第52話 師匠と弟子
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その夜、美夜は美月に歓迎会の話しをした。
「でも、いいのかな?私、関係ないじゃん」
「良いんだよ。ハルさんが連れ来てって言ってたんだし。それで、美月のシフトはどうなってる?参加できそう?」
「ちょっと待って。スケジュール帳見てみる」
美月は立ち上がり自室へ向かうと、手帳を持って戻ってきた。
「一応、五時上がりになってるけど。でもさ、日曜は二十八日なんだよね」
美月の言葉に「あ」と声を上げた。二人は声を揃えて「私たちの誕生日じゃん」と言った。
「まあ、いいじゃない。偶然でしょ。明日、私がLisで働き出して一ヶ月で、来週の月曜が臨時休業だから、それでって話しだったから。折角だし、行こうよ。美月もって、言ってくれてるんだし。お祝いなら、帰ってきて二人でしよう?」
「そうだね。いいよ、それで。それに、あの髭もじゃが、そこまで頭回ると思わないし」
美月は手帳をテーブルの上に投げ出し、さり気なく毒を吐く。
「……髭もじゃって……」
美夜は苦笑した。
一方、その頃、髭もじゃこと、栄は、テレビを見ながら、リビングに入ってきた光に「これ、面白いよ」と声を掛けていた。
光は水の入ったグラスを持って、一人がけのソファにゆっくりと腰を掛け、ふうと、息を吐く。
「製造はどうよ?」
栄はテレビに目を向けたまま訊く。
「順調だよ」
光は水を一口飲むと、テーブルにグラスを置いた。
「美夜ちゃん、どう?」
栄はちらりと光を見る。
光は息を深く吸い込み腕を組むと、テレビに目を向けながら「筋はいいよ」と答えた。
「前の会社でやってたからかな?」
栄が言うと「それもあるね」と光は頷いた。
「正直、製菓学校出ただけじゃ期待はしないんだけど、短い期間でも、実践で働いていたからかな。飲み込みも早いし、動きも良いよ。注意した点も、彼女なりに研究して調整してくる。ケーキ作りだって、言われたことを、二回目には完璧じゃないにしろ、近いところに、確実に焦点を合わせてくるんだ。あれは、一種の才能だね」
栄は「ほお」と感心したように声を上げる。
「珍しいじゃん。コウがそんなに誉めるなんて」
栄が、にやつきながら光を横目で見てくるのを気にしない振りをしつつ、仏頂面のまま話を続けた。
「別に。本当の事を言ってるだけ。今、彼女にイチゴのタルトを作らせてるじゃない?」
「ああ、それなりに旨くできてるよな」
栄が相槌を打つと、光は小さく顎を引く。
「本来、一年くらいみて、ケーキ作りの全行程を覚えていくんだけど、まぐれかどうか、今日は、ほぼ完璧な状態のを作ったんだよ。もう、次の段階に行けるから、下手すると一年かからないんじゃないかな。今日、カット売りしていたイチゴのタルト、あれは彼女の作ったやつだよ」
「そうだったのか?あれ、結構売れたぞ?」
栄は驚きの色を露わにした。
「まあ、イチゴは人気だからね。でも、それだけじゃ駄目でしょう。美味しそうに見えたって事だし。実際、旨いし」
栄は嬉しそうな顔で弟を見た。その視線を無視できなくなり、栄に目を向け、訝しげな表情をした。
「なんだよ、気持ち悪いな」
「ふふん。良い弟子が出来て、良かったじゃないか。さすが、人を見る目が確かな光君。面接者を次々落として良かったね」
光は目を細め顎を上げると、栄を軽く睨み付け「ふん」と鼻を鳴らした。
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