第39話 呼び名
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女性は美夜を見るなり「始めまして、金村です」と元気よく挨拶をした。
美夜も「始めまして」と釣られるように大きな声で挨拶を返す。
「中西美夜です。よろしくお願いします」
栄は雪の隣に立ち、改めて雪の紹介を始める。
「雪さんは、開店当初から手伝ってくれてるベテランさんなんだ。十時から四時までだけど、何かあったら雪さんに聞いても大丈夫だから」
美夜が「はい」と返事をすると、「まあ、四時までって言っても、六時頃にまた戻って来るんだけどね」と、雪は苦笑した。
「ところで、美夜ちゃんは、今いくつ?」
雪はあまりにも自然に「美夜ちゃん」と呼んだので、美夜は戸惑うことなく返した。
「今、二十二です。でも、来月誕生日なので、もうすぐ二十三になります」
「二十三。若いわあ。やっぱり肌つやが違うわよね。皺とか無いし」
雪は笑いながら「羨ましいわ」と言った。
「二十三には見えないよね。俺なんか、初めて会ったとき、十八とかそんくらいの学生だと思ったもん」
振り向くと、焼き菓子の入った籠を持った光が立っていた。
「学生だと思って、学割しちゃったしね」
と、にこりともせずに呟く。それに対して、美夜は慌てて言い訳をした。
「あの時、学生じゃないって言おうとしたんですよ。でも、シェフが一人でどんどん話し進めちゃって、言うタイミングを逃したというか……」
美夜が言い訳をしていると、栄と雪が突然、大きな声で笑った。光は赤い顔をして、カウンターに焼き菓子を置くと、恨めしい顔で栄と雪を見つめる。
「え?あの、何かおかしな事、言いましたか?」
美夜はオロオロしながら三人の顔を見回す。
「中西さんは悪くないよ」と、栄は笑いながら言った。
「本当、悪くないの。ごめんなさいね、つい、ツボに入ったの」
雪は目尻を拭いつつ、なおも笑い続ける。
「これ、教えておかなきゃね。うちでは、みんな名前で呼んでるんだ。沖田さん、だと、二人いるだろ。だから、下の名前で呼んでる。雪さんに、コウに、ハル。と、なると、これから中西さんのことも美夜ちゃんと呼ぶことになるけど、いいかな?」
栄は小首をかしげ微笑みながら美夜に訊いた。
美夜は「はい」と返事をすると、頬が熱くなっていくのを感じた。栄の言った「美夜ちゃん」が、妙に耳に残る。
栄は店内の時計を見ると「よし」と声を出し手を一度叩いた。
「開店です。本日もよろしくお願いします」
栄が引き締まった声で言うと、一同は顔を引き締め「お願いします」と言い、自分の持ち場に散らばった。
開店と同時に、客が来店した合図のドアに付いた鈴が鳴り続ける。
ホールケーキはストック分も含め、開店と同時に売り切れ、雪が製造に声を掛けてきた。光は慌てた様子もなく涼しい顔で、瞬く間に六台のホールケーキのデコレーションを終えると、美夜に三台のホールケーキをショーケースへ持って行くように指示をした。
昼近くになると、徐々に喫茶にも人が入り始め、美夜はホールで注文を取る仕事を任された。
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