第79話 里々衣の涙
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里々衣の態度に宏美はショックを受けた様子で「嫌いなものだったかしら……」と悲しげに俯いたが、すぐに気持ちを立て直し「何が好き?」と、優しく訊ねる。
栄は里々衣の顔を覗き込むように頭を下げ、「どうした?」と優しく囁く。
「りりー、コウちゃんのオムライスがいい」
里々衣は泣き出しそうな、しかしどこか怒った様な口調で栄に言った。
栄は弱り切った表情で、里々衣の頭を撫でる。
「今日じゃなくても食べられるだろ?ほら、里々衣の好きなタコさんウインナーがある」
と、自分に渡された皿を差し出したが、里々衣はその皿を払いのけた。皿に乗った食べ物が地面に散乱する。栄は思わず「里々衣!」と強い声を向けた。
里々衣は身体をビクリと動かし、一瞬、栄を見上げる。その瞳は、驚きと悲しみが混ざった、栄が今まで見た事のない表情だった。栄は、「しまった」と心の奥で思ったが、里々衣は何も言わずに立ち上がり、靴も履かずに走り出した。
「里々衣!待ちなさい!」
すぐに追いかけようと立ち上がると、美月が素早く栄の腕を取った。
「私が行く」
「でも……」困惑顔で美月を見る。
「今のあんたが行っても、里々衣は泣き出すだけだよ。いいから、私に任せてよ」
そう言うと、美月は靴を履き、里々衣を追いかけた。
残された三人は気まずい雰囲気の中、愛想笑いとも何とも言えない表情で互いを見た。
「すみません、せっかくの弁当を」
栄が小さな声で言う。
宏美は「いいんですよ。弟さんと約束だったんでしょう?」と、笑顔でこたえる。美夜は、その笑顔に何故か胸の奥がギュッと握り込まれたような、そんな気がして宏美から目を逸らした。
「ええ、まあ」と、栄は俯いたまま答えると、宏美は「私の方こそ、ごめんなさいね」と言い、そっと栄の手を取る。
それを見て、美夜は二人から目を逸らし、無言で弁当を食べ始めた。
*******
暫く走ると、里々衣は栄達からは死角になるベンチに座っていた。
丸まった背中が、小さい身体を益々小さく見せる。美月は、ほっとしたよう息を吐くと、自然と頬が綻んだ。
「りーりい」
呼び声に、里々衣は身体を大きく揺らし素早く顔を上げた。その顔は口を一文字にし、真っ赤な顔で涙を流している。
美月は隣りに座ると、靴下を履いた里々衣の汚れた足を見た。
「里々衣、どうしたの?いつもの里々衣らしくないじゃん」
里々衣の足に付いた砂埃を軽く叩く。ジーンズのポケットからハンカチを出し、里々衣を膝に抱きかかえ、涙を拭ってやる。
里々衣はしゃっくりを繰り返しながら、美月に抱きつき、大きな声で泣きはじめた。美月は里々衣の小さな背中を優しく叩いて宥める。瞬く間に服が湿っていくのが分かる。それだけ大粒の涙を流しているのだ。
暫くして泣き声がおさまり「パパ、おこってる……」と、小さな声が美月の耳をくすぐる。
美月は首を横に振り「大丈夫、怒ってないよ」と、優しい声色で返事をした。
「なんで、あんな事したの?」
美月は里々衣をベンチに降ろすと、顔を覗き込むようにして訊いた。里々衣は、頬に幾筋もの涙の後を残し、俯く。
「もう、行こう?みんな待ってるよ」
「いきたくない!」
「どうして?」
里々衣は再び泣きそうな顔をしたが、堪えながら答えた。
「りりー、あのひと、きらい」
その言葉に、美月は目を見開いて驚いた。
「パパだって、あのひとのこと、きらいだよ」
「……どうして、そう思うの?」
「パパ、わらってないもん」
「里々衣……」
その言葉に、美月もどこか納得をした様に悲しげな表情で頷いた。
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