第40話 賄い
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一時半を過ぎると、客足は落ち着き、栄は美夜に休憩に出るよう耳打ちした。
「そう言えば、言い忘れてたけど、うちでは賄いが出ます。お弁当とか、持ってきてないよね?」
美夜は昼食のことをすっかり忘れていた。持ってきていないと言うと、栄は「よかった」と微笑み、厨房へ行くように伝えた。
美夜が厨房へ入ると、光が「お疲れ」と声を掛けた。
「お疲れ様です。あの、休憩をいただきたいんですけど、今、オーナーが厨房へ行けって……」
「ああ。じゃあ、一緒に休憩とろう」
光はコンロに火をかけると、鍋をかき混ぜはじめる。
クリーミーな香りが漂い、美夜は初めて今、自分がものすごく空腹だと言うことに気が付いた。
必死に音が鳴るのを押さえたが、生理的なもはそう簡単に我慢できるものではない。
腹の虫が、とんでもない音を立て、製造室内に響く。それを聞いた光は、思い切り大笑いをはじめた。
「すっげえ音。そんなに腹減ってたの?」
美夜は耳まで赤くして「すいません」と謝った。
「謝る必要ないけどさ……。あははは」
光は鍋をかき混ぜる手を止めてまで大笑いをした。横顔だが、とても輝かしい、良い笑顔で楽しそうに笑っている。美しい笑顔に、美夜は居た堪れない気持ちになる。
「そこまで笑わなくても……」
美夜は穴があったら入りたいと、心の中で呟いた。
あまりの大笑いがホールまで聞こえたのか、栄が「どうした?」と、厨房に顔を出した。
「何でもありません!」
美夜は益々顔を赤くして、怒るように大声で言った。
栄は驚いた顔で瞬きを繰り返すと、顔を赤くしている美夜と、未だ笑いが収まらない光を交互に見た。
「ほんと?」
「本当です!」
「そう?」
栄は首をかしげ、売り場に戻っていった。
「シェフ!いい加減、笑わないでください」
光は「ひい」と引き笑いまでして、棚から皿を出した。
「中西さん、ご飯好きなだけよそって良いよ」
光は美夜にスープ皿を手渡すと、まず自分の皿にご飯を盛り、美夜にしゃもじを渡す。
美夜はお茶碗一膳分よりも、若干少なめに盛る。それを見た光は「それで足りるの?」と笑いを堪えながら訊いてきた。
「ほっといてください」
美夜の顔の火照りは弱まるどころか、今にも火を噴き出すのではないか、と思うほど熱かった。
光はだいぶ落ち着いたのか、ほんのり笑みを讃えながら、鍋の中のものをご飯の横によそった。それを見た美夜は、驚きながら瞬きを繰り返す。
「シチューだ……。シチューをカレーみたいに食べるんですか?」
「そう。洗い物少なくしたいでしょ。それに、こうして食べるのも旨いよ」
光は、その細い身体のどこに入るのだというぐらい、どっさりとよそる。
美夜も光に見習い、ご飯の脇にシチューをよそった。
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