第49話 温かな気持ち
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美月は少し残念だと思いながら、紙をテーブルに置こうとした。と、同時に、自分の目の前の席に座っている女の子に、椅子から落ちそうになるくらい驚いた。
「びっくりしたあ……」
女の子は、美月の驚きなどお構いなしに、美月が作った即席のお面をじっと見つめている。
「欲しい?」と訊ねると、女の子はちらりと美月を見て、顔を横に振った。しかし、それでも熱心にお面を見つめているので、「作ってみる?」と訊ねると、大きな瞳を輝かせ首を縦に振った。
美月はにっこり微笑むと、「じゃあ、隣りにおいで。一緒に作ろう」と言って、自分の荷物を退かした。
女の子は黙って美月の隣りに座ると、熱心に美月の手元を見て、真似をした。
「うまい、うまい。すごいねえ。上手じゃない」
美月が声を掛けると、女の子は恥ずかしそうに、小さくはにかんだ。この子は三歳ぐらいだろうか、と思いつつ、三歳にしては手先が器用で、絵もちゃんと形になっている。
「これ、くまさんかな?」と訊くと「そう」と可愛らしい声が聞こえた。
あまりに愛らしい声に、美月は笑いながら「そっかあ」と答える。
「このはさみは危ないから、お姉ちゃんが切ってもいい?」
そう訊くと、女の子は素直に頷いた。
仕上げの折り目を付けると、「はい、できあがり」と言って、女の子に手渡した。
女の子は紙を左右に動かし、「うさぎさん」と声を掛けてきた。
美月は慌ててウサギの面を顔の前に持ってくると「なんですか、くまさん」と返事をした。
「うさぎさん、おしえてくれて、ありがとう」
美月は不思議と泣けそうなくらい、嬉しい気持ちになった。
田舎にいる時から、老若男女問わず、誰とでもすぐに仲良くなれる事が、美月の特技でもあった。東京に来て、まだ三週間。だけど、もう、三週間。フィットネスクラブでは、一部の従業員を除いて、その他大勢とは、あまり上手く話せていない。
こちらが気さくに話しかけても、怪訝な顔で挨拶をして立ち去るか、無視をするか、愛想笑いをするだけで何も言わないかの、どれかだった。
東京の人間は、人情と言うものが無いのだ、と思い、少し気持ちが沈んでいた。だが、働き始めたばかりの美夜には、相談出来なかった。希望を持って上京し、希望の職場で頑張っている。毎晩疲れ切ってすぐ寝てしまっていたけど、日々生き生きと頑張っている美夜に、変な心配をかけたくない。だが、それだけが理由ではない。なぜか、美夜にどこか遠慮をしてしまっている。今までは、何でも話が出来ていたのに、東京に来てたった三週間。引っ越し、荷ほどき、職探し。慌ただしい毎日に、いつものペースが崩れていたせいか、お互いのリズムが上手く取れていない気がしていた。
そんな矢先、こうして女の子と打ち解けられている自分が、「大丈夫。これからだよ、美月」と、励まされている気がしたのだ。
美月は「どういたしまして」と答えると、面を退けて、女の子に笑いかけた。女の子も、恥ずかしそうに面をずらすと、頬をリンゴのように赤らめて微笑んだ。
「おなまえは?お姉ちゃんは、み・づ・きっていうの」
女の子は面を退かすと、大きな声で「おきたりりーです。ごさいです」と答えた。
「りりーちゃんって言うの?可愛い名前だね」
五歳にしては、女の子は随分と小さい印象があった。沖田、と言う名前は、美夜から聞いていた、ここの兄弟の名前だと思い出した。すぐに、どっちかの子供か?と思った。
「あのね、もうすぐね、おみせがおわるからね、りりーもおてつだいにいかなきゃ」
「そっかあ、偉いね。じゃあ、頑張ってお手伝いしてきてね」
「うん。おねえちゃん、まだいる?」
「うん。まだもう少し居るよ」
「じゃあ、ちょっとまってて。すぐもどってくるから」
そう言うと、里々衣は席を立って厨房の入り口に立った。
「パパ、パパ」
「なあに」
「いっしょにきて。コウちゃんも」
「なんだ、なんだ?」
里々衣は栄と光と従えて、美月の前に戻ってきた。
「ああ、美月ちゃん」
栄は美月に気が付くと、愛想の良い笑顔を見せた。隣に立つ光に「美夜ちゃんの双子のお姉さん」と紹介すると、光は「知ってる」と答えた。
美月は「どうも」と無愛想な顔で言うと、光も美月に負けず劣らす無愛想に「どうも」と挨拶をした。
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