第50話 パパ
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「あのね、りりーいま、おめんつくってたの。おねえちゃんが、おしえてくれたんだよ。みて」
里々衣は自慢げに即席のお面を見せた。
栄と光は驚き、顔を見合わせると、美月を見た。美月は二人の反応に驚いて、瞬きを繰り返し小首をかしげる。
「パパ」
里々衣は、両腕を上げて栄に面を見せる。
栄は我に返ったように瞬きをすると、下を向いて面を手に取った。
「これ、どうやって付けるの?」と栄が訊くと、里々衣は面の両端を持って、左右に引っ張った。すると、口がパクパクと動くのを見て、栄と光は同時に「おお」と声を上げ、手を叩いた。
里々衣は得意げに微笑むと「すごい?」と訊ねた。
「すごい、すごい。上手くできたね。よかったじゃないか」
栄はしゃがみ込み、里々衣の頭を撫でた。
「へえ。本当、上手いな。保育園の先生より教え方上手いよ、お姉さん」
光は面を手に取りながら、美月に目を向けた。薄っすらと微笑んだその顔は、先ほどの無愛想さはどこへやらと思わせる表情だ。
美月はへえ、と心の中で呟く。
「美月ちゃん、ありがとうね。なんだか面倒見させてしまった感じで」
栄の言葉に、美月は「いえ、別に」と言うと「あと、名前で呼ぶの、止めてください」とぶっきらぼうに返す。
栄は一瞬、驚いた顔をしたが、苦笑して「そうだね、ごめんね」と言い、「ところで、中西さん」と言い直した。
「雪さんはどこへ行ったのか知ってる?」
「いえ」
美月が短く答えると、里々衣が「しってる」と元気よく手を挙げる。
「ゆきおばちゃんね、したで、みゃあちゃんと、おそうじしてるの」
すると、里々衣は思い出したように「りりーもいかなきゃ」と、裏口から出て行った。
三人は里々衣の後ろ姿を見送り、再び面に目を向けてた。
「それにしても」と、栄が美月を見る。
「あの里々衣が、一発で懐くとはねえ。中西さん、何したの?」
美月は眉間に皺を寄せ「なにって」と、口を尖らせながら、ぶっきらぼうに返す。
「ただ、お面の作り方教えただけですけど」
「すごいな、それであれだもん」
光は心底驚いた様子で呟く。
「なんだよ。そんな驚くこと?」
美月は混乱した顔で二人を見上げた。
「いや、里々衣はものすごい人見知りでね。知らない人とは絶対に話さないんだ」
栄が困ったような表情で言うと、美月は眉間の皺を緩め、「へえ」と驚いた。そして、ふと何か気になったのか、二人の顔を見比べた。
「あのさ、りりーちゃんって、どっちの子?」
二人はきょとんとした顔をしたが、すぐに栄が手を挙げ「俺の子です」と応えると、美月は栄をじっと見つめてから「似てないね」と、言い小さく頷く。
「お母さん似か。良かったね、髭もじゃに似なくて」
そう言いながら、机の上に広げた筆記用具を仕舞った。
栄は「おいおい」と顔を引き攣らせて言い、光は吹き出し、大笑いをした。
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