第36話 真新しいコスチューム
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栄は休憩室の前にあるドアを開け、電気をつけた。
「昨日もコウが案内したと思うけど、真ん中の部屋が女子更衣室です。ロッカーは空いているところなら、どこでも好きな所を使って下さい。で、コスチュームは……」
栄は事務所の前にある男子更衣室のドアを開けて中に入っていった。
美夜は女子更衣室に一歩、中に入った。中が見えないように気を遣ってカーテンがつけられており、カーテンを開け、周りを見回す。栄はコック服を持って戻ってくると、「これ、中西さん専用の服ね。上下二枚渡すから、洗濯は自分でお願いします。あと、バンダナ。これ頭につけてね」と言いながら、美夜に手渡した。
「はい。ありがとうございます」
美夜は新品のまだ糊がついたコック服を見つめた。バンダナは緑と赤のものだった。どうやら帽子の代わりなのだと理解した。
「それじゃ、着替えたらタイムカード押して、二階に上がって、厨房へ行って下さい」
「はい」
「じゃあ、よろしく」
そう言うと、栄は更衣室を出て行った。
美夜はカーテンを閉めた。縦長の更衣室は窓が無く、壁の左右に三個ずつロッカーが備え付けられている。
美夜は一番奥にあるロッカーの前に立った。右側のロッカーは使われているのか、鍵が付いていなかったので、美夜は左側のロッカーを開けた。
中に荷物を入れると、着替え始める。
まだ固い服に腕を通しながら、これから働くことを強く意識し始めた。気が付くと、微かに手が震え、うまくボタンが閉められない。髪の毛を一本に纏め、三角巾のようにして赤いバンダナを頭に巻き、前髪を横にまとめ、持ってきたピンで留めた。
持参したキッチン用安全靴に履き替えると、ロッカーの鍵を閉め、ズボンのポケットに仕舞う。
ズボンのウエストが少しきつく、最近の運動不足を痛感した。これからここで働くなら、腹筋ぐらいは真面目にやろうと思った。
気合いを入れるようにエプロンの紐を締め直す。更衣室内の時計を見ると、あと五分で七時だった。そんなにのんびりしていたのかと、美夜は慌てて動き出した。更衣室の電気を消し、タイムカードを押す。裏口を出ると、外にある二階の裏口専用の階段を上った。
裏口専用の階段は、屋根が付いているものの、激しい雨風の時は、出来れば通りたくないなあと思わせる作りだ。しかし、建物内には二階に上がる手段がないため、ここを通るしかなかった。
光が案内をしながら言った言葉を思い出した。
「兄貴がね、設計ミスしたんだ。本当、不便だよ。雨の日は傘を持って通った方が良いよ」
美夜はその通りだな、と心の中で呟きながら、二階の裏口のドアを開けた。
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