第78話 不自然なピクニック
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女性は、手入れの行き届いたパーマのかかった長い髪を軽く払うと、美夜と美月に向かってにっこりと微笑み、会釈をした。
美夜と美月も小さく頭を傾け、「こんにちは」と挨拶をする。
美夜は、自分の頭の先から徐々に血の気が引いていくのを感じていた。
栄の見合い相手だ。
と、直ぐに分かった。
商店街の祭り最終日、美夜は雪から栄の見合いについて聞いていた。雪は嬉しそうに話をしており、美夜はさほど動揺せず、その話を聞いていたのを覚えている。しかし、気になってはいた。相手はどんな人なのか、栄はその人と付き合うのか。想いに蓋をしたとはいえ、気になるものは仕方がない。
見合いの翌日、栄はいつもと変わらない様子で出社していたのもあり、見合いについて触れる事なく過ごしていた。
美夜自身は気になって仕方がなかったが、自分は見合いについて知らない事になっていたし、当人がいつも通りなのに「何かありました?」と訊くのもおかしいと思い、何も訊かずにいたのだ。
「栄さんの、お友達?」
女性は栄の腕に触れ、寄り添うように立つ。
栄はさりげなく女性の手を避けて、「ええ、うちの従業員です。中西美夜さん。こちらは、美夜さんの双子のお姉さんで美月さんです」と、二人を紹介した。
女性は「まあ、そうでしたの」と言うと、大人の微笑みで「栄さんと交際させていただいてます、柳原宏美です」と自己紹介をした。
栄が慌てて訂正しようとすると、「そうだ!」と宏美が大きな声を上げ、栄の言葉を制した。
「お二人も、ご一緒にお弁当食べません?沢山作ってきたんですよ」
そう言うと「ねえ、栄さん、よろしいでしょう?」と栄の顔を覗き込むように、小首を傾げて訊く。
栄は「ええ」と引き攣った笑顔を作り、宏美から視線を逸らした。
何とも言えない栄の顔を見て、美夜と美月は顔を見合わせると、再び栄を見上げた。
宏美が里々衣を呼びに行った隙に、栄は二人に手を合わせ「頼む、何も訊かないで同席してくれないか?」と早口で囁いた。
二人が返事をしようと口を開けかけた瞬間、美月の足下に里々衣が駆けよってきて、返事をする間も無く話はそこで終わった。
「みじゅちゃんとみゃあちゃんだ!」
美月はしゃがみ込むと、「ほっ」と太い声を出し、里々衣を抱きかかえて立ち上がる。
「久しぶりだね、里々衣。元気してた?」
「げんきしてた!」
「そりゃあ、良かった」
美月と里々衣が笑い合っている姿を見た宏美は「とっても懐いてらして。仲良しなんですね」と、どこかショックを受けたような微笑みを浮かべている。
美月は宏美に微笑み返し、「大事な友達ですから。里々衣は」と答えた。
「まあ、微笑ましいこと」
宏美は声を立てて笑った。
五人はレジャーシートを敷くと、宏美が作ってきた弁当を広げ、「お口に合うと良いけど」と笑みを浮かべながら蓋を開ける。
「うわ、すっごいですね。これ、全部一人で作ったんですか?」
美月は三段重ねになったお重の中身を見て、驚きの声を上げた。華やかで、手の込んだ料理の数々。
「ええ。今日は朝早くに目が覚めてしまって。外を見たら絶好のピクニック日和でしょう。もう、お弁当作るしかない!って思って、張り切って作ったのよ。沢山あるから、遠慮しないで食べて下さいね」
宏美は終始笑顔を絶やさず答えながら、隣りに座る栄に、自分が取り分けた皿を手渡した。栄は力の無い笑みで皿を受け取る。
美月は、そんな栄の顔を一瞥すると、眉間に皺を寄せ小さく首を傾げた。
「はい、りりいちゃんの分」
宏美が栄の隣りに座る里々衣に手渡そうとした。しかし、里々衣は皿を受け取らずに、むすっとした顔のまま首を横に振り、栄の腕にしがみ付き、泣き出しそうな顔をした。
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