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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
1 はじまり

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30/201

第29話 シェフパティシエ

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 翌日、美夜は履歴書を持って商店街へ向かった。腕時計を見ると、指定の時間には少し早すぎたので、商店街内をブラブラしながら、時間になるのを待つ事にした。


 面接時間五分前になり、そろそろ店に向かおうと足を向けると、足が震えだした。

 掌にはじっとりと汗が滲み、目の前がぼやけ始める。今までにない緊張感が、急に襲ってきたのだ。

 前の会社の面接でさえ、ここまで緊張はしなかった。美夜は目を閉じて自分に言い聞かせる。


 大丈夫、落ち着いて。緊張していたら、何もアピール出来なかったって、後悔するだけよ。さあ、顔を上げて。大丈夫。


 深呼吸をすると、目を開き、顔を上げる。

 先程まで緊張して、目の前がぼやけて見えていたが、今は、はっきりと見える。

 美夜は「行こう」と小さく口の中で呟くと、Lisに向かって歩き出した。

 一階の本屋に足を踏み入れ、レジカウンターへ向かう。相変わらず、店内には人がいない。こんなに人が来なくて大丈夫なのだろうかと、一抹の不安を覚えたが、今はそれどころではないと、頭を切り換えた。

 カウンターに置かれているベルを二度鳴らす。暫くして、例の前髪の長い美青年が現れた。


「いらっしゃいませ」 


 青年は無表情で、相変わらず覇気のない声で言う。


「あの、今日二時から面接をお願いしている、中西です」


 声が若干上擦ってはいたが、はっきりと言うことは出来た。青年は「ああ」と言い、カウンターから出てきた。

 美夜は驚いて立ち尽くしていると、青年は美夜を追い越し、店のドアを閉めに行った。

 ドアの鍵を閉め、オープンと書かれた札を裏返し、クローズにする。

 くるりと振り向き、戻ってくると「着いてきて」と言い、カウンター奥の暖簾を潜っていった。

 美夜は急いで青年の後を追い、レジカウンターの奥にある暖簾を潜る。

 暖簾の奥には、左右に三つのドアがあった。真っ直ぐ突き当たりにあるドアは、外に出る為の裏口のようだった。

 青年は左側にある真ん中のドアを開け、電気を付けると、「ここでちょっと待ってて」と言って、美夜に中に入るよう手で促した。

 美夜は軽く頭を下げ、中に入る。


「座って待ってて」


 青年はドアを閉めて出て行ってしまった。突き当たりにあるドアが閉まる音が響く。

 美夜は、室内をさっと見回した。

 どうやら休憩室のようで、入って直ぐ右手側に手洗い場があり、室内にはパイプ椅子が四脚と長テーブル、テレビが置かれているだけだった。

 美夜は手前の椅子を引き、ゆっくり座った。パイプ椅子の軋む音が室内に虚しく響く。

 二分ほど待つと、先ほどの青年と、オーナーの男性が部屋に入ってきた。


「こんにちは、ご苦労様です」


 ギャルソンの格好をしたオーナーがにこやかに言った。

 美夜は立ち上がって「よろしくお願いします」と、お辞儀をする。

 オーナーと青年は窓際の席に揃って座り「よろしくお願いします」と穏やかな声色で言った。


「ええっと、まずは自己紹介。私は、ここのオーナーの沖田栄です。『栄える』と書いてハルと言います。で、こっちが、うちのシェフパティシエの沖田(ひかる)です」


 栄に紹介された青年は小さく頭を下げた。

 美夜は驚いた顔で青年を見つめたが、直ぐに我に返る。


 「中西美夜です、よろしくお願いします」


 と、勢いよく頭を下げた。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


同時進行でbooks & cafeが舞台の現代恋愛小説

『光の或る方へ』更新中!

https://book1.adouzi.eu.org/n0998hv/


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