第56話 温かな時間
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「そう言えば、栄さんっておいくつなんですか?よく考えたら、私みなさんの歳、知らない……」
美夜は一人ひとりの顔を見回した。
「俺はこう見えて二十九」
栄は「こう見えて」と強調して言った。
「今年三十って、何で言わないんだよ」
光はチキンを食べながら言う。
「こら、そこ!まだまだまだ、先の話ですから!」
と、すかさず栄は光に注意すると、美夜は「へえ、三十歳なんですかあ」と、何に感心したのか、何度も頷いた。
「俺は今年二十五になった」
光はナプキンで口を拭き、ポツリと言う。
「若いな、シェフは」
美月は「シェフは」と強調して言った。
「なにこれ、俺を苛める会になってない?」
美夜は「そんなことありませんよ」と、困ったように微笑み、隣りに座る栄の肩を優しく叩いた。
栄は涙を拭うような仕草をし、美夜を見ると、
「ありがとう。優しいね、美夜ちゃんは」
と、泣き真似をしながら言った。
「私は今年で三十ん歳です」と、雪は「ん」と力を入れて言う。
美夜達が笑いながら「雪さん、若いですよ」と返すと、雪はまんざらでもない顔で「そおう?」と頬を綻ばせた。
「俺だって若いのに」と栄がぽつりとぼやくと、それを聞いた美月が「そうだね」と棒読みで返す。
栄が恨めしい顔つきで美月に目を遣ると、美月はにやりと微笑み「髭がない方が、若返って見えるよ」と言った。
栄は顎に手を当て、「そうか。髭なしの方がやはり良いのか……」と一人でぶつぶつと言いなが、顎を撫でる。
「パパ、おひげ、へんだったよ」
止めを刺す様な一言が、里々衣の口から放たれると、一同は声を上げて笑い、栄は「そうか、変だったか」と落ち込む様に肩を落とし、頭をがくりと下げた。その姿が、妙にツボに入った美夜は、腹を抑え笑い続けた。
ある程度、食べ物が無くなり出すと、光が慌てて「ケーキがあるから」と、珍しく声を張った。
皆、ケーキの存在を忘れ、随分と沢山食べていたのだ。
誰からともなくテーブルを片付けはじめ、ケーキを食べる準備に入る。
光は美夜を呼んで厨房へ入っていった。
光は「ついでだ」と言い、美夜にプレートの飾り付けの仕方を教えた。手際よく飾り付けを行い、見本を作って見せるその手は、まるで魔法を掛けるようで、無駄な動きのない鮮やかな動きだ。美夜はその手を、熱心に見つめた。
中央に置かれたショートケーキ。それを大きく囲うように、カスタードソースと、ストロベリーソースがかけられ、ソースの上にストロベリー、ラズベリー、ブラックベリー、ブルーベリーをランダムに並べる。そしてベリーの間、三カ所に、バラの花びらを一枚ずつ飾った。
光は、仕上げにフルーツの回りに粉砂糖を僅かにかけると、「この部分に、ソルベを飾るから、ここは開けて」と、美夜に指示をした。
「すごい……こんなに綺麗な飾り……嬉しいです。ありがとうございます」
瞳を輝かせて喜んでいる美夜を、光は優しい眼差しで見つめた。
「今日は特別な日だからね。さ、これと同じように、三皿分作ってごらん」
「はい」
美夜は見様見真似でプレートの飾り付けを行った。一つはバランスが少し悪かったが、その他は綺麗に出来た。
仕上げに光がオレンジのシャーベットを小さなガラスの器に盛り、プレートの空いている所に置いた。
「さ、運ぼう」
光と美夜は手分けしてケーキをテーブルに運んだ。
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