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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
3 恋

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91/201

第90話 恋する乙女

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 喫茶の客が切れた合間に、栄と雪はカウンター内の掃除をしていた。


「ああ、そうそう。明日、コウが美夜ちゃんとデートするんですよ」


 ふと思い出したように、栄は嬉しそうに雪に言った。

 雪は何やら面白い話しが聞けるようだと分かると、顔を綻ばせ、栄の側に近寄る。


「え、うそ!?どこに、どこに?」


「どこかはまだ分かりませんけど。ほら、コウ恒例のケーキ巡業の旅。あれに一緒に行くらしいですよ。ただ、水曜はケーキ屋が休みの所が多いから、どこに行くかって、昨日ぶつくさ言ってましたけどね。端から見てると、もうデートプランを一生懸命練る好青年って感じですよ」


 栄は雪に合わせてこそこそと話しをする。

 雪は「へえ」と言いながら、栄から離れると、元の位置に戻りグラスを拭いた。


「でも、何か意外だなあ」


「え?何がです?」


 栄はカプチーノを作る機械を外し、雪に顔を向けた。


「私、彼女はハル君が好きなんじゃないかなって思ってたんだよねえ」と言うと、ニヤリと笑って栄を見る。

 栄は笑いながら「まさか」と言い、手を休める事なく機械を洗う。


「いや、そうだと思うよ」


「何でですか?」


「だって、最近のあの子、ずっとハル君のこと目で追ってた感じだし。その時の表情がね、乙女だったのよ。乙女」


「乙女って……」栄は苦笑した。


「こうさ、うっとりって言うの?幸せそうな表情してね。可愛かったわ」


 雪は両手を胸の前で組み、乙女のようにうっとりした顔をして見せた。


「そうですかねえ」栄は一向に信じない様子で笑う。


「そうだって。女の感よ、女の感。あれは絶対、ハル君に恋した瞳よ」


「でも、八歳も歳離れてますよ?」苦笑したまま、雪を振り向く。


 雪は、ふと真剣な顔をして「恋に年齢は関係ないわ」と、人差し指を立てた。

 名言でも言ってやったと言わんばかりの雪の表情に、栄は思わず吹き出して「そうですか」と答えた。


「だったら、うれしいですね。若い子にモテるに分には大いに結構な事ですよ」と、冗談めかして返すと。


「でもね、ハル君」


 雪は突然声を落とした。雰囲気が変わったと思い、栄は手を止めて雪に顔を向ける。


「もし、本当に彼女があなたに本気だったら、あなた、どうする?」


 栄は雪の顔をじっと見つめた。冗談ではなく、本気の顔だ。栄は雪から目を逸らし、戸惑ったように店内を見回した。


「あなたにその気がないなら、接し方に少し気をつけた方が良いわ。予防線を張るとか……。あの年頃の女の子は、ちょっとした事で一喜一憂するの。あなたがちょっと微笑んだり、頭撫でたり……。あなたは、彼女を妹のように思って接してるかも知れない。あなたにとって何でも無い事でも、恋してる女の子には、全てが特別なのよ」


 雪が言いたい事は、分からない訳ではなかった。自分が初恋をした時がそうだった。好きな女の子が微笑んでくれただけで、その日、一日が幸せだった。話が出来た日なんかは、その日の夜まで、頭の中で会話した内容を繰り返し、喜んだ。

 栄は手元の布巾を畳むと、「そうですね」と小さな声で頷く。


「わかりました。気をつけます。ありがとう、雪さん」


 栄は困ったような、どこか悲しげな表情で微笑んだ。雪は頭を横に振り「私こそ、余計なお世話かも知れないけど……」と謝った。




 光は厨房の入り口でぼんやり立っていた。

 手に持った、店に出す補充分の焼き菓子をじっと見つめ、店に入るのを止めた。

 作業台の上に焼き菓子を置くと、厨房の窓から見える空を、ぼんやりと見上げる。

 雪の声が、耳の奥で響く。


『彼女はハル君が好きなんじゃないかなって思ってたんだよねえ』


 それなら、最近様子がおかしかったのも、納得が出来た。

 栄が厨房に顔を出す度、何か慌てた感じだったし、栄がいつもの調子で頭を撫でると、その後は必ずどこか上の空で、話しを聞いていない事があった。


「そっか……そういう事か……」


 光は小さく呟くと、仕事に戻った。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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