第51話 嬉しい一日
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
美夜がLisで働き始めて、一ヶ月が経とうとしていた。
美夜はいつものように光の助手をしながら、イチゴのタルトを作っていた。
「コウさん、お願いします」
美夜は光に声を掛けると、完成したタルトを見せる。
光はいつものようにじっくり様々な角度から見ると、一ピース切り、一口食べた。
美夜は真剣な面持ちで光の反応を窺う。
光は小さく数回頷くと、美夜に目を向け、にっこりと口角をあげた。
「いいじゃん。良くできてるよ。見た目も旨そうに見えるし。完成だね」
「本当ですか?」
「自分でも食べてごらん」
美夜はフォークを持つと、一口食べてみた。
「全体が、うまく馴染んでる。これなら、販売できるね。一ヶ月でこれだけ出来ていたら、上出来だよ。頑張ったな」
思わぬ褒め言葉と労いの言葉に、美夜は目の奥がじいんと滲む。口の奥を噛み締め、目を見開き、泣くのを我慢していると、光から思わぬ言葉が出た。
「これ、今日カット売りしよう。中西、自分でカットして、他のケーキと一緒にドレサージュして売り場に出しておいて」
「え、良いんですか!?」
「もちろん。出しても良いくらいに出来てるんだから、出しておいて」
「はい。ありがとうございます」
光は小さく頷くと、焼き菓子をオーブンに入れながら「だけど」と言葉を続けた。
「今日のが偶然って事もあり得るし、今後も繰り返し作ってみよう。本当に大丈夫だったら、これからは中西が責任を持って担当するように」
「はい!わかりました!ありがとうございます」
美夜は嬉しくて、耐えていた涙が溢れそうになった。今までケーキを作ってうれし泣きした事はあっただろうかと、いや、無い。そんな自分に可笑しくなった。
美夜はタルトをカットすると、他のケーキと一緒にショーケースに並べた。
「売れますように」
小さく呟き、手を合わせた。
開店十五分前になり、栄と雪が売り場に現れた。
「みなさん、おはようございます」
栄は改まった口調で言った。
「おはようございます」
栄はわざとらしく咳払いをすると、「ええ」と言った。
「本日はみなさんに提案があり、賛成であれば挙手を願いたいのですが」
「何なのよ、回りくどい言い方しないで早く言ってよ」
雪は笑いながら促した。栄はいたずらっ子のように微笑むと、いつもの調子で話しを始めた。
「明日で、美夜ちゃんが来て一ヶ月が経つんです。それで、歓迎会を今週の日曜、閉店後に行いたいと思っています。ほら、翌日の月曜は商店街が休みだから、うちも休みだし。いかがでしょうか?」
そう言うと、栄は自分でいち早く「賛成」と言いながら手を挙げた。それに続いて雪と光も手を挙げる。
「美夜ちゃんは、どうだろう?出来たら、美月ちゃんも誘って欲しいんだけど」
栄は小首をかしげ、美夜に訊ねた。
「えっと、いいんですか?歓迎会なんてしていただいても……」
「もちろん。毎日頑張ってくれているし。本当は、もう少し早くと思っていたんだけど、この時期が丁度良いかなと思ってね。どうだろう。来週の日曜、美月ちゃんと一緒に」
「わかりました。美月にも伝えておきます。なんだかお気遣い頂いて、ありがとうございます」
美夜は一人ずつに礼を言った。
「じゃあ、決まり!みなさん、そう言うことで、本日もよろしくお願いします」
「お願いします」
挨拶がホールに響くと、それぞれに持ち場へ散らばる。
美夜は、今日一日が素晴らしい始まりである事に、発狂したい気持ちを抑えつつも、口角の緩みは抑えきれなかった。
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