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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
3 恋

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94/201

第93話 ケーキ巡業 二軒目

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 二軒目に着くと、二人は先ほどと同じように自分が気になったケーキを注文した。

 店内は混雑しており、空いている席は喫煙席に近い場所だけ。煙の匂いが僅かに漏れており、光は一瞬迷った素振りを見せたが「まぁ、仕方ないか」と、空いている席に着いた。

 窓際の席で注文品が来るのを待っている間、光は頬杖をついてぼんやりと窓の外を見ている。

 美夜はテーブル脇に置いてあったメニューを何の気なしに見ていた。すると、光が「あ」と小さく声を上げた。

 美夜は顔を上げて光を見と、光は微かに険しい顔をして、窓の外を見ている。


「どうしたんですか?」


 美夜は光の目線を追うように窓の外に目を向けた。信号を渡ってくる人の流れの中に、見覚えのある人物が。


「あれ……。あの人……」


 美夜が呟くように言うと、光が「あの女だ」と短く言った。

 美夜は正面を向くと、光は顔を降ろした。

 美夜は目の端で通りを見た。信号を渡ってきた女は、美夜達が居る店に入ってきた。


「コウさん、入ってきました」美夜は囁くように言う。


「無視して」光は口元に手を当てて、目を伏せた。


 店内に入ってきたのは柳原宏美だった。

 美夜が知っている宏美は、清楚な印象があったが、店に入ってきた宏美は真逆の格好をしていた。

 宏美は手を振って、美夜達の居る席に向かってきた。

 美夜は驚いた顔で「なんでこっち来るの?」と囁くと、慌ててメニューを掴み、顔を隠す。

 宏美は美夜達を通り越して、喫煙席に入って行ったが、美夜達の真後ろの席に座った様だ。薄いガラス越し。宏美の声は大きく、美夜の耳に容易に入ってくる。


「ごめんね、抜けるのに時間かかっちゃって」


 宏美は待ち合わせをしていた人物に謝った。声色すら、美夜が知っている宏美とは違う。まるで別人だ。

 そこへ、美夜達の所にウエイトレスがケーキを運んできた。

 宏美はウエイトレスに気がつくと「ちょっと」と声を掛ける。

 美夜達のケーキを置き終えたウエイトレスが喫煙席に入っていく。


「お待たせいたしました」と言い終わらないうちに、宏美は「コーヒー。あと、灰皿持ってきてくれる?」と、偉そうな口調で言った。

 美夜は、何て嫌な奴、と腹の底で怒った。光を見ると、光は黙ってケーキを口に運んでいる。

 美夜は目の前にある自分のケーキに、フォークを乱暴に突き刺した。


「宏美、あんた見合いしたんだって?」 


 宏美の友達は、ねっとり絡みつくような声で、からかうように言う。その声が、美夜の耳に入り込んで来た。

 宏美は煙草に火を付けると、「そうなのよ」と言い捨てる。

「どんな人なの?」好奇心一杯の声は、笑いを含む言い方だ。

 宏美は煙を吐き出すと、見合い相手の話をしだした。


「すっごい上玉。『ハイレリ』の御曹司」


「まじ!?」


 友人は興奮したように声を大きくした。宏美は自慢げに「まじよ」と言うと、鼻で笑い、話を進めた。


「金持ちの息子ってさ、あんまり良い男っていじゃない。でも、かなり良い男よ。でも、私の好みとしては、弟の方なんだけどね」


「弟もいるの?いやあ、私に紹介してよ」


 ねだるように言う友人を宥め、宏美は先を進めた。


「だけどさ、将来、社長婦人になるんだったら、長男と結婚しなきゃだめじゃない。その長男は、子供がいるんだけどね、優しいのよ。あの優しさは使えるわ」


「うわあ、悪そうな顔ぉ」


「うるさいわね。で、その子供がさ、きったない馬鹿なガキなのよ。人が苦労して作った弁当はおじゃんにするわ、懐かないわ。躾けがなってないのよねえ」


「怖いわあ、継母さま!でもさ、あんた、子供嫌いじゃなかった?」


 美夜は身体を動かし、立ち上がろうとした。が、直ぐに光が制した。


「中西」


「でも」


「いいから」


 そう言う光の瞳は、怒りの色を宿している。美夜から目を逸らすと、光は再びケーキを食べはじめた。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] 柳原さん、すごい悪女ですね…!びっくりしました…
2022/12/22 10:03 退会済み
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