第57話 イチゴのショートケーキ
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テーブルで待っていた一同は、綺麗に飾られたプレートを見て「おお」と声を上げた。
全員が席に着くと、各々ケーキを食べ始める。
イチゴのショートケーキは、Lisでは注文がない限り作っていないのだ。
美夜はLisに勤めてから初めて食べるショートケーキを前に、胸が高鳴った。
フォークを差し込むと、ふわふわのスポンジに、すっと滑り込む。極めの細かい真っ白な生クリームと一緒に口へ運ぶ。
スポンジの程よい弾力と、嫌味のないミルクの味がほんのりする生クリーム。口の中に残る生クリームの油分が殆ど気にならない、すっきりとした味だ。
美夜は何も言わず、鼻からゆっくりと息を吐き出した。幸せそうな顔で食べる美夜を、光は目の端で見ると、小さく笑みを浮かべた。
「これ、すごく美味しい……」
美月はショートケーキをじっと見つめ、呟くように言う。
「そんなに甘くないし、クリームもくどくないし。私ね、実はあんまりショートケーキって得意じゃなかったんだ。生クリームのくどさっていうのかな。でも、これは好き。これなら食べられる。なんか、すごい嬉しいよ。ありがとう、シェフ」
美月は目の前に座る光に、零れるほどの笑顔を見せた。
光は美月に微笑み返すと「コウでいいよ」と返す。
美月は頷くと「ありがとう、コウ」と、親しみを込めて名前を呼んだ。
光はゆっくり顎を引く。柔らかく微笑む光の微笑みに、美夜と美月は一瞬目を奪われたかの様に、見つめ固まる。
「な、なに?」
光が戸惑いながら二人を交互に見ると、二人は顔を合わせ、笑い合った。
ケーキを食べ終わり、雪がプレゼントを差し出して来た。
「気に入ってもらえると良いんだけど」
そう言って、美夜と美月にそれぞれ渡す。
「ありがとうございます」
美夜は包みを受け取ると、大事そうに抱えた。
「私にも?雪さん、ありがとう」
美月は驚きながらも、嬉しそうな顔を見せる。
「よかったら、開けてみてよ」
雪に促され、二人は包みを開けた。中には色違いのスリッパが入っていた。
白い生地にベージュで描かれた花の絵。赤が差し色に入っているものと、青が差し色に入っているものだ。
美夜が赤で、美月が青のスリッパ。それぞれ雪に礼を言うと、次は栄が小さな包みを差し出してきた。
「気に入ってくれると嬉しいな」
と言いながら差し出された包みの中身は、ピアスだった。
雫の形をモチーフにしたガラス細工がぶら下がっている繊細な作りの物だ。
美夜には緑、美月には青の揃いのピアス。
「かわいい……。ありがとうございます。大切にします」
美夜は顔を赤くして喜んだ。
「綺麗な色……。ありがとう、髭もじゃ」
美月は、初めて栄に親しげな笑顔を見せた。
栄は、初めてまともに見る美月の笑顔に一瞬戸惑ったが、すぐに「もう髭もじゃではありません」と拗ねるように言い返す。
美月は声を立てて笑いながら「ありがとう、ハル」と、楽しげに言うと「呼び捨てかよ!」と言った栄の声は、みんなの笑い声の中に虚しく消えた。
「俺からはケーキって事で」
光が腕を組み、静かに言う。
美夜と美月は同じ笑顔で「美味しかった、ありがとうございました」と声を揃えた。
「おお、シンクロ……」
と、栄と雪は妙に感動していた。
楽しい時間はあっという間に過ぎて行き、里々衣がうとうとし始め、雪がおんぶをして外に出て行った。
光と美夜、勝俊は厨房で洗い物をし、栄と美月は店内の掃除をした。
「ねえ、ハル」
美月は声を落として栄を呼ぶ。
栄は間延びした返事をしながら、モビールを壁から剥がしていた。
「今日、あんたの奥さん来なかったけど、どうしたの?」
美月は机を移動させながら訊いた。
栄はぴくりと身体を動かし、動きを止める。
それに気がついた美月は「どうかした?」と動きを止め、栄の背中を見つめた。
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