第47話 名前の由来
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「あの……」
美夜はコインを数えている栄に声を掛けた。栄は「なあに?」と間延びした返事をしながら、コインを数え続ける。
「あの、シェフは……ヒカルさんって、名前ですよね。なんで、コウさん、なんですか?」
美夜は、ここ数日気になっていた事を訊いた。
「ああ、それはね、コウがまだ三歳、四歳かな?まあ、そのくらいの時に、自分の名前を言えるように練習するじゃない。それで、あいつは自分の名前がちゃんと言えなかったんだ。ひきゃる、とか、ぴぱる、とか。あんまりにも言えなくて、泣いちゃってさ」
栄は楽しそうに思い出話をはじめた。それには美夜も思わず笑ってしまう。必要なこと以外は話さず無口、ほぼ無表情に近い男の、可愛らしい一面を見たようで、可笑しかったのだ。
「それで、光って字は、コウとも読めるだろ?だから、みんなでコウって呼んでたら、本人もコウなら言えるから喜んでね。それ以来、何だか直すこともなく、ずっとコウなわけです」
「そうだったんですか」
「ついでに言うとね、俺ら兄弟の名前を合わせると、『栄光』になるんです。親父の好きな言葉」
「へえ、なるほど」
「美夜ちゃんの名前は、どういう由来?綺麗な夜に生まれたから?」
栄はコインを数えながらも訊く。
「ああ、近いです。私、双子なんですけど……」
「え?そうなの?じゃあ、この間一緒にいたショートヘアの子?」
「そうです」
栄は、へえ、と驚きの声を上げながら数え終えたコインをケースに仕舞う。
「私たちが産まれた時、月がとても綺麗な夜だったそうなんです。それで、姉が美しい月で、美月、私が美しい夜で、美夜。二人で、月夜」
「なるほどねえ」
栄は大袈裟なくらい感心したように、大きく頷き「お父さんはロマンチストだね」と、にっこり笑う。美夜は、その笑顔を何だか擽ったい気持ちで見つめ、微笑み返した。
二人が名前の話しをしていると、店のドアが開いた。
「いらっしゃいませ」と、二人が声を掛けると、ドアの前で美月が手を振って立っていた。
「あ、美月」
美夜は嬉しそうに頬を緩め、名前を呼ぶ。
「噂をすれば、だね」
栄がそう言うと、美月は微笑んでいた顔を瞬時に無表情にした。
「なんの噂ですか」
心持ち、棘のある言い方をした美月に、美夜は慌てて説明をした。
「今、名前の由来について話しをしていたの。それで、美月の名前が出ただけ。私たちが双子って……」
美月は、ふうん、と返事をし店内をぶらつきはじめ「美夜」と、棚の奥から美月が声を掛けてきた。
「なに?」
「一緒に帰ろうと思って来たんだけど、何時に終わるんだっけ?」
「七時だよ。掃除したりするから、あと二時間はあるけど」
「そっか。どうしよっかな」
すると、栄は大きな声で美月に話しかけた。
「よかったら、時間まで上で待ってたら?」
「え、いいんですか?喫茶、六時で終わりですよね?」
美夜は栄を見上げて訊いた。
栄は「ああ、いいよ。大丈夫」と軽く言うと、「じゃあ、あと掃除、お願いね」と言って暖簾を潜り、事務所へ向かった。
時計を見ると、既に五時を回っていた。美夜は美月に声を掛け、二階で待っているように言うと、美月は素直にそれに従い、店を出て階段を上って行った。
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