第35話 働くこと
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製菓の製造関係で働くのであれば、労働時間がどうこう言ってはいられない。労働時間で、自分の時間が無くなる人は多い。下手すると、週七日働き、毎日残業という所もある。自分の趣味の時間が取れないうえ、長時間立ち仕事で体調を壊す人もいる。自分の思い描いていた理想とは異なり、辞めてしまう人も少ない。
それを考えると、Lisの待遇はずっと良かった。毎週水曜が定休日で、日曜は営業時間が短い。定休日以外にも、商店街の休みに合わせた休みがあったり、お盆や正月も休みもあると言われた。
光が言うには「残業はしない」と言っていたし、それが本当であれば、以前の会社よりも恵まれていると、美夜は思った。
美夜が後片付けをしようと台所へ向かうと、美月が「やるからいいよ」と声を掛けた。
その言葉に礼を言うと、出かける準備を始めた。
全てが整うと、丁度、家を出る時間になった。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「うん」
「あ、美夜。私、今日は六時には帰ってくるから、夕飯作っておくよ」
「わかった。ありがとう。じゃあ、行ってきます」
美夜は玄関のドアを静かに閉め、鍵を掛けると階段を下りて、空を仰ぎ見る。
だいぶ、朝日が辺りを明るくしていた。
足早にバス停へ向かうと、タイミング良くバスが来ていて、歩いても良かったが、初日から遅刻はしたくなかった事と、早く行きたいという気持ちが勝り、バスに乗ることにした。
バスは土曜日ということもあってか、人が数える程度しか乗っていない。
三分もたたず、隣のバス停に到着。
美夜はバスを降りると、商店街のアーケードを潜った。まだ、どの店もシャッターが閉まっていて、静まり返っている。
足早にバス停に向かう数人の人とすれ違いながら、反対方向へ向かった。
アーケードを出ると、Lisが見えた。
裏口へ回り、昨日教わったドアに付いたキーボタンの暗号を押し、ドアを開ける。
しん、と静まり返った短い廊下に、美夜の靴音だけが響く。
事務所のドアをノックすると、中から栄の声が聞こえ、ドアを押し開けた。
「失礼します。おはようございま」
「おはようございます。早かったね」
栄はデスクから顔を上げ、微笑んだ。
「今日から、よろしくお願いします」
美夜が深くお辞儀をすると、栄は椅子から立ち上がって「こちらこそ、よろしくお願いします」と挨拶をした。
「えっと、そうか。まず、タイムカードね」
栄は美夜を連れ、廊下に出た。
事務所のドアの脇に、小さなキャビネットが置かれており、そこにタイムカードの機械と、カードがケースに入って置かれていた。
「タイムカードはここ。着替えてから押してください。帰りは、着替える前に。使い方分かるかな?」
美夜はタイムカードの機械を見て「分かります」と答えると、栄は顎を引いた。
「あ、あとコスチュームを渡さなきゃいけないのか。サイズはS?Mでも大丈夫かな?」
「あ、じゃあ、Sでお願いします」
「了解。じゃあ、一緒に来て下さい」
「はい」
美夜は栄の後について歩いた。
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