第41話 シチュー
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トレーにシチューを盛った皿と、麦茶とスプーンを乗せ、布を被せると「じゃあ、行こうか」と光は先に製造室をでる。
美夜は自分のトレーを持って、光の後について行った。
「休憩はいります」
光はカウンターに居る栄に声を掛け、裏口のドアを開け、出ていく。
美夜も栄に声を掛けて、外に出た。
休憩室に入ると、向かい合わせになって昼食を取った。
光はバンダナを外し、頭を左右に振り、髪の毛を降ろした。先程までの大笑いは、一体どこへ行ったのかと思うほど、静かに、無表情で「いただきます」と消えそうな声で言う。
「いただきます」
美夜はシチューを一口食べた。
「……美味しい……」
「どうも」
光はそう言うと、黙々と食べ進める。
「え、これ、シェフが作ったんですか?」
「ん」
「すごく美味しいですね」
「……」
美夜は一口、また一口と、無言で食べ進めた。
クリーミーで野菜も煮崩れしていないのに、よく味が染み込んでいる。
美味しいものを前にすると、人は無口になるが、正しくそれだった。
食べ終わると、もう少し装っておけば良かったと、少し後悔をし、空になった皿を見つめた。
光は小さく息を吐き出し、麦茶を一口飲む。
「賄いは、いつもシェフが作るんですか?」
美夜は麦茶の入ったグラスを持ちながら訊いた。
「いや。社員が交替で。担当の週があって、今週は俺だっただけ。来週はハルが担当だよ」
「あんなに忙しいのに、いつ作ったんですか?」
「家で作って、ここで温めただけ。まあ、雪さんはここで作る率が高いかな」
そう言うと、光は自分のトレーと美夜のトレーを持って立ち上がった。
美夜も慌てて立ち上がると「いや、中西さんはまだ休んでいていいよ」と制す。
「休憩は一時間だし。あと二十分、ゆっくりしてなよ」そう言って、休憩室のドアを開けた。
「すみません。ありがとうございます」
出て行く光の背中を、美夜の声が追いかけた。光は薄っすらと微笑み、ドアを静かに閉めた。
美夜は前に向き直り、ぼんやりと窓の外を見た。
少し雲の多い天気だったが、雲の間から見える空は、綺麗な水色をしている。
暫くして、更衣室へ行き、歯ブラシを取ってくると、休憩室の手洗い場で歯を磨き、トイレへ向かった。
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