第33話 よろしくお願いします
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美夜は何が何だかという顔で、それでも働けるのかも知れないと思うと、自然に顔が綻ぶ。
「はい!よろしくお願いします!」
と返事をすると、美夜は、何だか一気に緊張の糸が切れた気がした。すると、周りを見る視野が広がったのか、一人呆れた様に笑う栄を見て、思わず美夜まで笑ってしまった。店では大人の色香を醸し出していたはずのギャルソンが、今はただの格好いいお兄さんになっていることが、妙に可笑しかった。
「まぁ、コウが良いなら、いっかぁ……」
栄は、ため息混じりで光に呟くと、美夜に向き直った。
「えっと……。そうだ、大事なことを話さなきゃね。お給料のことだけど。失礼だけど、前の会社はいくらぐらいだったかな?」
美夜は正直に月給で貰っていた金額を伝えると、栄は方眉を上げ、困ったようにこめかみを掻いた。
「言いづらい話しなんだけど、うちはそんなにお給料は良くないんだ……。ここはまだ今年で三年目なんです。だから、まだ利益も少なくてね。それに、今回は正社員の募集でもないから、色々厳しいかも知れないよ?それでも、うちで働きたいかい?」
「はい。構いません」
「正直、製造もやるなら、労働時間があって無いようなものなんだけど……それでも、大丈夫?」
「今までも、あって無いようなものでしたから、平気です」
その返事を聞くと、栄は決心が着いたように頷いた。そして、時給がいくらなのかを伝えると、美夜は「分かりました」と力強く返事をした。
確かに、決して良い金額ではないかも知れないが、田舎の喫茶店や書店の時給を考えると、遥かに良い金額だった。
「じゃあ、よろしく」
栄がそう言うと、美夜は満面の笑みで、元気よく「よろしくお願いします」と言い、頭を下げた。勢いを付けすぎて、テーブルに頭を思い切りぶつけながら。
「だ、大丈夫?」と言いながらも、栄は笑いを堪える。
美夜は真っ赤な顔をして、チラリと二人を見る。
栄は笑いながら美夜を見て、光は両手で顔を覆い、肩を揺らして笑っていた。
美夜は額を押さえ、照れ隠しのように、声を立てて笑った。
*******
家に帰ると、美夜は鼻歌交じりに夕飯の支度をはじめる。
仕事が決まった事で、精神的に落ち着いた事もあり、久しぶりに手の込んだ料理を作りたくなったのだ。
夕飯の支度が出来上がると同時に、タイミング良く美月が帰ってきた。
台所から漂ってくる美味しそうな香りに、玄関から真っ直ぐリビングに入ってきた美月は、感嘆の声を上げる。
「うわあ、美味しそう!あ、もしかして合格したの?」
「そうなの!明日からなの!」
美夜は嬉しそうに美月に話しをした。
夕飯を食べながら、美夜はLisの店員について話しをした。
美夜が元気に話す様子を、美月は嬉しそうに相槌を打ちながら聞く。そして、あの美味しいケーキの作り手が、「本屋の綺麗なお兄さん」だと知ると、美月は驚いた顔で「へぇ!なるほどねぇ!」と頷いた。
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