第26話 働きたいです
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美夜がレジでお金を払っていると、突然、美月が美夜の背中をばしばしと叩いた。
「なに?痛いよ、みづ……」
美夜は美月が指を差している壁を見つめ、勢い良く近づく。
読み間違いでなければ『スタッフ募集』の文字が、目の前にある。
美夜は美月を振り向き、顔を見合わせた。二人ともよく似た輝いた顔で頷きあうと、レジに向き直り、「ここで働きたいです」と勢い良く言った。
レジで釣り銭を用意していた女性店員は、驚いた顔をし、瞬きを繰り返し、小さく顎を引く。
「あ、ああ、はい。……バイトになるけど、いいのかしら?」
美夜と美月を交互に見ると、「お二人とも?」と訊いた。
「いえ、働きたいのはこの子。製菓学校も出てるし、製造での経験もあります」
美月が勢い良く言った。
女性店員は美月の勢いに若干尻込みしつつ、「はあ……」と数回頷く。
「そう、わかったわ。でも、悪いんだけど、今オーナーが外出中で……」
と話していると、店のドアが開き、呼び鈴がなった。
女性店員は「いらっしゃいませ」と言いかけたが、すぐに「あ、ハル君」と、助けを求めるように、入ってきた人物に声を掛けた。入ってきたのは、前回、美夜の接客をしたギャルソンだった。美夜は、ギャルソンを見上げながら、この間と雰囲気が違うと感じた。が、何が違うのかは、よく分からない。
ギャルソンは、レジ前にいる美夜と美月を見ると「あ、失礼いたしました。いらっしゃいませ」と笑顔を見せる。女性店員とは違う、営業スマイルだ。
女性店員は店内に入ってきたギャルソンに、嬉しそうに声をかける。
「ハル君、こちらの方が、バイト希望ですって」
ハルと呼ばれたギャルソンが、荷物を持ってカウンターに回ると、店内に残っていた奥様達の方から、小さな悲鳴のような声が聞こえてきた。
美夜はちらりと奥様達に目を向けると、奥様達は微かに頬を赤らめ、声を潜め話しをしながら、彼をちらちらと見ている。人気なのだなと、ふと過ったが、ギャルソンの声にすぐ意識はそちらへ集中した。
「それはそれは、ありがとうございます」
と言うと、「えっと」と言いながら、美夜と美月を交互に見ている。
美夜は慌てて小さく手をあげた。
「あ、私です。ここで働きたいんです」
栄は美夜を見つめると、小さく首をかしげ、「ああ!」と大声を上げた。
「一週間前の!また来てくれたんですね。ありがとうございます」
先ほどの営業スマイルとは違う、人懐っこい笑顔を向けた。
女性店員は栄の顔と美夜の顔を交互に見る。栄はそれに気が付き、「ほら、コウが……」と囁くように言うと、女性店員も「ああ」と言って満面の笑みで、美夜に微笑みかけた。
美夜は小首をかしげ、不思議そうに小さく微笑んだ。
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