表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
3 恋

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/201

第92話 ケーキ巡業 一軒目

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 電車に乗ると、光はドアに寄りかかり、腕を組んで外を眺めていた。

 美夜は黙って光の隣りに立つと、ちらりと光を盗み見る。

 上から二段目までボタンを開けたシャツの下には、くっきりと出た喉仏と、その上に、シルバーのネックレスが見える。

 組んだ腕は、袖を少し捲り、手首にもシルバーアクセサリーが付いていた。

 普段は製造の仕事であることから、アクセサリー類は一切付けていなかったが、普段着ではお洒落が好きなようだ。

 いつもはバンダナをかぶり、取るとボサボサになっている髪は、無造作にセットされ、いつものボサボサ感とは印象が異なる。ふと、襟足を見ると、普段より短く見えた。どうやら髪の毛を切ったようだ。よく見ると、前髪も普段よりも若干短かく、くっきりとした二重瞼が見て取れた。


「今日行くところだけどさ……」


 光は窓の外を眺めながら、ぽつりと言った。

 美夜は我に返り「はい」と返事をする。


「四、五件回るけど、平気?」と、顔を美夜に向けた。


「俺一人の時は、いつも三件くらいで終わらせるんだけど。一軒で二、三個ずつ食ったりする事があるからさ。でも今回、中西居るし、そんなに個数は食べないから、ちょっと多めに回ろうかなって思ってさ。大丈夫?」


「あ、はい。大丈夫です」


「お昼もケーキになるけど」


「はい」


「高カロリーだよ」


「大丈夫です」


「ならいいや」


 そう言うと、光は再び窓の外に顔向けて黙った。

 目的地に着くと、光は一軒目に向かった。地図が既に頭の中に入っているのか、立ち止まる事なく、すたすたと歩く。美夜は置いて行かれないように、必死に着いて歩いた。

「今から行くところはね」と、光は隣を見た。  

 しかし、美夜が居ないことに気が付き、後ろを振り向く。美夜は必死に光に着いてきていた。光は、しまった、と心の中で呟くと、歩く速度を緩めた。

 今までも、付き合っていた女性をこうやって置いてけぼりにした事があり、何度も怒られた経験がある。気を付けてはいても、女性に合わせて歩くのは、時々焦ったくなる。でも、それではダメだと、何度も栄や百合に言われて来た。そう言えば、朝、栄に「歩く速度に気を付けろよ」と言われたな、と光はひとり心の中で反省をする。

 美夜が軽く息を弾ませ、光の隣りに並んだ。光は美夜が隣りに並んだことを確認すると、美夜の歩調に合わせ、話しを始めた。


「もうすぐ着くんだけど、今から行くところはタルトが評判なんだ」


「コウさんは、ケーキ屋さんに入るとき、ここのケーキ屋ではこれを食べるって決めていくんですか?」


「いや、特別決めないけど。そこに行って、ショーケース見て、旨そうだなと思ったものを、いくつか食べる。もし、ショーケースが無かったら、メニュー見て、その時に食べたいなと思ったものを選ぶ」


 美夜は「そうなんですか」と相槌を打った。

 二人は店に入ると、お互い自分が食べたいと思ったものを二つずつ選んだ。

 飲み物は頼まず、運ばれた水を飲み、黙ってケーキを食べる。

 光は、一見、いつもと変わらない無表情で食べているようだったが、瞳が鋭いことに美夜は気が付いていた。

 美夜も自分の前にあるケーキを食べ進めたが、何か物足りなさを感じていた。きっと、光もそうなのかも知れない、いや、あの鋭い目つきは、ケーキ自体が気に入らないのかも知れないと、美夜は勝手に分析をしていた。


 食べ終わると、さっさと店を出る。店を出て暫く歩くと、光は立ち止まりメモ帳を取り出した。光はメモを取りながら、「中西はどう思った?さっきのタルト」と訊ねる。

 美夜は先ほど口にしたイチゴタルトとブルーベリータルトを思い出した。

「ブルーベリーの味が分からなかったです。名前はブルーベリータルトなのに、ブラックベリーとかカシスも入っていて。カシスの味が濃いので、なんだか騙された感じ。全体的に薄味で、淡泊な印象がありました。カスタードも甘さ控えめすぎだし、量も少なくて、かえって中途半端な感じでした。イチゴタルトは、うちの店の方が断然、美味しいです」


 そう言い切ると、光は小さく、ふっと笑った。


「そうか。ブルーベリーは元々味が薄くて繊細だから、なかなか難しいんだよ。確かに、名前がブルーベリータルトなのに、違うベリーが入っているなら、ブルーベリー好きにはがっかりかもな。カスタードは、素材の味を大事にするという意味で、甘さ控えめなのかも知れないけど、だったら同じブルーベリーのジャムを薄く塗るとか、対処法はいくらでもある」


「コウさんが食べたモンブランとフロマージュは、どうでしたか?」


「モンブラン、あれは駄目だね。酒が効きすぎてる。パルフュメの域を超えてるよ。大人が食べるために作ったんだとしても、あれはやり過ぎ。フロマージュは、あの値段にしては、ちょっとなぁ。よく言えば家庭的な味ってとこかな」


 光はメモを仕舞い、次の目的地に向かった。


「次は、どんなお店なんですか?」


「次行くところは、何ヶ月か前に出来た所なんだけど……」と、光は店の説明をはじめた。

 ふと、美夜は光が歩く速度を遅くしていることに気が付いた。

 そういえば、一軒目に向かう途中から、光は自分の隣を歩いていた、と気が付くと、美夜はそっと微笑み、光の優しさに感謝した。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


「続きが気になる」という方はブックマークや☆など今後の励みになりますので、応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ