第55話 キッシュ
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
美夜は店内を改めて見回した。
店内はモビールが綺麗に飾られ、『美夜ちゃん歓迎会&中西姉妹誕生会』と、整った字で書かれた紙が貼られている。
真ん中のテーブルを繋げ、その上には沢山のご馳走が並んでいた。
「すごい……。嬉しいです。ありがとうございます」
美夜は瞳を輝かせ笑顔で言うと。
「本当、すごい。すごい嬉しい……」
美月は美夜と同じように、瞳を輝かせて店内を見ていた。
「みゃあちゃん、みじゅちゃん」
二人は揃って声の主に顔を向けると、里々衣が両手を後ろに隠して、はにかみながら立っていた。
美月は里々衣の前にしゃがみ「三日振りだね。元気だった?」と訊ねる。
ここ最近、美月は頻繁にLisに遊びに来ている。その度に美月は里々衣と遊び、仲良しになっていた。
里々衣は嬉しそうな顔で「げんきだった」と元気よく答える。そして、後ろに隠していた両手を前に出し、美月の首に折り紙で作った首飾りを掛けた。
折り紙を短冊切りし、それを輪っかにしてつなぎ合わせたものだ。
「みゃあちゃんも」
美夜が里々衣の前にしゃがむと、美月に掛けたものと同じ首飾りを掛けた。
「これ、里々衣が作ったの?」
美月は首にかけられた首飾りを手に取りながら里々衣に訊く。
里々衣は誇らしげにお腹を突き出すと、勢い良く頭を縦に振った。
「すごい。上手に出来たね!嬉しい。ありがとう、里々衣ちゃん」
美夜は感動し、僅かに瞳を潤ませながら言った。
美月は「ありがとう」と言いながら、里々衣の頭を両手で撫で回した。
里々衣は笑いながら栄の足下に逃げていった。
「さあ、二人とも椅子に座って。みんなも。ご馳走も沢山用意したから」
雪が二人を促し席に着かせると、栄は軽く咳払いをし「では、僭越ながら」と言い、グラスを持った。
「美夜ちゃんの歓迎会、そして中西姉妹の二十三歳の誕生日を祝して、乾杯!」
全員がグラスを掲げ「乾杯」言うと、賑やかに食事が始まった。
商店街内の総菜が、テーブル一杯に乗せられ、どれから手を付けようか、迷う。
「美夜ちゃん、美月ちゃん、これ食ってみてよ」
栄が差し出した皿には、キッシュが乗っていた。美夜と美月は一人切れずつ自分の皿に取ると、キッシュを眺めた。
ベーコンとマッシュルーム、ほうれん草が入ったキッシュだ。きつね色の焼き色が艶やかで、思わずゴクリと喉を鳴らす。
二人は同時に一口食べると、顔を見合わせて頷き合った。
「美味しい」
美夜は口元を押さえて、瞳を見開く。
「このサクサク感がいい。美味しいよ、これ」
そう言うと、美月はパクパクとキッシュを口に運ぶ。
「それ、俺が作ったんだよ」
栄は嬉しそうに言うと、美月が勢いよく栄に顔を向けた。
「え!髭もじゃが?」
美月はそう言いながら、目を見開いた。
「あれ?髭が無くなってる」
美夜も素早く頭を回転させ、隣りに座る栄を見る。
「あ!本当。そっか、なんか違うと思ったんだけど、髭が無くなっていたんですね!雰囲気が違うのは、私服だからかなぁと思ってました。そっか、髭が無くなってたんだ。気が付かなかった」
美夜が素直に感想を述べると、周りが一斉に笑う。
「なんか、ひどい……」
栄は苦笑して言った。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!
同時進行でミステリー系ヒューマンドラマ
『Memory lane 記憶の旅』更新中!
https://book1.adouzi.eu.org/n7278hv/
「続きが気になる」という方はブックマークや☆など今後の励みになりますので、応援よろしくお願いします。




