分をよく見てみた方が良いよ。骸骨並みの外見も去ることながら、性格はゴキブリ並みだ」
宏美は顔を真っ赤にして目を見開いた。
「ど、どういう意味よ」
「意味?聞きたいの?意味はそのままんまだよ。残飯漁って、図々しく、黒光りな気持ち悪いオーラ醸して、逃げ回って嫌がる人間を、追い回すように飛んでくる。殺虫スプレーをかけてもなかなかくたばらない。油ギッシュで、死ぬ寸前に卵を産み落とし、人をまた嫌な思いにさせる。まだ続ける?」
光は、にやりと笑うと、宏美の友人に視線を向けた。友人は呆然とした顔で、光と宏美を見ている。
「ついでにあんた。俺は、あんたみたいな女も願い下げだ。誰に紹介されても付き合う気はない。この女のお薦めなら尚のことだ」
友人は何も言い返せずに顔を赤くした。光は再び宏美に視線を戻す。
「今後一切、俺たちの前に現れるな。また前みたいにハルを追い回すようなことがあれば、今度こそ警察に突き出す。あんた、法は犯していないって言ったけど、大いに、不法行為を犯してるからな。思い当たらないというなら、法律の勉強でもした方がいい。今後、あんたの身の助けになるだろうよ」
光は美夜の腕を掴んだまま自分達の席に戻ると、美夜の鞄と伝票を掴みレジに向かった。
光の手は、怒りのためか、微かに震えている。
本来なら殴りたかったのだろう。しかし、美夜の腕を掴んでいることで、理性を失わないで居たのかも知れないと、美夜は思った。
レジの前に来ると、ようやく美夜の腕を放した。美夜の腕は微かに痺れていた。美夜は自分の腕をそっと触れる。自分も怒っていたためか、光がどのくらいの強さで掴んでいたのかさえ、覚えていない。
「お騒がせしました」
光が一言店員に謝ると、男性店員は「いえ」と微笑んだ。
「あの人、よく来るんですけど、いつも横柄で。さっき、お二人が私たちの言いたいことを言ってくれたので、すっきりしました」
小さな声でそう言うと、光に釣り銭と領収書を渡した。
美夜が他の店員に目をやると、皆、静かに微笑んでいる。美夜は「すみませんでした」と頭を下げ、光と共に店を後にした。
店を出ると、光は再び美夜の手を取り、大股で歩き出した。美夜は小走りで後に続く。
暫くすると、大きな公園に辿り着いた。
光はようやく美夜の手を放し、ベンチにどかりと座った。背もたれに寄りかかり、深く息を吐き出す。額に浮かんだ汗を、手の甲で軽く拭った。
美夜は小さく息を切らせ、鞄からハンカチを出すと、額の汗を拭い、光がするように、背もたれに寄りかかる。
上を見上げると、緑の葉を沢山つけたケヤキの木が、柔らかい風にゆったりと枝を揺らしている。
不意に、光が笑い声を上げ、美夜は光に顔を向けた。
「中西の言葉、思い出した」
「え?言葉?」
「あなたの立ち居振る舞いが証明してる。分からないんですか?可哀想に。そんなんじゃ、一生、誰とも本当に幸せにはなれないでしょうね」
光は、美夜が宏美に浴びせた言葉を、美夜の口調を真似て言った。
美夜は顔を赤くして、自分の手元に視線を落とした。腕に、光が掴んだ手の後が、まだ薄っすらと残っている。
「聞いててすっきりした。……でも、一番嬉しかったのは、里々衣の事を庇ってくれたことかな」
美夜は顔を上げ、光を見た。
光は顎を上げて木々を見上げながら、口角をあげた。
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