第89話 墓参り
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翌朝、栄と光は里々衣を連れて、霊園に来ていた。
百合の墓を綺麗にすると、花を生け、三人並んで線香を立てる。
「はい。里々衣、ママにちゃんとご挨拶して」
栄は里々衣を自分の横に座らせると、手を合わせて目を瞑る。
里々衣は栄を見上げ、同じように手を合わせ、目を閉じた。
「里々衣ももうすぐ六歳だよ。こんなに大きくなりました」
「げんきです」
隣から可愛らしい声が聞こえ、栄は目を少し開く。隣の愛娘をチラリと見やり、小さく微笑む。
年齢の割には平均より背が低く、しゃがむとちんまりして見える。言葉も遅い方だったのもあり、まだ辿々しい話し方ではあるが、誰よりも人を思い遣る心が、この子にはある。
栄は、まだ目を瞑り手を合わせる里々衣を見つめながら、心の中で『俺にしては、子育て成功してると思わないか?百合』と、語り掛けた。返事は無いが、きっと同意してくれているはずだ。そう思いながら、ゆっくりと立ち上がり、空を見上げた。
予報では雨が降ると言っていたが、百合が晴れにしたのか、雨など降りそうにない、よく晴れた良い天気だ。
里々衣が立ち上がり、入れ替わるように光が手を合わせた。随分と長いこと手を合わせ、何かを報告しているようだった。
光が顔を上げ立ち上がると「何を報告してたんだ?」と栄は訊いた。
「まあ、いろいろ。店に来た新しい従業員が、最近集中力が無くて困る、とか」
「え?そうなのか?」
栄は少し意外そうな顔をして光を見る。
光は桶を持ち上げると「なんかね」と言い、話を続けた。
「ここ最近ね。良く分かんないけど。あ、でね、来週、ケーキ食べ歩きツアーに連れて行く事にした」
「またすごい量、食べてくる気か?」
栄は心なしか眉間に皺を寄せる。
「いや、中西が一緒なら、そんなに食わなくて済むんじゃないかな。まあ、俺一人で行くときと、請求金額はあんまり変わらないと思うけど」と、光は楽しげに笑う。
「まあ、良いんだけど……。そうか。でも、確かに、美夜ちゃん、最近なんか元気がないかなって感じはあったな」
「うん」
「まあ、二人でデートでもすれば、少しは気が晴れるかもな。いいなあ、若者は」
栄は光の肩をぽんぽん叩いて嬉しそうに笑った。
その言葉に光は目を見開いて「デートって……」と、口籠もったが、すぐに「ハル兄、オヤジになったな」と哀れむ表情をして栄を見つめた。
栄が「なにを!」と言うと、里々衣が可愛い声で「おやじ」と笑いながら言う。
「あ、こら!里々衣。そんな汚い言葉使ったらだめだろ。ほら、ママに謝って。汚い言葉使ってごめんなさいって」
光は声を上げて大笑いし、栄は里々衣と共に再度、百合の墓の前で手を合わせた。
どこからともなく心地の良い風が吹き、まるで百合が笑ったように感じた。
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