第91話 デート?
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「みーやー。起きなよ。今日はコウと食べ歩き行くんでしょう?」
美月は美夜の部屋のドアを開けると、歯ブラシを咥えたまま、大きな声で言った。
その声に美夜は目をぱっちりと開けて「そうだった!」と慌てて飛び起きる。
「今何時?」
「今、十時過ぎ」
美月は腕時計を見ながら答える。
「バスの時間は……あと二十分……」
美夜は慌ただしく部屋中を歩き回った。十一時に駅中にあるコンビニ前で待ち合わせ予定。バス亭までと、バスで駅まで行く時間を省くと、服を選んでる時間はない。美夜は慌ててクローゼットを開け、目についた服を掴んだ。
「私、仕事でもう家出るから。美夜は玄関の鍵だけ閉めてね。ガス栓も、周りの窓の鍵も閉めたから」
歯を磨き終え、鞄を背負った美月が、玄関から声を掛ける。美夜は大きな声で「ありがとう!」と返した。
「今日は夕方には帰るから。行ってきます」
美夜は自室から顔を出して「気をつけてね」と声を掛けると、自転車を担いだ美月が振り返り、にっこり微笑んで家を出て行った。
美夜は急いで洗面所へ行き顔を洗い、長い髪を頭の上で団子状に纏め、手近にあった花をモチーフにしたピンで手際よく留めた。栄から貰ったピアスを付け、歯を磨き、化粧を簡単に済ませ、自室に戻って鞄を掴んだ。
「財布ある、お金……ある。スマホある。ハンカチ、ティッシュOK」
そう言うと、玄関へ向かい目に入った靴を履く。玄関の鍵を閉め、階段を駆け下り、バス停まで走った。
何とか待ち合わせ五分前に駅に着くと、駅構内にあるコンビニに向かった。
美夜はすぐに光を見つける事が出来た。
光を見つけるのは簡単だったからだ。そこだけ光を放っているように、違う空気を纏っている。遠巻きで、女子高校生達が光をちらちら見ては、はしゃいでいた。
最近、普通に会話をし、意見を言い合っているせいか、はたまた、光の美しさに目が慣れてしまっていたのか、今更ながら、光が人の目を惹きつける魅力のある人物だと言うことを、すっかり忘れていた。それを今、美夜は再認識した。
光は、黒の長袖シャツを着て、ダークグリーンのカーゴパンツを履いている。カーキと黒のストライプのボディバッグ、黒い靴を履き、遠目からではよく見えないが、どうやらシルバーアクセサリーも付けているように見える。
よく考えると、私服を着ている光をまともに見るのは初めてだ。美夜は思わず立ち止まって、自分の服装を確認した。
茶色のショルダーバック、緑色の生地に小さな花柄がプリントされている七分丈チュニック、オフホワイトの七分丈のパンツ、先の尖った踵の低い白い靴を履いていた。アクセサリーと言ったら、栄から貰った緑色の硝子飾りが付いたピアスぐらいだ。
こんな格好で良かっただろうか、と一瞬不安になる。グリーン繋がりで被った事に少し恥ずかしくも思ったが、すぐに頭を振った。これではまるでデート気分だ。そうじゃない、仕事なんだ、と自分に言い聞かせた。
「だいたい、私はハルさんが好きなんだし……」
口の中でそう呟くと、ただそれだけで、心臓がどくりと大きく跳ねる。
美夜は胸に手を当て、小さく深呼吸をすると、光に駆け寄った。
「おはようございます。すみません、遅くなってしまって」
光はぼんやりしていたらしく、美夜が声を掛けると微かに驚いた顔をして美夜を見下ろした。何度か瞬きを繰り返し、ワンテンポ遅れて「……おはよ」と応え、徐に切符売り場へ歩き出す。
ゆったりした歩きなのだが、歩幅が大きく、美夜は早足で光に着いていった。後ろから見ると、光はコック服を着ているときよりも足が長く見える。
身長も高かったが、同じ身長の人よりも足は長いのではないだろうかと、美夜は思った。
光に追いつくと「どこまでですか?」と、財布を出しながら訊いた。
光は「いいよ。一緒に買うから」と言い、購入した切符を一枚、美夜に手渡す。
「ありがとうございます」
「経費で落ちるから」
そう言うと、再び長い足を動かし改札口へ向かった。
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