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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
3 恋

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66/201

第65話 恋雨

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 車に乗り込むと、栄はゆっくりと車を走らせた。


「雨がひどくなってきたね。この中、歩いて帰ってたら完全に悪化してる」 


 栄は顔を前に向けたまま言った。

 美夜は栄の横顔をちらりと見る。筋の通った高い鼻、きゅっと結んだ薄い唇。耳にかかる少し濡れた柔らかい髪。


「ご迷惑かけて、すみません……」


 美夜の消え入りそうな囁き声は、栄の耳にちゃんと届いていた。

 栄は横目で美夜を一瞥すると、口角を持ち上げ「気にしなくて良いよ」と返す。

 その艶のある優しい声色に、鼓動が早くなる。美夜はその鼓動を、なるべく気にしない様にと、顔を前に向け、雨に濡れる窓硝子をじっと見つめた。カーステレオから僅かに流れる洋楽。美夜は、何を歌っているのか分からなかったが、何故だか恋愛について歌っている気がした。それも、今の自分に重なる様な片想いの詩。切ない女性ボーカルの声に、もう少し聴いていたい気持ちになる。しかし、あっと言う間にアパートの前に到着してしまった。


「ここで良いかな?」


「はい、大丈夫です。すみません、ありがとうございました」


 美夜は栄に礼を言い、車を降りた。

 小走りで雨の当たらない場所へ行くと、振り向いて栄の車を見る。


「ありがとうございました」と再度、頭を下げると、栄は窓を開けて声を上げた。


「いいから、早く部屋に入って。また木曜日に!お大事に!」


 そう言うと、にっこりと微笑んで片手を振る。美夜は慌てて小さく手を振り、会釈をすると、栄は車をUターンさせ店に戻って行った。

 美夜は車が見えなくなるまで見送り、アパートの中に入っていった。


 自室に入ると、ベッドの上にうつ伏せに倒れ込んだ。暫くして、仰向けに寝転がる。そっと、栄の腕が当たった自分の腕に触れた。

 目を閉じると、栄の顔が浮かんでくる。心配そうに美夜を見る顔、美夜を真似てショーケースの前で柏手を打った栄、車を運転する栄。

 美夜は身を横にし丸くなり、栄を想ったまま意識は眠りの入り口のドアを開けた。


 




最後まで読んで頂き、ありがとうございます!



同時進行でミステリー系ヒューマンドラマ

『Memory lane 記憶の旅』更新中!

https://book1.adouzi.eu.org/n7278hv/



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