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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
2 books & cafe Lis

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52/201

第51話 嬉しい一日

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 美夜がLisで働き始めて、一ヶ月が経とうとしていた。

 美夜はいつものように光の助手をしながら、イチゴのタルトを作っていた。


「コウさん、お願いします」


 美夜は光に声を掛けると、完成したタルトを見せる。

 光はいつものようにじっくり様々な角度から見ると、一ピース切り、一口食べた。

 美夜は真剣な面持ちで光の反応を窺う。

 光は小さく数回頷くと、美夜に目を向け、にっこりと口角をあげた。


「いいじゃん。良くできてるよ。見た目も旨そうに見えるし。完成だね」


「本当ですか?」


「自分でも食べてごらん」


 美夜はフォークを持つと、一口食べてみた。


「全体が、うまく馴染んでる。これなら、販売できるね。一ヶ月でこれだけ出来ていたら、上出来だよ。頑張ったな」


思わぬ褒め言葉と労いの言葉に、美夜は目の奥がじいんと滲む。口の奥を噛み締め、目を見開き、泣くのを我慢していると、光から思わぬ言葉が出た。


「これ、今日カット売りしよう。中西、自分でカットして、他のケーキと一緒にドレサージュして売り場に出しておいて」


「え、良いんですか!?」


「もちろん。出しても良いくらいに出来てるんだから、出しておいて」


「はい。ありがとうございます」


 光は小さく頷くと、焼き菓子をオーブンに入れながら「だけど」と言葉を続けた。


「今日のが偶然って事もあり得るし、今後も繰り返し作ってみよう。本当に大丈夫だったら、これからは中西が責任を持って担当するように」


「はい!わかりました!ありがとうございます」


 美夜は嬉しくて、耐えていた涙が溢れそうになった。今までケーキを作ってうれし泣きした事はあっただろうかと、いや、無い。そんな自分に可笑しくなった。

 美夜はタルトをカットすると、他のケーキと一緒にショーケースに並べた。


「売れますように」


 小さく呟き、手を合わせた。

 開店十五分前になり、栄と雪が売り場に現れた。


「みなさん、おはようございます」


 栄は改まった口調で言った。


「おはようございます」


 栄はわざとらしく咳払いをすると、「ええ」と言った。


「本日はみなさんに提案があり、賛成であれば挙手を願いたいのですが」


「何なのよ、回りくどい言い方しないで早く言ってよ」


 雪は笑いながら促した。栄はいたずらっ子のように微笑むと、いつもの調子で話しを始めた。


「明日で、美夜ちゃんが来て一ヶ月が経つんです。それで、歓迎会を今週の日曜、閉店後に行いたいと思っています。ほら、翌日の月曜は商店街が休みだから、うちも休みだし。いかがでしょうか?」


 そう言うと、栄は自分でいち早く「賛成」と言いながら手を挙げた。それに続いて雪と光も手を挙げる。


「美夜ちゃんは、どうだろう?出来たら、美月ちゃんも誘って欲しいんだけど」


 栄は小首をかしげ、美夜に訊ねた。


「えっと、いいんですか?歓迎会なんてしていただいても……」


「もちろん。毎日頑張ってくれているし。本当は、もう少し早くと思っていたんだけど、この時期が丁度良いかなと思ってね。どうだろう。来週の日曜、美月ちゃんと一緒に」


「わかりました。美月にも伝えておきます。なんだかお気遣い頂いて、ありがとうございます」


 美夜は一人ずつに礼を言った。


「じゃあ、決まり!みなさん、そう言うことで、本日もよろしくお願いします」


「お願いします」


 挨拶がホールに響くと、それぞれに持ち場へ散らばる。

 美夜は、今日一日が素晴らしい始まりである事に、発狂したい気持ちを抑えつつも、口角の緩みは抑えきれなかった。




最後まで読んで頂き、ありがとうございます!



同時進行でミステリー系ヒューマンドラマ

『Memory lane 記憶の旅』更新中!

https://book1.adouzi.eu.org/n7278hv/



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