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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
3 恋

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第79話 里々衣の涙

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 里々衣の態度に宏美はショックを受けた様子で「嫌いなものだったかしら……」と悲しげに俯いたが、すぐに気持ちを立て直し「何が好き?」と、優しく訊ねる。


 栄は里々衣の顔を覗き込むように頭を下げ、「どうした?」と優しく囁く。


「りりー、コウちゃんのオムライスがいい」


 里々衣は泣き出しそうな、しかしどこか怒った様な口調で栄に言った。


 栄は弱り切った表情で、里々衣の頭を撫でる。


 「今日じゃなくても食べられるだろ?ほら、里々衣の好きなタコさんウインナーがある」


 と、自分に渡された皿を差し出したが、里々衣はその皿を払いのけた。皿に乗った食べ物が地面に散乱する。栄は思わず「里々衣!」と強い声を向けた。

 里々衣は身体をビクリと動かし、一瞬、栄を見上げる。その瞳は、驚きと悲しみが混ざった、栄が今まで見た事のない表情だった。栄は、「しまった」と心の奥で思ったが、里々衣は何も言わずに立ち上がり、靴も履かずに走り出した。


「里々衣!待ちなさい!」


 すぐに追いかけようと立ち上がると、美月が素早く栄の腕を取った。


「私が行く」


「でも……」困惑顔で美月を見る。


「今のあんたが行っても、里々衣は泣き出すだけだよ。いいから、私に任せてよ」


 そう言うと、美月は靴を履き、里々衣を追いかけた。

 残された三人は気まずい雰囲気の中、愛想笑いとも何とも言えない表情で互いを見た。


「すみません、せっかくの弁当を」


 栄が小さな声で言う。

 宏美は「いいんですよ。弟さんと約束だったんでしょう?」と、笑顔でこたえる。美夜は、その笑顔に何故か胸の奥がギュッと握り込まれたような、そんな気がして宏美から目を逸らした。


「ええ、まあ」と、栄は俯いたまま答えると、宏美は「私の方こそ、ごめんなさいね」と言い、そっと栄の手を取る。

 それを見て、美夜は二人から目を逸らし、無言で弁当を食べ始めた。



*******



 暫く走ると、里々衣は栄達からは死角になるベンチに座っていた。

 丸まった背中が、小さい身体を益々小さく見せる。美月は、ほっとしたよう息を吐くと、自然と頬が綻んだ。


「りーりい」


 呼び声に、里々衣は身体を大きく揺らし素早く顔を上げた。その顔は口を一文字にし、真っ赤な顔で涙を流している。

 美月は隣りに座ると、靴下を履いた里々衣の汚れた足を見た。


「里々衣、どうしたの?いつもの里々衣らしくないじゃん」


 里々衣の足に付いた砂埃を軽く叩く。ジーンズのポケットからハンカチを出し、里々衣を膝に抱きかかえ、涙を拭ってやる。

 里々衣はしゃっくりを繰り返しながら、美月に抱きつき、大きな声で泣きはじめた。美月は里々衣の小さな背中を優しく叩いて宥める。瞬く間に服が湿っていくのが分かる。それだけ大粒の涙を流しているのだ。


 暫くして泣き声がおさまり「パパ、おこってる……」と、小さな声が美月の耳をくすぐる。


 美月は首を横に振り「大丈夫、怒ってないよ」と、優しい声色で返事をした。


「なんで、あんな事したの?」


 美月は里々衣をベンチに降ろすと、顔を覗き込むようにして訊いた。里々衣は、頬に幾筋もの涙の後を残し、俯く。


「もう、行こう?みんな待ってるよ」


「いきたくない!」


「どうして?」


 里々衣は再び泣きそうな顔をしたが、堪えながら答えた。


「りりー、あのひと、きらい」


 その言葉に、美月は目を見開いて驚いた。


「パパだって、あのひとのこと、きらいだよ」


「……どうして、そう思うの?」


「パパ、わらってないもん」


「里々衣……」


 その言葉に、美月もどこか納得をした様に悲しげな表情で頷いた。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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