第45話 百合の花
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雪がお金の計算をしている間、美夜は店内の掃除を終えた。店内の掃除や売上計算が終わると、美夜は雪と共に従業員専用のトイレ掃除や、休憩室の掃除、更衣室の掃除を行う。
六時を回り、雪が「こんなもんで良いでしょう」と美夜に声を掛けた。
「まあ、オープン前にも店内の掃除はするんだけど、流れとしてはこんな感じ。で、ここが終わったら上も手伝ってあげて」
「わかりました」
「じゃあ、上に行きましょうか」
雪は店内の電気を消すと、美夜と共に二階へ上がった。
二階へ行くと、可愛らしい笑い声が漏れ聞こえてきた。
「下、終わりました」
雪が誰にともなく言う。
「ご苦労様です」
栄は里々衣を抱えながら振り向いた。
「あ、美夜ちゃん。里々衣、美夜ちゃんにご挨拶できたか?」
栄は里々衣の顔を覗き見て訊ねる。里々衣は先ほどと同じように、大きな瞳でじっと美夜を見ただけで、小さな唇はきゅっと結んだままた。
「ああ、駄目だった。さっきも私に抱きついちゃって」
「そっかあ……。ごめんね、美夜ちゃん。どうもね、なかなか人見知りが直らなくて」
栄は弱った顔をした。
「いえ、気にしないで下さい。私も、子供の頃ちょっとだけ人見知りしてたんです。だから、りりいちゃんの気持ち、ちょっとだけ分かります」
「そう?そう言ってもらえると助かるよ。あんまり甘やかしてはだめだとは、分かってはいるけど、この子のリズムも大切にしたくてね。ありがとう。あ、そう言えば、美夜ちゃんのケーキ食べたよ。旨かった。これからも頑張ってね」
栄はにっこりと満面な笑みで伝える。美夜はその笑顔に顔を赤くし、「ありがとうございます」と礼を言うと、目を泳がせた。
「あ、私、掃除しますね」
思いついたように言うと、美夜は雪と共に掃除道具を持って掃除をはじめた。
栄がカウンター内を掃除していると、里々衣は布巾を持って、一所懸命テーブルを拭いて歩いた。
「りりいちゃんって、漢字はどう書くんですか?」
美夜は掃き掃除をしながら雪に訊いた。
「里を書いて、里の次はほら、佐々木とかで続けて書くときの記号みたいなのあるじゃない?あれ。で、衣って書いて。それで里々衣って書くの」
「何かの当て字ですか?」
「え?……ええ……そう」
雪は顔を逸らした。
「もしかして、百合の花ですか?英語でリリーって言いますよね。このお店も、百合の花がモチーフになってるし。あ、もしかして、お店の名前も百合って意味なんですか?」
美夜は、ちりとりでゴミを取りながら、何てことのない話しのように訊ねた。
しかし、雪から何の返事も無いことに気づき、顔を上げた。
雪は床の一点を見つめ、辛そうな顔をしている。
「……雪さん?」
雪は我に返ったように目を見開くと、作り笑顔を見せた。
「あ、ごめんなさいね。じゃあ、私、トイレ掃除に行ってくるわ」
「あ、私やります」
「いいの、いいの。これ、片付けておいてくれる?」
雪は美夜に箒を手渡し、足早にトイレへ向かった。
栄はカウンター下にしゃがみ、じっと目を閉じた。
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