第73話 祭りのあと
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四時を回ると、ゼリーは全て完売。
「なんだか、少し足りなかったか?」
栄が言うと、光は「こんなもんでしょう」と片付けをしながら答える。
「でも、まあ、明日はワインゼリーを少なくしようか。メロンムースは多くしますよ」
光はチラリと美夜を見やると、分かりやすく愛想笑いを通り越して、苦笑いをした。
「コウさん、今から作るんですか?」
美夜は店終いをしながら訊く。
「うん。どのくらい作ったらいいか分からなかったから、ストックは無いんだ。これから帰って準備する」
「手伝わせてもらっても良いですか?」
その言葉に光は手を止め、じとりとした目で美夜を見た。
「なに?さぼるつもりだったの?当然でしょう。来て下さい」
そう言うと、再び手を動かす。
美夜は、最近色々な表情を見せてくれる光に何故か嬉しくなり、吹き出して笑ってしまった。
「なに?」じろりと見て来る光に、美夜は嬉しそうな顔で「いえいえ、はい、行きます。お手伝いさせてください」と返事をすると、光は満足そうに頷いた。
周りを掃除しながら、ワインゼリーのフルーツをどうやって沈殿させずに作ったのかなど、質問をすると、光は「ああ、あれは簡単だよ、手間はかかるけど……」と答えながら、生き生きとした表情で話し始めた。スイーツ作りの話になると饒舌になる光を、美夜は眩しそうに目を細め頷きながら見つめる。
美月は、そんな二人を遠巻きから微笑ましく眺めていた。
「楽しそうだよね」
美月は身体をびくつかせ、横を向く。
いつの間にか隣りに栄が立っていた。
栄は穏やかな笑みを浮かべ、嬉しそうに二人を眺めている。
「コウって、ああいう表情するんだね」と美月が言うと、栄は横目で美月を見て「知らなかった?」と言い、微笑む。
「いいでしょう?うちの弟。可愛いよね」
「なに?ブラコン?」
美月は怪訝そうな顔で栄を見上げる。栄はその言葉に「そうですけど、何か?」と、妙に自慢げに言った。
美月はその態度と栄の顔つきに吹き出した。栄はそっと微笑み、「さあ、もう少し綺麗にするの手伝って」と、美月の頭を軽くポンポンと軽く叩く。美月は素直に頷き、栄と共に荷物を纏める作業を手伝った。
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祭りも終わり、連休最後の日。
栄は朝から憂鬱で堪らなかった。出来れば、このままどこか遠くに逃げ出したい気分でいた。
「ハル兄、急がないと遅れるよ」
洗面台でぼんやりと歯を磨いている栄に、光が声を掛けた。栄は歯ブラシを咥えたまま「ああ」と返事をすると、溜め息をつきながらコップに水を入れ、うがいをする。
栄は洗面所から出ると、「里々衣、支度できてるか?」と大声で言う。リビングの方から光と里々衣の「もう出来てる」という返事が聞こえた。
おめかしをして、父親と二人で出かけられる事が余程嬉しいのか、里々衣は朝から御機嫌だ。
「じゃあ、行ってくるよ」
栄は里々衣に靴を履かせ立ち上がると、振り向いて光を見た。
「気をつけて行ってらっしゃい。あんまり愛想振りまくなよ?」
光は心なしか意地悪く言う。栄は嫌そうな顔をしながら「分かってるよ」と返事を返すと、玄関のドアを開け出で行った。
光は軽く息を吐き出し、両腕を上げて大欠伸をすると、もうひと眠りしようと、自室へ戻っていった。
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ミステリー系ヒューマンドラマ
『Memory lane 記憶の旅』完結しました!
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